コンテンツの本文へ移動する

神奈川県発、アート・カルチャーメディア「マグカル」。ミュージカル・音楽・演劇・映画など県内のアート情報を発信します。

黄金町バザール出品作家 ライヤー・ベン インタビュー

Interview & text:井上明子 photo:西野正将

ライヤー・ベン|Liar Ben
(ベトナム・ホーチミン)

2013年よりグラフィティ・ライターとして活動中。高校卒業後、2008年ホーチミン芸術大学に入学し、絹絵を専攻。大学在籍中の2011年から、ゼロステーションで活動を始め、アートプロジェクトの計画や企画を学ぶ。その後、ストリートアートを再開し、キャラクター作りを行っている。スブレーペイントを使った壁画や、映像、コンピューターデザイン作品を制作している。

Interview & text:井上明子     photo:西野正将



黄金町バザール2014参加作家 ライヤー・ベンは、スプレー缶での壁画、映像・コンピューターデザイン作品、キャラクター制作などをおこなうベトナム人アーティスト。今回、ある進行中のプロジェクトが紹介されるとのことで、オープンしたばかりの8月上旬に彼の作品が展示されている1の1スタジオを訪ねた。

東南アジアを旅するとよく目にする“シュガーケイン(さとうきび)ジュース”の屋台。今回彼が黄金町で展開するプロジェクトは、かつてその屋台に描かれていた女性の絵に端を発した“シュガーケインレディー・プロジェクト”というものだ。フィールドワークとリサーチに基づくこのプロジェクトは、国民的女性像とも言えるキャラクターの陰に潜む歴史的・文化的背景を、人々のパーソナルな記憶を通して探ろうとする試み。

歴史の騒音にかき消された小さな記憶を集めるジャーナリスティックな好奇心とは裏腹に、屈託のない笑顔とおおらかな面持ちが印象的なベンに、彼のプロジェクトについてインタビューをおこなった。



シュガーケインレディー・プロジェクトとは



ー まず、プロジェクトについてお聞きする前に、ベトネムでのシュガーケインジュースにまつわる現状についてお聞きしたいと思います。
シュガーケインジュースを販売する屋台は、ベトナムの至る所でみることができるものですか?そしてそこには必ずシュガーケインレディの絵が描かれているのですか?


ベトナムでのシュガーケインジューススタンドは、戦争(ベトナム戦争)集結の1975年を期に、実際に女性が立って販売するスタイルから、女性の絵を屋台に描いて販売するスタイルに変わっていきました。というのも、アメリカの影響で、ベトナムに広告という概念がもたらされ、それ以降シュガーケインレディ同様、果物や、さとうきびなどの派手なモチーフが、屋台に盛り込まれるようになっていきました。

でも現在のベトナムではこの旧式の屋台はあまり見なくなり、今はオートマティックな機械を使っての販売が一般的です。



Kogai-Sugar Cane Super Machine
ライヤー・ベン作 Kogai-Sugar Cane Super Machine(コガイ・シュガーケイン・スーパー・マシーン)


ー では、ベンはどこで最初にこの絵を発見したんですか? “シュガーケインレディ・プロジェクト”を始めるきっかけについて教えてください。

一番最初にみつけたのはどこだか忘れてしまったけど、田舎に行った時に見つけました。田舎にはまだ旧式の屋台がたくさん残っているんです。いくつもの似たような絵があるけど、この女性はいったい誰なんだろう…と興味を持ったのがこのプロジェクトの始まりです。



シュガーケインレディーの一例
シュガーケインレディーの一例


ー “シュガーケインレディプロジェクト”では具体的にどのようなことをおこなっているんですか?
実際のシュガーケインレディーのイメージを写真で撮影したドキュメントとシュガーケインレディにまつわるストーリーを収集しています。


本当はこの女性の絵を誰が最初に描いたのかを調べようと思ったんですが、当時生きていた人たちはみな年老いてしまっていて、本人に話を聞くことが難しかったんです。だから代わりに、その世代の人たちにFacebookなどを使って、「シュガーケインレディーのイメージを教えてください」という質問を投げかけ、その人たちの中にあるシュガーケインレディーにまつわるストーリーを集めていくことにしました。

ー 調査の対象はシュガーケインレディーが描かれていた70年代頃に生きていた人々ということですね。このプロジェクトはどのくらいの期間やっていて、何人の人から返答をもらえましたか。

プロジェクトをはじめてから一年くらい経ちます。今10人の方に質問に応えてもらい、それぞれのストーリーを聞くことができました。



調査の途中ででてきたベトナムの国民的歌姫タン・ラン ー 日本との関係とは?!



