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神奈川県発、アート・カルチャーメディア「マグカル」。ミュージカル・音楽・演劇・映画など県内のアート情報を発信します。

宮永愛子 インタビュー『遷り変わる港 いくつもの時間』

宮永愛子 Aiko Miyanaga

1974年京都市生まれ。2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。日用品をナフタリンでかたどったオブジェや、塩を使ったインスタレーションなど気配の痕跡を用いて時を視覚化する作品で注目を集める。主な展覧会に「house」ミヅマアートギャラリー、(東京、2013年)、「宮永愛子:なかそら―空中空―」国立国際美術館(大坂、2012年)、「景色のはじまり―金木犀―」ミヅマアートギャラリー、(東京、2011年)、「あいちトリエンナーレ」(愛知芸術文化センター、2010年)など。

Interview by Masanobu Nishino  Text by Akiko Inoue

 

現在BankART studio NYKで開催中の「日産アートアワード」。今年第一回を迎え、隔年で開催されるというこの現代美術のアワードで、先日8人のファイナリストの中からグランプリと審査員特別賞が選ばれた。今回、その記念すべき第一回グランプリに輝いた宮永愛子さんにお話をうかがった。宮永さんの展示場所は、BankART studio NYK2階のバルコニーから港を臨む外にひらかれた空間だ。大きなガラスケースの部屋の作品がちょうど内側と外側の間にある。展示を観るとき、室内から外へ向かう途中、ちょうどガラスケースのあたりから、港の喧噪が耳に心地よくフェードインしてくる。そして外に出ると風の音やカモメの鳴き声とともにその風景が目に広がる。それは絶景という類いの景色ではなく、連続する「今」という時間そのもの。
海をはさんで向こう側にみえる港街は、その日もたくさんの人で賑わいをみせていた。

展示会場で宮永さんと会い、1階カフェでお話を伺った。鋭い集中のあと、一瞬だけ訪れる穏やかな日々。そんな脱力にも似た、けれどゆるやかで心地よい時間をほんの少しにじませながら、私たちのインタビューに応えてくれた。

 

協力:BankART studio NYK

 

— 港町がはぐくんできた「歴史」の時間/「今」という表層の時間 —

 

このたびは日産アートアワード2013グランプリ受賞おめでとうございます。

最初に今回受賞された《手紙》という作品について、そのコンセプトをお聞かせください。 

 

美術って、(飲んでいたコップを指差して)この物の中をつくっていく人もいると思うんですけど、私は空間全部をつくっていくのが好きなので、まずその場所に来てどこを使いたいか考えて制作をします。今回だったら一番魅力的に思ったのは、港の景色と、港の向こうにある景色。いつも人が動いていたり、魚が跳んだり、風車が回ったり遷り変わってる。そういうような表層の時間=「今」っていう時間が動いているのがわかる景色が向こうにあって、これをまず作品に使いたいっていう気持ちがあったんです。じゃあ次に、どうやってその空間を作ることができて、効果的にその場所を使えるか、なんですけど、今動いている景色の「時間」には、例えば歴史の時間のようなもっと前の「時間」が存在するということを考えるんです。ここの港がどういうふうにしてはじまったのか、どうして今の表面の時間がつくられたのか。説明しないでも、見る人がなんとなくそういうことを考えてしまうような、そういう展示をしたいと思って作品をつくりはじめました。

 

_MG_0143

宮永愛子「手紙」2013
ナフタリン、樹脂、封蝋、トランク、ミクストメディア
Photo:木奥恵三
©MIYANAGA Akko / Courtesy Mizuma Art Gallery

 

確かに。宮永さんの今回の展示は、外の風景を意識しながら観ていました。

 

展示しているところは部屋の中ですが、展示している場所は部屋の中の1カ所だけではなくて、1カ所の展示場所にまつわる空間全部っていうことになるので、ものが置いてある部屋の中、その部屋に入るまでの通路、それから部屋の外にあるバルコニーも空間として使っています。そういうふうに3つの景色を展示に使うことで、もっと遠くの景色も作品に組み込まれているということを、観る人が知らないうちに感じられる作品構成になっています。

 

宮永海

 

バルコニーには作品に使用されたトランクが置かれており、背後には多くの船や人が行き交う港の風景が広がる。(photo:MAGCUL)

— 「もの」に堆積した個人の時間 —

 

—  今回の作品のモチーフの一つにトランクが使われていますが、どんな意図がこめられているのですか。

 

そこに流れている時間について、観る人も考えてしまうような作品ってどうやったらつくれるんだろうって考えて、今回はモチーフにトランクを使いました。もともとBankART studio NYKは倉庫だったところなので、ここから旅がはじまっていったり、でもただ出て行くばかりじゃなく、こちら側に入ってくる要素もあったり、そういうことが感じられるものがいいと思って。下見に来たとき、外側に沢山パレットが積んであったんですけど、それもいくつか展示に使うことにして、いろんなことを説明しないでも、イメージが湧くような景色作り(=インスタレーション)をしました。

 

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宮永愛子「手紙」2013(部分)
ナフタリン、樹脂、封蝋、トランク、ミクストメディア
Photo:木奥恵三
©MIYANAGA Akko / Courtesy Mizuma Art Gallery

 

—  今回はトランクでしたが、日用品をモデルにすることが多いですよね。そのセレクトにはどんな意図があるんですか。

 

