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神奈川県発、アート・カルチャーメディア「マグカル」。ミュージカル・音楽・演劇・映画など県内のアート情報を発信します。

神奈川・立ち呑み文化放談 Vol.3「遊歩とブルース」

神奈川県内の立ち呑み屋を舞台に繰り広げられる文化放談シリーズ Vol.3

昨今、密かなブームでもある立ち呑み。

「神奈川・立ち呑み文化放談」は、立ち呑み文化の地域性や時代性も視野にいれつつ、神奈川の立ち呑み事情を探るとともに、そこで繰り広げられるおしゃ べりも楽しんでいただく企画です。

ナビゲーターには、編集者・フリーランサーの藤原ちからさん、そしてゲストには毎回多ジャンルのアーティストをお迎え し、テーマを変えてお送りします。シリーズ3回目となる今回は、11月11日の立ち呑みの日にちなんでスペシャルゲストに批評家・音楽家の大谷能生さんをお招きしてお送りします。横浜「本牧」を舞台に、今シリーズ初の角打ち(※酒屋の店頭で呑める店)「鈴木屋酒店」さんから「立ち呑み処 ヤマシヅ」さんへとハシゴしながら放談しました。いわゆるアーティストインタビューとはひと味違う脱線あり・ハプニングありの放談と、県内のディープな立ち呑み屋の魅力をお楽しみください。

2014.11.11  Text:井上 明子  Photo:西野 正将

藤原ちから|Chikara FUJIWARA
編集者、批評家、フリーランサー。BricolaQ主宰。1977年高知市生まれ。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、武蔵野美術大学広報誌「mauleaf」、世田谷パブリックシアター「キャロマグ」などの編集を担当。辻本力との共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。徳永京子との共著に『演劇最強論』(飛鳥新社)。現在は横浜在住。演劇センターFの立ち上げに関わる。

大谷能生|Yoshio OHTANI
1972年生まれの批評家、音楽家。96年~02年まで音楽批評誌「Espresso」を編集・執筆。以降も、菊地成孔との共著『憂鬱と官能を教えた学校』や、単著の『貧しい音楽』『散文世界の散漫な散策 二〇世紀の批評を読む』を上梓するなど、積極的に執筆活動を行う。その傍ら、音楽家としても精力的に活動し、sim、masなど多くのグループに参加。ソロ・アルバム『「河岸忘日抄」より』、『舞台のための音楽2』をHEADZから、『Jazz Abstractions』をBlackSmokerからリリース。映画『乱暴と待機』では音楽を手がけており、「相対性理論と大谷能生」名義で主題歌も担当した。演劇やコンテンポラリー・ダンスの舞台などを含め、さまざまなセッションで演奏を行っている。



テーマ


鈴木屋酒店

百合子さん(鈴木屋のママ):はい、これポールさんがくれたやつ。

鈴木屋酒店

ここ鈴木屋酒店では、常連のポールさんが提供してくれるつまみが常備され、無料でお客さんに振る舞われます。


藤原:わー!ありがとうございます。

大谷:なにこれ?!マーガリン…?

百合子:チーズよ。

本題の前に、まずは雑談から・・・



藤原:まずは角打ちで景気付けに一杯いきましょう……!
角打ちは地元の人たちの憩いの場なので、あんまりドヤドヤ押しかけるものではないんですけど、今回は鈴木屋さんのご厚意に甘えてお邪魔しました。

実は何年か前に大谷さんに、横浜橋の浅見屋さんに連れてってもらったのが、神奈川県内で行った初めての角打ちだったんですけど、横浜とか横須賀って、まだかなり角打ちが残ってますよね。

大谷:横浜っていってもまぁ、広うござんすで。まだ元気な酒屋さんも多いので。

藤原:今回は僕と大谷さんが「本牧アートプロジェクト2014」に参加することもあり、本牧を舞台にしました。

本牧は、元町から麦田トンネル(山手隧道)を南に超えたところにある町で、電車が通っていない。メインの交通手段はバスになりますね。1982年まで米軍に接収されていた。その土地が返還されて、マイカル本牧ができたんですけど……今回のアートプロジェクトのメイン会場は、そのマイカルにかつてあった旧・映画館。大谷さんも行ってたそうですね。