ー どんなストーリーがありましたか?

例えば、「このシュガーケインレディーはアメリカの将軍の娘で、彼女はとても美しかったからベトナム人ではないんだ。」という話や、「フランスの将校と最終的に結婚し、田舎から都会に移り住んだ」という話や…。

中でも、ファン・タイ・タン・ランという1960-75年頃に活躍した歌姫にまつわる話は、日本にも関係する興味深いものです。リサーチを進める中で、その国民的歌姫の写真を送ってくれた人がいたんです。それを見て、僕はシュガーケインレディとタン・ランのもつイメージが、ベトナム人にとっての理想の女性像にとても近しいのではないかと気付きました。だから今はその関連性を探っているところです。

ー 彼女はベトナム戦争の時期に活躍していた歌姫ということですね。今はどうしているんですか?
そしてその日本との関係性とはどのようなものですか。


彼女は亡命して今はアメリカにいます。(※注:タン・ランは当時のベトナムNo1女優にして歌姫。戦争終結後、ボートピープルとして幾度となくベトナム脱出を図り、アメリカ亡命に成功したそう。)

ちなみにこれが彼女の歌です。





ー え!日本語なんですか?!

一般的には1990年代以降に日本とベトナムの親交が深まったと言われていますが、僕は1975年以前にも親交があったと思っています。というのも、その頃に日本人のプロデューサーたちがベトナムに行って、アーティストたちをたくさんプロデュースしていたからです。この映像がそのことの証明でもあると思います。


ー ある人のパーソナルな記憶から、ある歴史の小さな一部分が浮き彫りになってきたということですね。とても興味深い話です。
シュガーケインレディーの絵と、そのイメージにまつわるストーリーの収集を通じて、ベンが追求していることはなんですか。また、このプロジェクトのゴールは現段階でみえてきていますか?


僕は、このプロジェクトを通して、単に女性のイメージを追求するだけではなく、ベトナムの歴史の記憶(History memory)を集めることに重点を置いています。それは僕が住んでいるベトナムという国の歴史の記録にもなるからです。

このプロジェクトを始めて一年くらいが経ちますが、終着点はまだまだ自分でもわかりません。でも、もしも自分が満足のいくところまでできたり、このプロジェクトによって何かいい効果が生まれて、そのことを自分が実感できたら、それがこのプロジェクトのゴールなのかもしれないとは思います。今の時点ではどこが終着点なのかは僕にもわかりません。



ライヤー・ベン

黄金町バザール2014 出品作品について



ー 黄金町バザール2014では、これまでベンが一年間かけて探求してきたことの、現時点での到達点をみてもらうということになりそうですね。今回の展示・実演について詳しく教えてください。

黄金町では、1の1スタジオでシュガーケインジュースの屋台の写真や、これまで収集した様々なシュガーケインレディーの展示を行っています。その中には、僕が描いたシュガーケインレディーも一部含まれています。そして、かいだん広場では、実際に屋台を出して、沖縄から取り寄せたさとうきびを使ったシュガーケインジュースをみなさんに提供しています。

ー 屋台もベンが作った手作りのものですよね。この屋台のこだわりはなんですか?

展示室の写真にもあるんですけど、ベトナムで販売されているシュガーケインジュースの屋台にはいくつかのバリエーションがあって、中でも中国式の屋台というのは、装飾に中国の歴史を取り入れ、売る時に彼らの歴史も一緒に語るというスタイルをとっています。僕も今回はそのスタイルを真似て、ベトナムの歴史や文化がわかる装飾を屋台に描いています。



シュガーケインジュースの屋台


かいだん広場でベンを見つけたら、是非声をかけてベンの作るシュガーケインジュースを味わってみてください。シュガーケインジュースは、想像よりもはるかにすっきりとした、ちょっとスイカジュースのような夏にぴったりな味わいです。

そして、今回ベンは黄金町バザールの一環で、京急キッズランド黄金町のこどもたちと一緒に壁画を描くワークショップをおこないました。その様子はこちらです。ちなみにここで描かれた絵は、「バザール バザール」前の鋼板に展示されます。



ストリートアーティスト ライヤー・ベン

ライヤー・ベンの作品


ストリートアーティストとしてのライヤー・ベン



最後に、今回の記事のために、ベンのストリート・アーティストとしての作品写真をいくつか送ってもらいました。ライヤー・ベンのもう一つの一面も要チェックです!



