コンテンツにスキップ
クラシックな一杯にひと手間加えたツイストカクテルと出会う

クラシックな一杯にひと手間加えたツイストカクテルと出会う

オンナヒトリ
Bar
で美しい
一杯を

横浜のバーへ繰り出し美しい一杯との出会いを綴る、オンナお一人様で行くバー連載♡  今回は「日本にフレアバーテンダー文化を根付かせた凄い人がいる」……以前から当連載の取材でその方のお名前だけは伺っていたのですが、ついにその凄い人、「カクテルバー・ネマニャ」のオーナーバーテンダー北條智之さんにお会いする機会が到来しました! お店は、みなとみらい線・日本大通り駅から徒歩4分、JR線関内駅から徒歩5分。馬車道にある編集部からも好アクセスの場所にあったことに驚きながら、カメラ片手に伺いました。


バーテンダー歴28年という北條智之さん。

まずは、お店の様子をご紹介します。わずか7席のこじんまりとしたカウンターは、どの席に座ってもバーテンダーの北條さんとスムーズにコミュニケーションが取れる、ほどよい距離感が魅力。

店内左奥には、カウンターに面する形でL字型にテーブル席も用意されています。グループでの利用はもちろんですが、「バーに来るのが初めてでカウンターはさすがに緊張する〜!」という方たちにとっても安心して座れる場所があるのはうれしいですね。


バックバーにはさまざまな種類のお酒がずらり。

こちらのお店ではミクソロジーカクテルが味わえます。ミクソロジーカクテルとは、フルーツやハーブ、スパイスなどを使いながら蒸留酒と合わせ素材そのものの旨みを極限まで引き出す手法のカクテルのこと。その中から「ハーバルブランデーサワー」という名の一杯を作っていただきました。


ブランデー、レモン、シュガーシロップを現代風にアレンジしたカクテルは、猫のような愛らしいフォルムのグラスに注がれます。このグラスはポートシッパーといい、元来ポートワインを飲むために作られたものでお酒をガラスの底から吸い込むことができるのが特徴。そしてこのカクテル……仕上げとなる最後のひと手間に驚きました。なんと、ハーブの香りをつけたアロマスチームバブルを添えて提供されるのです!!


バブルの中に白い煙(アロマスチーム)がふわふわ漂っているのがわかりますか?

アロマスチームバブルが弾けた瞬間の、爽やかなハーブの香りを楽しんでから、さらに香りまでおいしいカクテルをいただくというスタイルです。もちろん猫の尻尾のような細く美しい曲線を描くガラスの吸い口から♡

前述した通り、北條さんは日本でいち早くフレアバーテンディングを取り入れたバーテンダーとして知られ、数々の賞の受賞暦もある有名な方です。全日本フレア・バーテンダーズ協会(ANFA)名誉会長でもあり、フレア関連の著書も出版されています。ここで一度、フレアバーテンディングについてもご紹介しましょう。フレアバーテンディングとは、バーテンダーがボトルやシェーカー、グラスなどを投げたり回転させたり、まるでジャグリングのような軽やかなパフォーマンスで作り上げるカクテルメイキングスタイルのこと。1849年に米国のバーテンダー、ジェリー・トーマス氏が始めたもので、独特のパフォーマンスで作り上げる「ブルーブレイザー」は彼のシグネチャーカクテルとして当時話題を集めたそう。トム・クルーズ主演の映画「カクテル」(1988年)で、フレアバーテンディングという存在を知った方も多いのではないでしょうか。


“カクテルの創始者”ともいわれるジェリー・トーマス氏によって書かれたカクテルのレシピを含む、最も古いバーテンダーズマニュアルも見せていただきました。

北條さんはどのようなきっかけでフレアバーテンディングを始めたのでしょうか?……「私が90年代にバーテンダーとして働き始めた頃、当時いたお店はあまり認知されておらず、どうしたらお客様が足を運んでくださるのかを考える日々が続きました。そこで出会ったのが、フレア。97年に、あるコンペティションで世界チャンピオンになった韓国のパク・ジェ・ウーさんのパフォーマンスを目にしたのが最初です。フレアのことをもっと知りたいという思いから彼のお店へ訪ねて行くと、『とにかくお客様を楽しませるカクテル作りを心がけなさい』という言葉とともにチャンピオン自ら私にフレアの技を教えてくださいました」。その後、北條さんは、フレアバーテンディングの大会に挑戦し、98年には磨いた技でオリジナルカクテル「ライディーン」を披露。見事優勝を果たします。出会ってからほぼ1年でチャンピオンですよ、凄すぎます!!