大谷:うん。

藤原:その話はタブロイド版「本牧タイムズ」に書いていただいたので、そちらをお読みいただくとして。



本牧タイムズ
本牧アートプロジェクトが発行する「本牧タイムズ」 ※創刊号はこちら


藤原:僕が最初に本牧を意識したのは……。覚えてますかね……? 大谷さんが六本木で川端康成の「山の音」を演出された時に、帰りに横浜まで車で送ってもらったじゃないですか。

大谷:そっか、あの時、畳とかを運んだからね。

藤原:それで桜木町あたりまで来た時に、「この道をまっすぐ行くと本牧なんだよ」って大谷さんがボソッと言って。当時の僕は下手したら「ほんまき」って読みかねないくらい何も知らなかったんだけど、もちろん音としての「ほんもく」は耳にしたことがあって、歌とか……例えばクレイジー・ケン・バンドですね。そこで、ああ、この先があの本牧なのか……と初めてイメージが繋がったんです。



鈴木屋酒店

4時をまわると鈴木屋さんは常連さんがバラバラと集まってきます。その日は昭和の話で盛り上がっていました。


常連さんA:昭和62年が最後だろ?

大谷:いや、昭和64年の1月に天皇が亡くなったから、64が最後ですね。最後の昭和生まれはもう26歳とかでしょ。もう、世の中の半分くらいが平成生まれですよ。

百合子さん:あなたたちは昭和?

大谷:昭和40年代です。

藤原:僕は50年代。

常連さんB:え? 昭和なの?? なんだ~、ママ、俺だけ歳とってるわけじゃねぇな(笑)。



藤原・大谷


大谷:最近思うけど、自分が子どもの頃に想定していたキャリアのイメージを物差しにすると、今50歳の人がかつての40歳、40歳の人が30歳ていう感じに、10歳マイナスすると大体イメージに合うんだよね。まあ適当な話ではございますけどもね。ミュージシャンも結構そうで、今は30歳くらいでやっと自分の音楽やり始めるっていう人が多いんだけど、30歳って、ビートルズが解散したくらいの年齢ですからね。

藤原:ああー、それはあるかも。バカボンのパパが41歳というのが未だに信じられなくて。だから大谷さんも不惑どころかバカボンのパパなのだを超えちゃったわけですよね。

あ、すいませーん。トマトジュースと焼酎で割りたいです。

百合子さん:はい、230円。

藤原:そういえば、最近夜な夜な、アーサー王物語(※)読んでるんですよ。

※アーサー王物語:中世ヨーロッパの騎士道物語の一つ。「円卓の騎士」「聖杯探求」「トリスタンとイゾルデ」など、神話や伝承に基づく英雄譚・奇蹟譚がつまったファンタジー。1400年代に、それまで散在していた物語を、トマス・マロリーが一つにまとめたまとめたものが一般的には知られている。

大谷:なんで?

藤原:なんかヤケになって山手の古本屋で衝動買いした中にその研究書を見つけて。アーサー王と円卓の騎士の話は小さい頃好きだったんですけど、この研究書の文体がまあハチャメチャで魅力的というか、筆者が思いつくままに書いてる感じがすごくいい。同じ話が何度もループするから、おじいちゃんの話を聴いてるような気分なんですよね。

で、その本の中に、かつてイギリスの上流階級ではフランス語を喋っていた時期があったとかいう話も載ってて、それって有名なんですかね? 自分の無知のせいかもだけど、へー、意外!って思ったんですよ。というのは映画の『マイ・フェア・レディー』でも、オードリー・ヘプバーンが演じたおてんばで貧しい娘が、正しい英語を勉強するって話があったじゃないですか。格調高い、伝統的な英語を。

大谷:「スペインでは主に雨は平野に降る」みたいな?

藤原:ん? なんでしたっけそれ?

大谷:The rain in Spain stays mainly in the plane.

