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範宙遊泳 山本卓卓 インタビュー

山本卓卓| YAMAMOTO Suguru

範宙遊泳代表、作家、演出家。1987年山梨県生まれ。

生と死、家族、感覚と言葉、集団社会、など、その都度興味を持った対象からスタートし、現実と物語の行き来によってより遠くを目指し、普遍的な「問い」へアクセスしてゆく。『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 Best Original Script(最優秀脚本賞)とBest Play(最優秀作品賞)を受賞するなど、海外公演も積極的に行っている。2012年には、一人の俳優に焦点を当て生い立ちから掘り下げて作品化するソロプロジェクト「ドキュントメント」を始動し、5月に公演を控えている。また、1月末に発表された第59回岸田國士戯曲賞で、昨年上演した『うまれてないからまだしねない』が最終候補作にノミネートされている。(発表は2月16日)

Interview・Text:徳永京子  Portrait:西野正将
協力:国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2015


つくり手の意志とは別に、環境や時代の要請によって変容し、育っていく作品がある。2013年に新宿の小さなギャラリー、新宿眼科画廊で上演された範宙遊泳の中編『幼女X』は、翌年、TPAMで再演されるとすぐにマレーシアのアート支援団体Kakiseni(カキセニ)に招聘され、5月にオリジナル作品と現地との共同制作版が上演された。さらに11月にはタイのチュラロンコーン大学に招聘され、Bangkok theatre Festival Awards 2014で最優秀脚本賞など2賞を受賞。そして今年のTPAMでは、タイとの国際共同制作のダンスピースとして2月14、15日に上演される。同作を生み、守りつつも、その成長を吸収する作・演出家、山本卓卓に話を聞いた。なお、山本は取材時、約3週間のタイ滞在制作中で、スカイプでのインタビューとなった。



『幼女X』の誕生 ── 演劇は死者の話ばかりしている ──



── おおもとのところから伺いますね。『幼女X』のストーリーは、連続幼女強姦殺害事件の犯人を探して天誅を下そうとしている青年と、医師と結婚して贅沢な生活を手に入れた姉に陰湿な方法で反抗する青年の話が、2本の大きな流れとしてあります。

そうですね、そういう話です。

── ここ2〜3年の範宙遊泳の作品は、プロジェクターで壁やスクリーンに文字や写真やカラープロックを投影し、その前で俳優が演技するスタイルを確立しました。俳優の動きは時にコミカルで、文字やカラーブロックも鮮やかで、一見、とてもポップです。それとは真逆と言っていい内容のダークさは、どこから出てきたものでしょう?



「幼女X」2014/TPAM in Yokohama 2013/撮影:Hideto Maezawa
「幼女X」2014/TPAM in Yokohama 2013/撮影:Hideto Maezawa


あんまり公には言ってないんですけど、これをつくった時は震災(東日本大震災)で参っていたんですね。恐怖感とか、いろいろなネガティブな感情が、今思うとちょっと過剰反応なくらい自分の中にありました。

── ただ、創作時は震災から2年経っていましたよね。

時間が経って、より効いて来た、という感じですかね。ボディブローみたいに時間差で感じるようになっていました。

── 直接的な“自然の脅威”“多くの人々の死”という話でなかったのは、その時間差に起因しているんでしょうか。

震災などに直接的に関係するワードを一切書かないというのは、あの作品をつくる時に自分に課したルールでした。(被災していない)僕が直接的な表現を使うのはデリカシーがないと思って。1ヵ所だけガイガーカウンターという言葉がありますけど、あとは全く出していない。そういうルールを敷くことで、あるムードを出せないかと思いました。

── あるムード、というのは?