さて、ここで2杯目のオーダーへ。「ネマニャ」で一番人気、まさにシグネチャーカクテルといえる「ジントニッキー・メルセデス」を作っていただきました。


「ジントニッキー・メルセデス」は、ジントニックをショートスタイルにしたツイストカクテル。


ベースは、スパイスの一種で高貴な香りが特徴の“カルダモン”を浸して香りづけしたジン。トニックウォーターを煮詰めた自家製トニックシロップ(トニックウォーターは煮詰めることで甘みや苦味が増すそう)、レモンジュースなどを加えて作られた、これまた見目麗しく、味にも香りにも深みがあり、ぐいぐい進んでしまう一杯です。ショートカクテルだけに、あっとうい間に飲み干してしまったのはここだけの話(笑)。

ちなみに、こちらのお店は北條さんと奥様のご夫婦で経営されています。そのため奥様ご担当のフードメニューもあり、お酒と一緒に楽しむことができます。

チャーム(お通し)として出していただいた奥様が作る自家製ドライフルーツも美味しかった〜。お酒にもぴったり!

さて、ここで、特別にお願いして撮影させていただいた動画を公開!お店のスペースの関係もあり、本格的なフレアバーテンディングのパフォーマンスはなかなか見ることはできないそうなのですが、“無理を承知”でお願いしてしまいました。事前練習もせず、その場でさらっと技を見せてくださるなんて……さすがです!! (北條さん、本当にありがとうございました!!!!!)

バー初心者の心得として、お酒のオーダーの仕方をお聞きすると「カクテルやウイスキーなど詳しく知らなくてもOKです。そのために私たちバーテンダーがおりますので。“さっぱり系”や“弱め”などほんの少しのヒントをいただけたら、私の方からお客様に合った一杯をご提案させていただきます。とにかくその時の気分やお好みを伝えていただくだけで構いませんので、恥ずかしがらずにどんどんプロに課題を与えてください(笑)」

そしてお酒が飲めない方にもうれしいお言葉が……!! 「かつてのバーは、アルコールが飲めない人はバーに足を運んではいけない、そんなイメージが強かったと思います。でも、いまは違います。体質的に飲めないだけでなく、外国人のお客様の中には宗教的にアルコールNGという方もいらっしゃいますので、そういった方にもバーにいる時間を楽しんでいただけるよう、当店では“モクテル”もご用意しています」……モクテルとは、「moc(モック)=見せかけの」+「cocktail(カクテル)」の造語で、ノンアルコールカクテルのこと。「ノンアルコールビールもご用意しておりますが、せっかくバーに足を運んでいただいたので目の前で作るカクテルをお楽しみいただきたい」と北條さん。

最後に、北條さんにとって「カクテルバー・ネマニャ」はどんな存在なのか、お聞きしてみました。

「人間は三つの空間(時間)がそろっていないと生きていけない、バランスが取れない、と昔ある人に教えてもらいました。まず一つ目は、仕事。二つ目は、HOME……つまり家族などを含めたプライベートな時間ということですね。そして三つ目が、趣味だったり習いごとだったり自分のためだけの時間…。私はこの店をお客様にとってその三つ目の時間に入れていただけるような、“止まり木のようなバー”にしたい、と考えています」。

仕事を終えたあとに、「ネマニャに寄ってから帰ろう」とふらっと扉を開き、北條さんと奥様が迎えてくださるこのあたたかい空間で三つ目の“自分のための時間”を過ごす……素敵ですね。そんなバーの使い方も憧れます。でも、きっともうすでに、そんなお客様はたくさんいるはず。

さらに北條さんは、「守り続けること」を大切にしつつ、また同時に「新しい世界に目を向け常に学び進化していくことも大事」と日々努力を惜しみません。なんと、時代を先読みし、いま世界的にも注目度の高いノンアルコールのクラフトジン〈ノンアルコールジン・ネマ0.00%〉のオリジナル開発をすでに手掛けていて、これがまたおいしいと評判だそう。


お酒のトレンドを常に押さえつつも、先人の知恵を本から学んだり、横浜の開港資料館などで調べ物をする時間も大切という。

2杯目をあっという間に飲み干した後、奥様お手製のケーキをいただきました。店名の「ネマニャ」は、セルビア生まれのヴァイオリニスト、ネマニャ・ラドゥロヴィチ氏に由来し、美しい音楽のような、やわらかく流れるような時間と空間を提供したいという思いが込められているそう。奥様が作るセルビアのお菓子「モスクヴァシュニット」はほどよい甘さで、お酒をいただいた後にぴったりの味わい♡ あまりの居心地のよさに、まだまだ長居してしまいそうな気持ちを抑え、この日は店を後にしました。


気づくと帰る頃には、常連のお客様がカウンターを埋め尽くしていました。北條さん、奥様、素敵なひとときをありがとうございました! &ご馳走さまでした!! またゆっくり伺います。