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【小田原文化財団 江之浦測候所】自然とアートを自由に体感する空間
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【小田原文化財団 江之浦測候所】自然とアートを自由に体感する空間

(TOP画像)冬至光遥拝隧道と光学硝子舞台©小田原文化財団/Odawara Art Foundation

写真家であり、現代美術作家であり、骨董品の蒐集家などさまざまな顔を持つ杉本博司氏が手がけたアート空間です。かつてミカン畑だった日当たりの良い斜面に、ギャラリー棟、野外の舞台、茶室、庭園、門、待合棟などが点在。人それぞれ、気の向くままに、自由でアートな時間を過ごすことができます。

訪れた人はまず「待合棟」へ。中央のテーブルは、天板に樹齢一千年を越える屋久杉、支柱には高野山の大観寺にあった水鉢が使われています。不思議な存在感に導かれ、これから足を踏み入れる世界への期待感が高まります。

海に向かって真っ直ぐに伸びる「夏至光遥拝100メートルギャラリー」。100メートル続くガラス窓には支柱がなく、37枚のガラス板が自立するという、建築的にも挑戦的な建物です。ゴツゴツとした大谷石の壁には杉本氏の作品が並んでいます。

*夏至光遥拝100メートルギャラリー©小田原文化財団/Odawara Art Foundation

ギャラリーは、タイトルにある通り、夏至の朝、海から昇る太陽光が真っ直ぐに駆け抜けるよう設計されています。それは一度は観てみたい、神秘的な光。

ギャラリーの横には、かつて寺社の礎石に使われていた石たちが並んでいます。名付けて「伽藍道」。能舞台の寸法を基本に計画された「石舞台」。橋がかりに使われている福島の滝根石は、重さ23トン。割れた状態で見つかったため、その姿を活かして配置されています。舞台に使われている石にも、それぞれの物語があるようです。

光学硝子が敷き詰められた「光学硝子舞台」は、冬至の軸線に沿って設置されています。舞台背景は水平線。

支えているのは、京都清水寺の舞台と同じ檜の懸造り。釘を1本も使わずに組まれています。

硝子舞台の脇を降りて「冬至光遥拝隧道」へ。冬至の朝、相模湾から登る太陽光を導く70メートルのトンネルです。訪れた日は、トンネルの先には青い海と水平線が広がっていました。

トンネルの中ほどには採光用の「光井戸」。冬至の朝の陽光はこの空間を貫き、対面して置かれた巨石を照らすよう設計されているそうです。

*冬至光遥拝隧道©小田原文化財団/Odawara Art Foundation

トンネルの一方から捉えた、冬至の朝の一瞬の輝き。
トンネルを抜けると、そこは「円形石舞台」。大名屋敷の大灯籠を据えていた伽藍石を中央に、京都市電の敷石を放射状に配置。ここにも、さまざまな物語を持つ石たちが並んでいます。

日本庭園風にしつらえた空間には、桃山時代の鉄燈籠、明日香石水鉢などが配置されています。作られた時代、置かれていた場所も様々なものたちが、ここで自然に調和していることがちょっぴり不思議。

千利休作と伝えられる「待庵」の精髄を取り入れた茶室「雨聴天」。「待庵」は、利休が目指した侘び茶の一つの完成形と目されており、内部は2畳室床という極小の空間。

利休の時代の茶室には、銘木ではなくあり合わせの材が使われていたそうです。杉本氏はその精神に習い、この土地の記憶を茶室に取り込むべく、この地にあった錆び果てた蜜柑小屋のトタン屋根を再利用。天から降る雨がトタンに響く音から「雨聴天」と命名されました。

測候所の敷地は、斜面のさらに下へと広がっています。春には白い花を咲かせる藤棚、杉本氏の化石コレクションを展示する「化石窟」。ぜひ訪れて、アートの起源から未来へ続く空間を旅してみてください。

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