ベニスバナー-03

「第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」レポート 第3弾

「動員50万人を超え閉幕―「コラテラル・イベント」にみられたアジアの動向と、会期終了後のビエンナーレの楽しみ方」

写真:最終日に行われた記者会見の様子
Photo by Andrea Avezzù
Courtesy: la Biennale di Venezia

○ 会期約7ヶ月間の総入場者数
  501,502人/前回2013年475,000人
  ※会期最終日に公式発表された内容はホームボタンから
 

2016.1.8 公開

「動員50万人を超え閉幕 ー『コラテラル・イベント』にみられたアジアの動向と、会期終了後のビエンナーレの楽しみ方」

第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展が約7ヶ月の会期を経て11月22日に閉幕。ミラノ万博のオープニングにあわせ例年よりも約1ヶ月前に開始した今回ですが、会期中の来場者数は前回2013年の国際美術展を2万4千人上回る約50万1千人を記録しました。国内外のメディアによる取材・報道は8千件以上(うちイタリア国内は2650件、海外メディアは5450件)にもなり、世界の主要な美術誌だけでなく日刊紙などでも広く報じられた他、SNSでの普及についても報告されています(特に、最終日のツイッター登録人数は45万人に達し前年比79%増、インスタグラムも開幕一ヶ月前から導入し現在2万8千人が登録)。
一方、最終日の公式発表ではこうした数だけでなく、議論の場となるような様々なイベントの実施、未来の創造を担う学生や教育者との交流の実績、また、ビエンナーレの新たな発展が見て取れる、最新IT技術を駆使したグーグル社とのコラボレーション「ヴェネチア・ビエンナーレ オンライン」や、年々数を増し企画内容も注目されてきている「コラテラル・イベント」(同時開催企画展)についても言及がありました。今回で最終回となるMAGCUL.NETリポートでは、これら“ビエンナーレのつづき”をご紹介。またコラテラル・イベントのなかでも特に、香港に建設中の大型公立美術館M+(ミュージアム・プラス)による企画展と、私立財団の呼びかけにより実現したインドとパキスタンの作家の合同展について振り返ります。最後に、初回のリポートでインタビューに答えてくださった、日本館代表のお二人の今後の動きについてもお知らせします。



第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 最終日の会場の様子
第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 最終日の会場の様子
Photo by Andrea Avezzù     Courtesy: la Biennale di Venezia


「世界の未来」を担う、鑑賞者やアーティストの卵の育成



ヴェネチア・ビエンナーレのパオロ・バラッタ代表はこの国際美術展の評価を、約20万人の入場者を記録した1999年以降は特に、記者や批評、若者の参加などの数に注目しつつ、会期中にもたらされたその知識や創造の可能性の交流によるそれらの更なる深まり、またその豊かさにおいて評価をしたいと言っています。来場者の内訳でも、先のメディアの数の後に、ターゲット層であり今回の来場者の3割を占める「若者および学生」について明記されていて、会場でも学生の団体鑑賞に対応しているスタッフの姿が多く見られました。これは「ビエンナーレ・セッション」と呼ばれている、世界中の大学や美術学院に対してヴェネチア・ビエンナーレの鑑賞を推奨するプロジェクトの成果でもあり、今年はイタリア国内の大学や美術学院だけでなく海外の大学からも多くの参加者を集めました(計78大学3518名、うちイタリア国内は24大学、海外は54大学)。
また、美術史上でも重要な運動やアーティストを輩出しているヴェネチアですが、今回のビエンナーレでは1750年創立の国立ヴェネチア美術学院から60名の学生が、出展作家のなかでも世界的に有名なコンセプチュアル・アーティストのハンス・ハーケの制作や、金獅子賞を受賞したエイドリアン・パイパーのパフォーマンスなどに参加しています。さらに、前回リポートしたジャルディーニ会場の「赤い劇場」で連日行われた各イベントの他、アルセナーレ会場内にあるテアトロ・アッレ・テーゼでは「クリエイティブ・タイム・サミット2015」という国際カンファレンスが開催され、アーティストや活動家、教員、理論家、政治家など100名以上の登壇者が美術教育などについて議論を交わしました。



第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 鑑賞者たち(ジャルディーニ会場)
第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 鑑賞者たち(ジャルディーニ会場)
Photo: Alessandra Chemollo Courtesy: la Biennale di Venezia