当時の僕の中にあった、そして周囲にもあった、人間達のムードです。『幼女X』は震災についてだけ描いたわけではないんですよ。大橋君(大橋一輝。範宙遊泳所属の俳優)扮する男が、ハンマーを持って敵を探していますけど、その敵を、例えば政府に置き換えてもらっても全然構わない。つまり、目の前にはいなくて、テレビの向こう側とかに存在するものだったり、もし会っても、人間味が感じられて敵と思えなくなるような存在と言うか……。ハンマーの彼が電気店の前でテレビを眺めていると、連続幼女強姦殺害事件の犯人が逮捕されたニュースが流れてくる。その時に隣でテレビを見ていたおじさんが“こんな奴は早く捕まって死刑になれ”と言う。でも実際に犯人に会ったら“この人がそんなひどいことをするとは思えない”と感じる。そういったトータルのことです。

── 他の作品にも共通して感じることですが、山本さんは人間の悪意に強い関心があるように思います。それも「悪意とは何か?」ではなく「悪意を成り立たせているものは何か?」という関心が。

確かにそうですね。自分も含めてですけど、観ている人の倫理観を問いたいという気持ちはいつもあります。例えばある事件が起こって、その事件についてどう思うかは人によって分かれますよね? そういう、観る人がふるいにかけられてしまう、隣の席に座っている人と自分の感じ方は違うかもしれないと感じる装置をつくりたい。そういう機能を戯曲に持たせることには、ちょっとこだわっているかもしれないです。

── そうしたスリリングな距離感で現実とリンクするエピソードを書く一方で、胎児のモノローグという非現実的な視点も取り入れています。

胎内にいる子供って発言権がないじゃないですか。だからそれが戯曲に書かれることはこれまであんまりないと思っていたので、僕が引っ張り出したいなと。そもそも演劇は死者の話ばっかりするよな、という気が以前からしていたんです。未然の命のことは、ドラマ的に存在を匂わせるものもあるけど、彼らの言葉としては出さないじゃないですか。僕は死んだ人の話よりも未然の命の方が興味ある。

── まだほとんど書かれたことのない言葉を自分が戯曲に入れたいというのは、劇作家としての好奇心、野心でしょうか。

劇作家としてであり、僕の個人的な感情でもあり。両方ですね。



生物と非生物 ── 僕にはすべてが同列です ──



── 『さよならニッポン ─瞑想のまま眠りたい─』(2013年)では椅子のせりふを書いていましたよね。胎児しかり、多くの劇作家があまり人格を持たせない存在も対等に扱うのは、山本さんがもともと持っている感覚ですか。

生命と非生命の決定的な差って、僕の中ではないです。動いているか動いていないか、それぐらいですね。だから椅子にしろ、生まれていない命にしろ、たぶん普通の人間と同じ感覚で書いています。お客さんが受け取るものは違ってくるのかもしれないけど、自分では分けていませんね。




範宙遊泳『さよなら日本-瞑想のまま眠りたい-』2013/©範宙遊泳


── 以前、どんな音楽が好きか質問した時に「ジャズも聴くしクラシックも聴く、J-POPも嫌いじゃないし洋楽も」と返ってきたのを覚えています。映画や小説についてもそういう答えでしたし、大学生の時に、演劇をやりつつ落研にも入っていらっしゃいましたよね。つまり山本さんにとっては、何かが最初から特別だという感覚は薄くて、まずはどれもが等価値で入ってくるのでしょうか。

そうだと思います。本当に全部同列ですね。雅楽とか全然好きですし(笑)。

── その雑食感が「椅子も胎児も人間も、平等に発言権がある」という意識につながっているのかと、今の話を聞いていて思いました。

僕、雑食って言われるのがすごく好きで。自分で名乗りたいくらいです、雑食系男子(笑)。いろんなものを食べて、そこから出てくるもの──排泄物と言っていいのかな──を見せているのかもしれない。でも、作品を生み出すために何かを観ようとか聴こうと意識したことはありません。好きだから、観る、聴く。だからこそ、自分が好きなものをあまり知られたくない気持ちもあるんですけどね。

── 排泄物の例えで言うなら、肉と野菜と魚を食べて、出てくるのがプラスチック、といった印象があります。吸収したものと出てくるものの分子構造がまったく違うような。以前はもう少し雑食感が作品に反映されていたのが、最近は今言った傾向が強くなった。それは映像を使うようになった時期とリンクしていると思うんですが。