藤原:あ、それだー。つまり、なまむぎなまごめなまたまご、みたいな。
それで思い出したんですけど、ヘプバーンにまつわるエピソードがあって。前に、大谷さんちの猫シッターをやったことあるじゃないですか。

大谷:あぁ、お願いしたね。どこかのツアーに行ってた時かな。

藤原:で、夜に大谷さんちを抜け出して黄金町までふらふら散歩してみたら、もうそのお店なくなっちゃったんですけど、京急の高架下のあたりに権兵衛っていうラーメンも出してる呑み屋があったんですよ。カウンターにいた泥酔したおじさんが、まあここでは口にできないひどいスラングを投げかけて来てですね。でも、おかみさんがそれを軽くあしらってて、すごーいと思ったんですけど、そのおかみさんが映画好きみたいで、なんかのはずみでヘプバーンの話になって楽しい時間を過ごしたんです。……で、その夜に、ここらに引っ越してこよう、と心に決めました。

大谷:え、なんで?

藤原:なんででしょうね。……大谷さんは横浜に住んでどれくらいですか?

大谷:20ウン年かなあ。八戸から出てきて、最初は東京の友達の家を点々としたこともあったんだけどね。

藤原:それからはずっと横浜ですよね。東京に住みたいとは思わなかったんですか?

大谷:思わないねえ。



ピクルスとハラペーニョ

百合子さんが常連客・ポールさん特性のピクルスとハラペーニョを出してくれました。


藤原:いつもね、ポールさんがおいしいものをいっぱい持ってくるんですよ。

ポール:ママ、ちっちゃいスプーン出して!つまむのスプーンの方がいいから。

常連さんA:お兄さんこれ、初めて食べたの?

大谷:うん、初めて食べた。

常連さんA:自分らはね、毎週食べてる。だから長生きしてるんだよ(笑)。



藤原・大谷

夕方5時をまわるとたくさんの常連さんが集まりそれぞれの会話を楽しんでいます。


常連さんB:また台風くるらしいよ

百合子さん:やだねぇ。

常連さんB:やんなっちゃうよ、もう。



常連さん


大谷:ポールは、仕事は何時まで?

ポール:2時くらいかな。サラリーマン残業はなし。仕事は仕事。

大谷:仕事は仕事。残業じゃないんだ?

百合子さん:ちっちゃな、会社なのよ。

百合子さん・ポール:(声をあわせて) そーねー



鈴木屋酒店


外にいる常連さん:俺、毎日ここに来て呑んでるの。Googleアースでこの辺みてみ、俺写ってるから。

スタッフ:え!?もう世界デビューじゃないですか!!




たのしい会話がとびかう中、後ろ髪ひかれつつも二軒目「立ち呑み処 ヤマシヅ」さんへ・・・。

鈴木屋酒店のみなさんと記念撮影

その前に鈴木屋酒店のみなさんと、記念撮影させていただきました!



▶ 次は、2軒目
ヤマシヅ
ヤマシヅ


こちらのお店は看板には“立ち呑み”とありますが、実際はイスがあって座れます。近隣の市場や葉山、北海道などから仕入れる新鮮な食材を、驚くべき価格で提供している隠れた名店です。




とりあえず、ビールで乾杯!

藤原・大谷


マスター:どうです?

大谷・藤原:うまい!!!

大谷:これいくらですか?

マスター:300円。

大谷:え、これ、300円はヤバいでしょー(笑)



ヤマシヅ

ヤマシヅは全てのお料理・飲み物が300円なんです!


大谷:いや、まじうまいな、これ…。すばらしい。

マスター:おいしいでしょ。コレ(泡)がたたないとだめなんですよ。
うちはサントリーからマイスターの称号(※)もらってるから。
※プレミアム・モルツを提供する飲食店の中でも高い水準をクリアしたマイスターにのみ贈られる称号です。

藤原:肉食べましょう。大黒ふ頭の屠殺場から、新鮮な肉が手に入るらしいです。

マスター:木曜限定のレバーに、あとハツもありますよ。

大谷:レバーは生でいけるの?