Biennale Sessions on the occasion of the 56th International Art Exhibition(参加学校一覧・動画あり)
http://www.labiennale.org/en/art/archive/56th-exhibition/biennale-sessions/
Biennale Educational 2015(ヴェネチア・ビエンナーレ教育普及活動ガイドライン)
http://web.labiennale.org/doc_files/educational-en2015b.pdf
The 2015 (7th) Creative Time Summit: the Curriculum at the Biennale Arte 2015(イベント概要、登壇者名一覧、動画あり)
http://creativetime.org/summit/venice-2015/



閉幕後も楽しめる「ヴェネチア・ビエンナーレ オンライン」



今回ヴェネチアに行けなかった方も、行ったけれど大量の展覧会に圧倒されたという方も、ヴェネチア・ビエンナーレがグーグル・カルチュラル・インスティテュートと共同開発した、「ヴェネチア・ビエンナーレ オンライン」を是非体験してみてください。「カルチュラル・インスティテュート」はグーグル社が無料提供するインターネット上のサービスで、世界の博物館や美術館の展覧会やコレクションをデジタルアーカイブ化、自由に検索閲覧できるようにするもの。そのヴェネチア・ビエンナーレ版が今回開発されました。企画展の各会場(アルセナーレとジャルディーニ)に加え70カ国の国別パビリオンの名前が一覧になっていて、それぞれの1ページ目に表示される「開始する」(日本語で出てきます)をクリックするだけで、展覧会の経路もしくは設定されたテーマに沿った写真のスライドが楽しめます。また、会場の景色を360度楽しめる操作などに加え、日時が決まっていて見られなかった各会場でのパフォーマンスや、キュレーターによる解説の動画も見られる充実ぶり。ヴェネチアでは、ビエンナーレ運営財団の事務局があるジュスティニアン宮でこのオンラインビエンナーレを楽しめるブースを2016年1月23日まで開いているそうです。

「第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 オンライン」
The 56th International Art Exhibition online by Google Cultural Institute
https://www.google.com/culturalinstitute/u/0/project/la-biennale-di-venezia
(「日本館」のページはこちらから)
https://www.google.com/culturalinstitute/u/0/exhibit/the-key-in-the-hand/2wJSFJ9xCfj3Jw?projectId=la-biennale-di-venezia



コラテラル・イベントその1
「曾建華 THE INFINITE NOTHING(無限の無)」展



ヴェネチア本島にあるさまざまなスペースでは、ジャルディーニ会場の国別パビリオンのように国や行政区の名前を冠してヴェネチア・ビエンナーレと同時期に開催される企画展などの「コラテラル・イベント」が増えています。香港は2001年からこのコラテラル・イベント型参加をしている行政区のひとつ。アルセナーレ正面入口の向かいにある会場を香港パビリオンとして、今年は曾建華(ツァン・キンワ、1976年中国汕頭生まれ、香港を拠点に活動)の個展を行いました。この展示は、香港アーツ・デベロップメント・カウンシル(ADC) と新規の大型公立美術館として注目されている M+(ミュージアム・プラス)が共催。M+は、超高層ビルが並ぶ香港のヴィクトリア湾岸全長2キロに及ぶ「西九龍文化区」に2018年開館予定の視覚文化に特化した美術館で、展示空間はニューヨーク近代美術館(MoMA)本館の5倍にもなると言われています。同館のキュレーションチームが、ヴェネチアでの香港代表に選んだのが曾です。 曾は、主にテキストを素材とした壁紙やビデオインスタレーション作品を展開するアーティスト。日本でも2010年のあいちトリエンナーレや2011年の森美術館MAMプロジェクトに出展しています。ヴェネチアのための新作では、近年曾が取り組んでいるニーチェの無神論と信仰についての考察を展開させ、4つの展示室の空間をそれぞれダイナミックに利用した映像インスタレーション《THE INFINITE NOTHING》(直訳すると「無限の無」の意)を発表。キリスト教徒である曾がニーチェに触れたことで、「不確かな究極性」について仏教や西洋哲学の主題、現代映画からも着想を得ながら探し求める旅が表現されており、鑑賞者は信仰のメタファーとしての「川」を渡り、降り注ぐ「光」や「言葉」、目の前に現れる「扉」と対峙します。その向こうにあると示唆される「永劫回帰」を、鑑賞者はその「自由意志」によって見つけられるか・・・。信仰や宗教の名の下に個人が「真我」を探す旅が、日々進化する文明社会の中で混迷しているという現代性をスタイリッシュに表現し、ヴェネチアという水都にもリンクした企画展で、M+をはじめ香港の表現の動向が気になります。