ライヤー・ベンの作品

ライヤー・ベンの作品

ライヤー・ベンの作品

ライヤー・ベンの作品

ライヤー・ベンの作品

ライヤー・ベンの作品

ライヤー・ベンの作品


その他インタビューやレポートはこちらから!

関連するURL
http://www.liarben.blogspot.jp/

あなたにおすすめの特集記事

NEW

「渡辺俊美のINTER PLAY」インタビュー

2016年10月2日より、FMおだわらで放...
11月14日公開

続きを読む:「渡辺俊美のINTER PLAY」インタビュー
NEW

県庁アナウンサーが行く!神奈川近代文学館 石川哲…

名前 石川 哲也(いしかわ てつや) ...
11月13日公開

続きを読む:県庁アナウンサーが行く!神奈川近代文学館 石川哲…

黒岩神奈川県知事×白井監督×八木大使「かながわマグ…

今回の「マグな人々」特集は、かながわマグカルトークと称して...
11月8日公開

続きを読む:黒岩神奈川県知事×白井監督×八木大使「かながわマグ…

第3回全国高等学校日本大通り ストリートダンスバト…

神奈川県横浜市日本大通りで開催される「全国高等学校日本大通...
11月6日公開

続きを読む:第3回全国高等学校日本大通り ストリートダンスバト…

スマートイルミネーション横浜2017

今年で7回目を迎える省エネ技術とアートが織りなす、新たな横...
11月5日公開

続きを読む:スマートイルミネーション横浜2017

創造都市横浜×マグカル コラボ企画「関内外OPEN!9 …

11月3日(金・祝)、4日(土)に横浜のJR関内駅を中心に...
11月1日公開

続きを読む:創造都市横浜×マグカル コラボ企画「関内外OPEN!9 …

黒岩神奈川県知事×白井監督×八木大使「かながわマグ…

今回の「マグな人々」特集は、黒岩神奈川県知事とKAATの芸...
10月30日公開

続きを読む:黒岩神奈川県知事×白井監督×八木大使「かながわマグ…

遊ぶ。ふれあう。体験する。 SATOYAMA & SATOUM…

2017年10月9日(月・祝)に、小田原アリーナ(神奈川県...
10月30日公開

続きを読む:遊ぶ。ふれあう。体験する。 SATOYAMA & SATOUM…

カナガワ リ・古典プロジェクト2017 in 大磯

主催:かながわの伝統文化の継承と創造プロジェクト実行委員会...
10月25日公開

続きを読む:カナガワ リ・古典プロジェクト2017 in 大磯

Ryu Mihoの『Woman in Jazz♡』第4回 鎌倉「tsuu」 …

JazzyPopシンガーのRyu Mihoです。 ジャズ...
10月14日公開

続きを読む:Ryu Mihoの『Woman in Jazz♡』第4回 鎌倉「tsuu」 …

黒岩神奈川県知事×白井監督×八木大使「かながわマグ…

今回の「マグな人々」特集は、かながわマグカルトークと称して...
10月10日公開

続きを読む:黒岩神奈川県知事×白井監督×八木大使「かながわマグ…

「マグな人々第3回  白井貴子さん」

神奈川県の「マグカル」の取組を推進するために、有識者からご...
10月6日公開

続きを読む:「マグな人々第3回  白井貴子さん」

あなたにおすすめのイベント

横浜市(ベイエリアを除く)

12/14

草笛で曲を吹こう (横浜市)

神奈川県立四季の森公園

続きを読む:草笛で曲を吹こう (横浜市)

川崎市

12/23〜
12/24

川崎ゆかりのゴジラ映画 (川崎市)

川崎市市民ミュージアム 映像ホール

続きを読む:川崎ゆかりのゴジラ映画 (川崎市)

川崎市

12/17

川崎ゆかりのゴジラ映画 (川崎市)

川崎市市民ミュージアム 映像ホール

続きを読む:川崎ゆかりのゴジラ映画 (川崎市)

横浜市(ベイエリアを除く)

12/10

自然観察会「冬に見られる野鳥」 (横浜市)

神奈川県立四季の森公園

続きを読む:自然観察会「冬に見られる野鳥」 (横浜市)