マスター:うん、生でいける。(注:豚レバーです。)(注:これは2014年11月当時の情報です。)

藤原:じゃあまず、レバ刺しでいきましょうか。あとね、葉山のワカメもオススメです。

大谷:葉山産 タコ、すごく食べたいです。

藤原:じゃあ刺身で。

マスター:はい、まずはレバ刺しね。とりあえず一口食べてみて。



木曜限定のレバー

木曜限定のレバーは大黒ふ頭の屠殺場から仕入れているそうです!


大谷・藤原:すばらしい。

マスター:あまいでしょ?

大谷:歯ごたえがありますね。血の味がうまい…

マスター:全品300円ですからね。

大谷:え!! もしかして、値段変えるのめんどくさいだけ?? ちゃんと原価考えないと(笑)。

藤原:ちなみにマスターの息子さんは、伊勢佐木町で2号店をやってるらしいですよ。

大谷:へぇー。近所なんで、ちょいと行ってみます。



大谷能生さん



藤原:大谷さんって、謎なのは、「モダンジャズ」とかのジャンルは意識してるのに、決してジャンルの中では生きてないですよね。かなり巨視的な時間を生きている感じがする。

大谷:それはジャンルっていうのが自分の外側だからさ。演劇でも、映画でも、小説でも、音楽でも、批評でも、自分と外側との緊張関係っていうのは当然あるし、その中でひとつずついいものをつくっていきたいと思ってるだけだよ。

自分がやってることが、いろんな形でカテゴライズされることはむしろウェルカムで、人から見て「こうなんです」って言われて「あ、そうなんだ」て感じかなぁ。

藤原:その感覚はなんとなくわかるんですけど、世の中的には珍しいかも。

大谷:世の中っていうのはいろいろ大変なんで、世の中は世の中でやってくださいよ!(笑)

藤原:あい、わかりやした~

大谷:あ、マスター、日本酒もらえます?

マスター:日本酒は大徳利で松竹梅なんですよ。

大谷:あ…でも、焼酎の方が合いそうな気がするなぁ…。

マスター:焼酎は「わんこ(麦)」と「なんこ(芋)」。

大谷:いや…でもやっぱり…… 熱燗を熱めにして、大徳利で!

マスター:はい。



藤原・大谷

近代に登場した「遊歩者」



大谷:えっと、そろそろ話をベンヤミンに移してもいいですけど。今日のテーマなんでしょ?

藤原:しましょう!

大谷:ベンヤミンは20世紀の人だけど、国とか人民の生産力というものをどういうふうにユニットしていくかという時代に、もう一度そこを考え直してみようと。それでどうしたかというと、彼は19世紀の首都パリ(※1)のたくさんの風俗を集めることから始めたんですよね。それはすごく大事で、そのことによって情報量が増えていったんですよ。ちなみに、それまでの情報っていうのは極端に言うと、歌だったわけ。つまり曲で覚えるの。でも19世紀のパリは、全然知らない他の国からどんどん情報が入ってきて、それに反応しなきゃいけない状況なわけで、情報は通信、つまりデータだよね……になってくる。その状況下で、ある種の人間性を保つにはどうすればいいかっていう話でボードレール(※2)を取り上げているわけで。

※1 世界の富がヨーロッパへ、ヨーロッパの富がフランスへ、フランスの富はパリへと集中した時代のこと。
※2 ベンヤミンは『パサージュ論』で、最も19世紀を体現していた存在としてボードレールを重用視しています。


藤原:なるほど。そこで情報のあいだを漂っていく「遊歩者」という態度が登場すると。

大谷:つまり「遊歩」は近代のものだっていうことを彼は言っていて。そこと今現在の話をどう繋ぐかっていうのは、簡単にはいかないわけよ。



藤原・大谷


藤原:えっと今日のこの放談は、「遊歩とブルース」っていうテーマを仮に設定していて、これを大谷能生にぶつけるのは無茶だ、つまり弘法大師に筆を投げつけるようなものだとは思ったんですけど。それでもあえて取り上げたのは、今「本牧アートプロジェクト2014」参加プログラムの『演劇クエスト』をつくっている中で、リサーチのために本牧を歩きますよね。それこそもうほんとに歩きまわって、バスの一日乗車券もいったい何枚買ったかわからない。そしてお酒も呑みまくっている(笑)。でも歩けばそれだけ知識が増えて「わかる」かといえばそんなことはなくて、むしろますますわからなくなってくる……。この状況をなんとかしてほしい……