観たときにそれぞれの記憶と結びつきやすいので、特別なものよりは、なるべくみんなが知っているものを選んでいます。例えば靴の場合は、しわとか、へり方とかに使っていた人の時間の堆積をみることができます。そうなると物なんだけど物ではなくて1人の人みたいな感じになる。私はナフタリンで人体を型取ろうとは思わないんですね。そんなことをしなくても、充分鍵1本で人を感じられると思うんです。そういうつもりでモチーフは選んでます。

 

貴族的なピエロ

宮永愛子「貴族的なピエロ」(部分)2007
ナフタリン、ミクストメディア
Photo:上野則宏
©MIYANAGA Akko / Courtesy Mizuma Art Gallery

— 素材が教えてくれること。ナフタリンとの出会い —


宮永さんはナフタリンを作品によく使っていらっしゃいますね。バルコニーと室内の中間に位置するガラスの部屋の作品についてお聞かせください。

 

初めて来た人は、もともとガラスの部屋があったように思うかもしれないけど、実際は通路(風除室)だった場所で、ガラスを3枚足すことによって部屋に見立てています。ナフタリンの作品がどんどん変わっていく過程をみることができる空間をつくりました。これは、今までのガラスケースの作品で、最も大きいサイズになります。室内にあるものは、全部が「封入」されたものになっていて、ナフタリンが露出してるものは一つもありません。観る人の側にはきっかけだけが用意されています。

 

 

ナフタリンを作品に使うようになったきっかけを教えてください。

 

大学4年生の卒業制作を何にするか考えているときに、母とタンスの衣替えをしていて、袋に2つ入っていたナフタリンが、丸い形だけを袋に残しているのをみつけて「もしこれで作品がつくれたら、消えてなくなる作品ができる」と思ったのがきっかけです。彫刻コースだったので、消えてなくなる彫刻なんて他に誰かやっていたんだろうか、やってみたいなと思って。

—《手紙》というタイトルにこめられているもの—


先ほど「封入」という言葉が出てきましたが、トランクの中に鍵の形をしたナフタリンが「封入」されている作品がありますね。何か仕掛けがほどこされていると伺ったのですが。

 

透明樹脂のトランクの作品はナフタリンが封入されていますが、よく見てみると小さな空気穴が赤い封蝋で閉じられています。もし赤い封蝋をはずすと、そこから少しずつナフタリンは昇華をはじめ、鍵は永い時間をかけて不在の形としてあらわれてくるでしょう。つまり、ガラスケースの部屋の中で起こっているのと同じことが起こっていくんです。

 

今回の展示には《手紙》というタイトルがつけられていますね。

 

ここ横浜は古い港町で、西洋文化の入ってきた港だということは誰もが知るところですよね。きっと物の流通と共に、新しいことを始める人の期待や夢も交差した場所だっただろうと思います。その歴史の続きに今のこの景色があって、またその続きに未来の景色がつながっていきます。港から運ばれる様々なトランクは、誰かの思いを乗せてどこか遠くの国へ旅立って、また誰かの思いを乗せてここに届いている。日々移り変わる景色の中で、今までの歴史が重ねてきた時間に思いをはせて「手紙」というタイトルにしました。

 

— これからのアワードに期待すること —


今まで日本では現代美術の作品を集めてアワードをするという機会があまりなかったと思うんですが、
今回のような展覧会に期待することがあればお聞かせください。

 

日本では35歳を過ぎると、アワードや海外派遣制度に参加する機会が減っていくんですね。この展覧会には年齢制限がありませんし、第一線で活躍されている作家さんと一緒に展示するので、いい経験になりました。海外のキュレーターに作品を直接見てもらえるのも嬉しかったですね。何より、すでに評価の定まった対象ではなく、現代美術という、「今この時代から生まれてくる作品」に向き合っていただけたことに感謝しています。企業の支援というと、ともすればイメージアップが先行してしまいがちですが、今回は多様な作品への支援がありました。これを何年も続けると、「現在」という層がその重なりの中に見えてくるのかなと思います。

 

神奈川のオススメご紹介

『LA MAREE DE CHAYA  ラ・マーレ・ド・チャヤ(日影茶屋)葉山本店』
 

宮永愛子さんオススメの、LA MAREE DE CHAYAのケーキ「フレーズ」と「カテリーヌ」をご紹介します。せっかくなので今回は葉山の本店へ取材に伺いました。逗子駅からバスで5つ目の鐙摺(アブズリ)という停留所をおりると、目の前に広がる海とほぼ同時に目に入ってくるのがヨーロッパの田舎のお家のような喫茶店。それがLA MAREE DE CHAYAのパティスリー専門店。店内の机や棚なども年月を感じさせるものの、とても丁寧に扱われてきたのが伝わってきて、永く愛されてきたブランドならではの品格のようなものを感じました。かといって飾らず、ひっそりとしたたたずまいも好感がもてます。宮永さんオススメの「フレーズ」と「カテリーヌ」は定番ともいえるチョイスのようで、店内のショーケースには、季節の果実などをアレンジした数十種類ものケーキがところ狭しとならんでいました。こんなに色とりどりのケーキが、わずか400円代で買えるのも嬉しいです。

 

cake

カテリーヌとフレーズ | 店内写真

 

 

LA MAREE DE CHAYA(日影茶屋)はパティスリー以外にも、日本料理店・フランス料理店・そして和菓子専門店も展開しています。同じ鐙摺(アブズリ)停留所付近にあるので、葉山にいったら是非立ち寄ってみてください。

 

CHAYA |日影茶屋  公式サイト http://www.chaya.co.jp/index.html

関連するURL
http://www.aiko-m.com

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