「曾建華 THE INFINITE NOTHING」
会期:2015年5月9日〜11月22日
会場:Campo della Tana, Castello 2126-30122, Venice, Italy
共催:The Hong Kong Arts Development Council (HKADC)、西九龍文化区M+
www.venicebiennale.hk



コラテラル・イベントその2
「My East is Your West(私の東はあなたの西)」展



もうひとつ取り上げるべき同時開催企画展は、私立財団の呼びかけにより実現したインドとパキスタンの作家の合同展「My East is Your West(私の東はあなたの西)」です。イギリス植民地からの独立後、度重なる戦争や宗教対立のやまない2国の国境には、現在世界一長いとも言われる防御壁が作られています。シルパ・グプタ(1976年インド・ボンベイ生まれ、1995年に名称を変更しムンバイとなった同都市を拠点に活動)は、国際化する社会や政治のさまざまな弊害とその不毛さを可視化する作品制作を行ってきています。今回は、この2国間の国境の1000分の1の長さにあたる3394メートルの白い布に、カーボン紙で黙々と国境線を描くパフォーマンスを発表。一方のラシッド・ラーナ(1968年パキスタン・ラホール生まれ、ラホールを拠点に活動)はデジタル画像処理された写真や映像によって、存在の一時性や場所の概念を測ります。同展では、大型モニターとライブストリーム機能を用い、ラホールとヴェネチアの展示室にいる視聴者をリアルタイムでお互いに対面させる経験をもたらしました。それぞれに国際的な活動の機会を増してきている両国の作家による、祖国のあり方への懐疑やそれを乗り越えて行く方法の提示に加え、彼らの協動を呼びかけたグジュラール財団の女性ディレクター、フェローズ・グジュラール氏が、ヴェネチアという世界で最も大きな現代美術の祭典でインドとパキスタンをひとつにし南アジアが望む未来像を表示したことを評価する報道も見られました。



「My East is Your West」

「My East is Your West」
My East is Your West(2015) at the 56th Venice Biennale by Rashid Rana.
Photo by Mark Blower


「My East is Your West」
会場:Palazzo Benzon, San Marco 3927,Venice, Italy
会期:2015年5月6日〜10月1日
主催:The Gujral Foundation
http://gujralfoundation.org/my-east-is-your-west/



神奈川から始まった、日本館代表アーティスト&キュレーターのこれから



最後に、神奈川での展示がきっかけとなったとMAGCUL.NETのインタビューにも答えてくださった日本館「掌の鍵」展のつづきを。 同パビリオンは受賞さえ逃したものの、展示風景の写真が現地イタリアの紙面で一面を飾り、欧米の代表的なアート紙でも必見の展示と評されるなど好評を得ました。 各報道については、日本館の特設ウェブサイトに更新され、閉幕後も閲覧できます。 日本代表を務めたキュレーターの中野仁詞さんは、現在所属されているKAAT神奈川芸術劇場にて、国内外で活躍する日本人現代アーティストを神奈川から発信する先鋭的な企画展を準備中。 同時に国内各地からヴェネチア・ビエンナーレの報告会を依頼され、未来の日本館代表となる作家とキュレーター双方の育成に貢献されています。 また、アーティスト塩田千春さんのその後の活躍については、作家の公式ウェブサイトや、所属するフランスの大手画廊、ギャルリーダニエル・タンプロンの最新展示情報をぜひ参照してください。 特にヴェネチアへの参加を機に、「シドニー・ビエンナーレ」(2016年3月18日〜)の出展が決まったそうです。アジア・太平洋地域で初めてのビエンナーレとして1973年に始まったこの国際美術展で塩田さんがどのような作品を発表されるか、MAGCUL.NET も引き続き注目・応援しています!



最終日の会場の様子
最終日の会場の様子 Photo by Andrea Avezzù Courtesy: la Biennale di Venezia


レポート文責:飯田真実(美術史家)



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http://www.labiennale.org/en/art/news/22-11.html

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