大谷:知らねえよ!(笑)

藤原:……というのは冗談ですけど、つまりどんどん町に魅入られていく。言い方を変えると、呑み込まれていってしまう。そういう中で、「遊歩」ってどういう感覚だったっけ、ともう一度考え直したかったんです。特にベンヤミンが『パサージュ論』の中で、観光客と遊歩者をはっきり区別しているのは大事だと思ってます。歴史的なモニュメントを、スタンプラリーのように回っていく観光的な態度は、まったく遊歩ではないんです。

大谷:うん。当然その通りなんだけど、本牧をどう歩くかっていう時に、1850年くらいの本牧には何もなかったっていう話を、どれだけリアリティを持って歩く人に思わせるのか。

藤原:横浜開港以前は相当な田舎だったらしいですね。

大谷:でも「遊歩」っていう概念は、基本的には19世紀パリに登場したショッピングモールのアーケード(=パサージュ)ありきの考え方なんですよ。だからそれは、本牧で言うなれば、マイカル本牧(※)があっての話なんですよ。

※マイカル本牧は、バブル景気絶頂期の1989年に開業した大型複合ショッピングセンターです。ミッソーニやヒューゴ・ボスなどの高級ブランドのブティックや高級レストランも入居しており、同館内の噴水や水路も有名でした。今は閉店してイオンモールになっています。

つまり『パサージュ論』は、町を歩く時に、都市の中でウィンドウ・ショッピングする人たちをどう捉えればいいかっていう話なのよ。ところが今は、ウィンドウ・ショッピングなんて当たり前になっている人たちがたくさんいる。では今あらためて「遊歩者」と言う時にどこを歩くのか。例えば田園なのか、それとも都市なのか。いくつかの話がイメージできるわけですよ(※1)。そのうちのひとつ、ルソーの田園都市の考え方(※2)、ベンヤミンの中に潜在的に入ってる。

※1 これまでにパリを舞台に、散策をテーマにした作品が多く生み出されました。その代表作に、ルソー『孤独な散歩者の夢想』、ベンヤミン『パサージュ論』、ブルトン『ナジャ』などがあげられます。
※2 ルソーは、文明の殻を脱ぎ捨て、少しでも自然人の状態を取り戻すことを重んじました。


藤原:それは「孤独な散歩者」としてのルソーが、っていうことですよね?

大谷:ルソーの、田園を歩く時の「人間は自然に戻っているんだ」という考え方を批判的に継承する形で、ベンヤミンの『パサージュ論』がある。ルソーの考え方じゃうまくいかないんじゃないか、っていうのがベンヤミンのポイントなの。そしてアメリカに行くともっとそうなるだろうっていう彼の予感があって、そこからが俺らの世界でしょ。

藤原:新興の資本主義社会であるアメリカに、ということですか。



藤原・大谷


大谷:『パサージュ論』が想定する「遊歩者=孤独な散歩者」は完全にルソーからの引用だし、当時ベンヤミンを読んでる人は、当然ルソーの話を踏まえて読んでいると思うんだよね。ルソーの散歩者を19世紀のパリでやる場合どうなるかっていうことが、かなりビシビシビシってくるわけですよ。

ベンヤミンとアメリカ



大谷:そしてベンヤミンはアメリカに行ってないんだよね。ヨーロッパの中でどのような形でアメリカ的なものと付き合うのか、には限界がある。例えばジャズ・ミュージックとかね。