今こうしてインタビューを受けていることと矛盾しちゃうんですけど、僕自身をバレないようにというのは、年々、意識しています。

── なぜバレるのがいやなんですか。

いやと言うか、僕なんてすごく小っちゃいですから。書きたいのは、僕の外側にあるもっと大きいものです。

── ああ、食べているものだけを栄養にしてつくると、作品の成分が自分とイコールになるから。

これまで日常劇みたいなものをつくったことは、たぶんないんですけど、学生の頃はそれを、センスだけでやれるんだ、みたいに構えていたと思うんです。それがだんだんと人目にさらされるようになって、観てくれる人が増えた時に、センスだけじゃ弱いなって思うようになってきたんですね。もっと強度のあるものをつくりたいと。



山本卓卓


── 『幼女X』はいろいろな強度がある作品だと思いますが、そのひとつの鍵がエンディングでした。ようやく敵を見つけたものの手を下すことができなかった青年が、持っていたハンマーで何度も自分を叩くと、その血が辺り一面に広がって海になる、その顛末が文章としてスクリーンに映し出されますが、文字が全部ひらがなで、話が一気に絵本のようなトーンになり、一段深い普遍性を手に入れました。あれは山本さんの中にあるフィクションとノンフィクションの親和性が高いことの証明ですね。

そこ(フィクションとノンフィクションの差異)には全く抵抗がないです。最近の演劇の人って──僕も演劇の人ですけど(笑)。──、ストーリーにコンプレックスを持っている人が多くて、それゆえに演劇界の流れも構造主義のほうに行っているように感じます。僕はストーリーと構造、どっちも好きだし、フィクションの力を信じているので、人が空を飛ぶシーンをつくるとして、実際に吊るさなくてもストーリーの中で成立させられると思い込んでいるんですね。あのラストは、プロジェクターで文字を出していなかったら絶対に出来なかったと思う。やりたかったことと手法のマッチという点でも『幼女X』じゃないと出来ないラストでした。

── その映像ですが、文字や写真を背景にして俳優が演技するのではなく、文字や写真と俳優が並立というか、やはり対等な立場、拮抗するエレメント(要素)として影響し合います。これはいつ頃からあったアイデアですか。

京都で『ガニメデからの刺客』(2011年10月)という作品をやったんですけど、それは実はかなり今の範宙のエッセンスになっています。映像の中で俳優が動くということを、その時はRPGの世界の話としてやってみたんですけど、そこでのフラストレーションが次のステップになったんですね。これはもっとうまく出来るはずだと。『ガニメデ〜』の時は今よりもずっと真剣に、2次元、3次元、4次元のことを考えていました。平面と立体の関係とか可能性とか。前後しますが、眼科画廊の杮落としでやった『範宙遊泳の宇宙冒険記3D』(2011年8月)も、映像はないですけど、2次元的な動きを俳優がやることをかなり考えました。



範宙遊泳『ガニメデからの刺客』2011/©範宙遊泳
範宙遊泳『ガニメデからの刺客』2011/©範宙遊泳

物語の置き換え ── 進行の横槍になる文化の差異をあぶり出す ──



── 動きの話が出たところでようやく(笑)、今回のTPAMでの上演作品の話になりますが、タイのDemocrazy Theatre(デモクレイジー)というカンパニーと共同制作する『幼女X』ダンスバージョンという認識でいいですか。

ダンスピースですね。

── ダンスピースというのは、出演者はダンサーだけということ?

俳優も出ます。タイではかなり有名なB-Floor(ビーフロア)というカンパニーの芸術監督兼パフォーマーのカゲ、もうひとりはデモクレイジーのアポム。カゲはダンスもできるけど、アポムはあまりダンスはやったことがないそうです。出演者はその2人です。
※名前はすべてニックネーム。タイ人は生まれた時から正式な名前と一緒にニックネームが付けられ、それが主に呼称となる。



タイでの制作風景/撮影:山本卓卓
タイでの制作風景/撮影:山本卓卓


── 共同演出をするのは?

タムという、振付家、演出家、ダンサーで、テキストも自分で書くこともあるようです。僕より2、3歳上かな? とても知的で育ちのいいジェントルマンなんですけど、思想というか、やろうとしていることはすごくアウトローな人です。

── タムさんと山本さんは今、どういうふうに共同作業してるんでしょう?

