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100年後も使える木工小物をこの手で[ぶち木工]

100年後も使える木工小物をこの手で[ぶち木工]

ものづくり
ことづくり
匠の風景

今号の現場
【職種】木工職人
【匠名】ぶち木工 西村真人
【場所】横浜・初音町

丁寧に、じっくりと、思いをこめて。
手仕事を生かしたものづくりの現場を紹介するコーナー。
初回は“ずっと使い続けられる、
生活にまつわるものをつくりたい”という思いで、
ボールペンやカトラリーといった、
あえて身近な木工小物にこだわる「ぶち木工」の工房へ。

家具職人を経て、自分の肌に合った生活にまつわるものをつくりたいという思いから2011年、横浜市初音町に「ぶち木工」を設立。「つくり手と使い手の顔が見えるものづくりがモットー。木工製品は、一つひとつ木の表情が違うので、実際に見て、触れて自分の心にくるものを選んでもらえたらうれしい」と西村さん。木材を選び、削り、ヤスリをかけオイル塗装をする、その丁寧な姿にものづくりの喜びが伝わってくる。この「ぶち木工」のボールペンは、なんとこの夏開催されるヨコハマトリエンナーレ2017の公式グッズとしても登場する。手仕事で生まれた世界にひとつだけのボールペン。ぜひ手に取って心で選んでみてほしい。

スタジオやギャラリー、小さな店舗が立ち並ぶ京急線「日ノ出町駅」と「黄金町駅」の間の高架下周辺に「ぶち木工」の工房はある。どこか昔懐かしい昭和の面影を残すこの街で、人と人のつながりを大切にしながら西村さんは木工小物製作を続けている。時々、ここを通り過ぎる小学生たちから「何をつくっているの?」と質問を受けたり、ただおしゃべりをするためだけに訪れる住人とコミュニケーションを楽しんだりしながら、木と、街と、人とが共生する時間を過ごす。

少年時代、野球が上手だったことから、当時人気のあった漫画『がんばれ!! タブチくん!!』の主人公の名前をとり「ぶちくん」の愛称で呼ばれていたという西村さん。小さな頃からずっと呼ばれ続けてきたその愛称を使い、屋号を「ぶち木工」と名付けた。ネーミングだけでなく、水色の山脈が描かれたロゴマークも気になる。尋ねると、友人のデザイナーによるものらしい。よく見ると並んだ山がひらがなの「ぶ」になっている。木工といえば的なロゴマークではなく、あえてアウトドアっぽくすることで、広いものづくりができるようにとの思いがこめられている。そういった背景を伝えることで、西村さんが初対面の人と話すきっかけになればという友人ならではのやさしい思いもこめられているという。

今回の取材では、「ぶち木工」を代表する寄木細工のボールペンを実際に目の前で製作してもらった。

薄材を重ね、ボール盤で穴をあけ、そこに後にボールペンの芯を入れるためのパイプを挿入していく。

続いて切削量の多い刃を用いた「荒取り」という作業で、だいたいの形まで削っていく。

その後、平の刃を用い仕上げに近い形まで削りヤスリがけへ。ヤスリは、荒いものからなめらかなものの順に使い、ゆっくり丁寧に。四角柱だった寄木が、西村さんの手の中で徐々にやわらかな丸みを帯びていく。

ヤスリがけの最後は、目の細やかなスチールウールを使って。

美しいつや出しと木の保護のため、オイル塗装をし、布で拭く。もう一度スチールウールで磨き、再びオイル塗装…を繰り返す。

プレス機を使い、ペン先や尻軸などを装着。芯を入れ調節し、ペン先をチェックし「ぶち木工」の寄木細工のボールペンは完成する。

色や木目も一つひとつ違う。手に持った時の感触も、それぞれに違う。「自分がものづくりをする上でこだわっていることは極めてシンプルです。使う人のことを考えてつくること。使う人の顔を想像しながらつくることで、小さなボールペンですが、自分とお客様…つくり手と使い手のつながりが生まれると思っています。ですから、実際に手に取って、木の温度を感じていただき、迷って、悩んで、最後に自分の心に『これがいい! 』とくるものを選んでいただくのがいちばんうれしいんです。」と西村さん。最後に「木工製品は、粗末に使えばすぐダメになってしまう。でも、使う人が愛着を持ち丁寧に使えば、100年も200年も使い続けられるものなんです。そうやって愛をもって接してもらえる、ずっと使い続けられる製品をこれからもつくっていきたい」と語ってくれた。

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