藤原:あぁ、そこでジャズが彼岸に登場するんですね。

大谷:ベンヤミンは1920年代~40年代に、ヨーロッパにいてアメリカ的なものを考えたわけ。だから俺が思うには、ヨーロッパ的思考の限界はあるなってことで。アメリカで何が起きたのかということに関しては、ベンヤミンはタッチしないままで死んじゃったわけ。めちゃくちゃアメリカが大好きだったのに、アメリカに一度も行けないまま死んじゃう。そこに断絶があるんですよ。もちろん亡命した後があったなら、何らかの展開はあったかもしれないけど。(※)

※ベンヤミンは第2次世界大戦中、ナチスの追っ手から逃亡中のピレネー山中で服毒自殺を遂げたとされています。1940年没。

だからベンヤミンは、ヨーロッパにおけるある種の仕事をした最後の人だと思っていて、ベンヤミン以降がアメリカになってくる。彼自身は、時代がズレてアメリカに行くことができなかった。だから、今それらが終わった後に「遊歩者」とか言うのは簡単だけど、俺はあんまり言わないようにしてるの。

藤原:あー! 今のですごいわかりました。

確かに「遊歩」っていう言葉を安易に使うことにはためらいがあって、何かそこに自己満足的な陶酔を感じちゃうのはいちばんよろしくないとは思ってるんです。今回の『演劇クエスト』でチームを組んでいる劇作家の石神夏希さんや、ドラマトゥルクの落 雅季子とも、本牧編では参加者自身の記憶とか内省とかにあまり寄りかからないようにしよう、という話はしてるんですよ。
ところであんまり関係ないかもですけど、僕はアメリカに行ったことがなくて、かつ、行きたいとも思わないんですよ。これは、なんなんだろう…と思っていて。

大谷:そんなの知らねえよ、たまたまじゃない?(笑)

藤原:いや、たまたまじゃないんですよ。やっぱり行きたいと思わないんですよね。アメリカ横断ウルトラクイズも今は昔……。

大谷:いや、でもね、俺だってどこにも行きたくはないけど、行けと言われれば行くから。
行きたくないのにコロンビアとかいきますよ!(笑)



藤原・大谷


藤原:アメリカへの夢といえば、カフカもそうですね。

大谷:ヨーロッパの方々は外に出られないのよ。「会社やめられない、どこか旅にも出られない」っていうのがカフカの文学でしょ。

藤原:『変身』とか? 個人的にはむしろ「出られない」話より、「出ちゃえばいい」と思ってることもあって、カフカだと未完に終わった『城』が気になります。リサーチで本牧を歩いてた時にも、うわーまさにこれ「城」だな、みたいな瞬間があったんですよね……。まあこの話はネタバレになっちゃうからやめとこ。



遊歩とブルース



藤原:で、弘法に筆を投げるシリーズその2ということで、「ブルース」の話もしてみたいと思ってまして……。音楽的な厳密な定義というより、哀愁を感じさせる歌、くらいの意味で話を始めてみたいんですけど。

例えばザ・ゴールデン・カップスに「本牧ブルース」という曲がありますし、あと阿久悠作詞の「本牧メルヘン」も染み入る曲ですね。「本牧で死んだ娘はカモメになったよ~♪」とか……。あと「伊勢佐木町ブルース」で有名な青江三奈にもやっぱり「本牧ブルース」って曲があって、これの歌詞がやばい。「あなた誰? ここは本牧ブルースよ~♪」……




青江三奈 『本牧ブルース』


大谷:えっと、これは繰り返しになるけど、「遊歩」の前提は都市の資本蓄積、簡単に言うとパリのウィンドウショッピングなんですよね。だから『パサージュ論』においては、19世紀がどういう時代だったのかということを、20世紀の頭で考えることが大事なわけ。だから20世紀の前半までは歴史上に存在しなかったアメリカは当然出てこない。そしてブルースも出てくるわけがない。

だから「遊歩とブルース」って言われても、俺は絶対繋がらないなと思ったわけ。古典で言うとさ、「紫式部と鴨長明」みたいに言っちゃうのと一緒で、「全然違うだろ、その2人は!」っていうくらいの勢いを感じるわけですよ。

藤原:「源氏物語と方丈記」ってことですね!