もう土台は出来上がりました。土台が器みたいなものだとしたら、そこにどんな水を入れるかを一緒に考えているというか。

── 『幼女X』をダンスに翻案というのが、少しイメージしづらいんですが。

今日は僕がタイに到着して3週目なんですけど、僕が来る前に、彼らは戯曲を動きに置き換えていたんです。それはマイムではなくて、戯曲からすくい取った言語を身体で表現する作業で、観た限りそれは間違ってない。
 ちょっと話がそれちゃいますけど、タムがなぜ今回、『幼女X』をダンスピースにしたいと希望したかと言うと、彼がダンサーだということもありますけど、同時に、タイは今、言いたいことがあまり言えない状況になっているらしいんです。言論統制的な問題ですね。彼はそこに問題意識を持っている。つまり、ダンスという表現を選んだ時点で“喋らない僕たち”という意志表明だという意図があって、僕はそれには大賛成で、ならばぜひダンスピースをつくりましょう、と。ただ、そうすると、どんどんストーリーが要らなくなってくるんですよ。僕のいる意味はない、テキストが『幼女X』である必要もないという危機感みたいなものを、一時期すごく感じて苦しかったです。

── 彼らのイデオロギーに『幼女X』が飲み込まれたような感覚ですね。

しかもそれがうまく行くイメージが持てなかった。もちろん、タムの中には基準があるし、いろいろ哲学も持っているんですけど、それを言われても最初はわからなくて、こっちはとにかく初演のイメージを語るしかできない。すると彼は“でもそれはコラボレートである意味がない”と。もちろん僕もコラボレーションがしたいわけで、そういう静かな喧嘩みたいな時間が、1週間ぐらいありました。でもある時、彼が図面を書いて説明してくれたんです。“今、作業はこういう段階にあって、自分はここを目指したい。君が言ったストーリーの要素もわかったから、僕が考える構造とそれがうまく絡み合うようにしたいんだ”と。それを観たら、物語としての『幼女X』は、分離したり取り込まれたりするんじゃなくて、タムのアイデアとシンクロできるとわかって、そこから何をやるべきかがパーッと見えたんです。今はひたすら、そこに向けての作業をしています。

── 図面という視覚から把握するというのは山本さんらしいですね。具体的な質問ですが、プロジェクターからの文字の投影は?

あります。その文字の質についても考えています。もとは日本語で書かれているから“新宿御苑”という地名が出るけど、タイの俳優にはそれがわからない。その差異を利用したいんです。あるいは、タイ人である俳優が、日本のシンボルみたいなキャラクターを演じることで、文化の層みたいなものをあぶり出そうとしています。

── 危機感から一転して、一気にコラボレーションが深まっている様子ですね。

そうなんです(笑)。もうひとつ考えているのは、タイには“タイ人であるための12ヵ条”みたいなものがあるんですって。軍がクーデターを起こした時に決めたもので“1、国王を敬わなければならない”みたいな項目が12個。それと似たようなものを俳優に課すつもりです。アイデンティティを縛り付けるシステムですね。全体の流れを縦だとしたらそれはもう出来たので、僕らが考えてるいのは横の装置です。『幼女X』が進行していく中で、タイ人の視点、日本人の僕から見えるタイ人の視点、その逆といった、タイと日本の文化が入り交じったところから出てくるものを差し挟んでいく。それは物語を止める横槍と言っていいと思うんですが、それによって、見えるものがあるはずなので。それと、ダンスピースとは言っていますけど、あまり踊りという踊りでもないんです。振付は完全にタムの担当ですが、彼はきれいな踊りは飽きた、いかに日常的な動きを取り入れるかだと言っています。



山本卓卓


── その延長線上にある山本さんのイメージでは、出来上がったものは『幼女X』だと言える作品になりそうですか。

そこは死守しなきゃいけないと思っています。最初の頃はそのビジョンが全く持てませんでしたけど、今はタムも僕もそこを目指しています。

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