大谷:それに「遊歩」もあえて言わなくていいと思うんだけどなぁ。

藤原:や、なんで自分が「遊歩」にこだわっているかというと、さっきも言ったように『パサージュ論』は観光客とは違うものとして遊歩者を想定していますよね。別に、ベンヤミンが書いてることを金科玉条のようにあがめたてまつるつもりはないんですけど、ただ、『演劇クエスト』は観光ではなくて遊歩だという意識があって。結果的に観光とかまちおこしに使えるかもしれないし、その効用を否定するつもりはないんですけど。

『演劇クエスト』で町に出て、何を感じるかは参加者次第ですけど、そこで遊歩するフィールドは、ウインドウ・ショッピングだけじゃない。19世紀のパリにしても、富と商品のみに象徴されるわけではなくて、暗くて淫靡でいかがわしい部分も生み出していた。だからその遊歩のフィールドは、市街地だったり、郊外だったり、海だったり、山だったり、田園だったりしていいと自分は考えていて。感覚を解放していろいろなものを見て感じてくれれば。同行者に気を使う必要もないんで。基本的には、ひとりで歩くのを推奨してます。それは「孤独な散歩者」であるルソーから継承している部分もあるのかもしれない。その孤独は、人間に許された最後の自由だと思うんで。



藤原・大谷


マスター:やっとサザエが解凍できたよ。とりあえず、そのままで食べてみてください。味ついてるんですよ。

藤原:わ、やったー。

大谷:あーー、これ、日本酒が合うね。



サザエ


大谷:こんなにいっぱいサザエの肝食ってやばくないですか?

マスター:はっはっは(笑)

藤原:磯の香りがすごくいいな~

大谷:(マスターにむかって)今、結構めんどうくさい話をしてたんですけど、もうなんか、どうでもいいかなって思えてもきた(笑)。

藤原:ベンヤミンベンヤミン、って言いすぎて何かの呪文みたいになってきましたね……(笑)。こんなに「遊歩」って言ってる人いるのかな~

大谷:そんなこといったら、チャーリー・パーカーの下降ラインが5度ラインだなんてことも誰も話してないよ、別に…(笑)

藤原:ふふふ。ところでいちおうこの放談、本牧アートプロジェクトの宣伝にもしたいんですけど、大谷さんがキュレーションする『本牧の夜』はどんな感じなんですか?

大谷:あぁ、もう時間がない。今ね、家に帰って早くメールチェックしたい…。

藤原:えっ?! いや、今日は呑みましょうよ。

大谷:いやいや、俺は帰りますよ!(笑)

藤原:もうちょっと呑みましょうよ~

大谷:あ、マスター、11月22~24日に本牧の旧・映画館でライブをやらせていただくことになっているので、今度チラシを持ってきますね。生演奏レッスン付でハマジル踊るとかもあります。

藤原:3日間、毎晩違う内容で、初日の菊地成孔さんをはじめ豪華ゲストが……『演劇クエスト』から『本牧の夜』へのハシゴもできますよ!

マスター:あ、帰る前に、サインちょうだい。お店に飾るから。

大谷・藤原:えー、まじっすか?



サインを書くお二人

サインを書くお二人

サイン 藤原ちから


大谷さんにフラれた藤原さんは、本牧の某バーに消えていきましたが、すでにしどろもどろで、サインを書いたこともまるで覚えていなかったそうです。











今回いただいたメニューはこちら

今回いただいたメニュー


そして、今日のオススメは

今日のおすすめ
※豚レバーです


木曜に限らず、こちらもオススメです。

葉山産ワカメ


《お店の情報》
一軒目 鈴木屋酒店

横浜市中区本牧原28−11
TEL:045-622-8340
営業時間:12:00−19:00頃
定休日:不定休
アクセス:横浜市営バス 本牧原より徒歩3分

二軒目 立ち呑み処 ヤマシヅ
横浜市中区本牧町2-313-7 1F
TEL:045-621-9855
営業時間:17:00~24:00
定休日:月曜日
アクセス:横浜市営バス 小港より徒歩3分




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