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神奈川県発、アート・カルチャーメディア「マグカル」。ミュージカル・音楽・演劇・映画など県内のアート情報を発信します。

すどう美術館館長 須藤一郎インタビュー |はじまりは一枚の絵から

interview&Text:西野正将||2016.1.17公開

皆さんは小田原の住宅街に素敵な美術館があることをご存じでしょうか。小田原は富水駅から近い住宅街に8年前「すどう美術館」はやってきました。すどう美術館は平成2年に当時サラリーマンだった現館長の須藤一郎さんが、所有されているアートコレクションをもっと沢山の方に見てもらいたいという思いから、自宅を「すどう美術館」と命名し一般開放したことからその歴史がはじまりました。また美術館といえど震災のチャリティーイベントから作品の出張展示、コンサート、国内外から作家を招いてのアーティスト・イン・レジデンス事業の実施など、個人の美術館とは思えない規模で様々な取り組みも続けられています。最初は全く美術に関わりのない世界にいたという須藤さん。取材時はアーティスト・イン・レジデンスの展覧会が開催中ということもあり、展示品についてのお話も含め、美術館をはじめたきっかけなど、色々とお話をお聞きする事ができました。

interview&Text:西野正将

はじまりは一枚の絵から



–保険会社のサラリーマンだった須藤館長がはじめて作品を購入したことがきっかけとなり「すどう美術館」を開くことになったとお聞きしています。当初は美術に興味を持たれていなかったのでしょうか。

須藤:そうですね。昔は美術作品を買ったこともなかったのですが菅創吉という作家の作品を美術館で観たときに、最初は「何か変な絵だな」って印象だったのですが、ずっと観ているとどうも気になってしまって。そのうち段々胸に伝わってくるものがあり、夫婦共々気に入ってしまい、美術館の館長にお願いして売っていただいたのが最初のコレクションでした。



壺中
作品を集めるきっかけとなった菅創吉の作品。


–そこからなぜ多くの作品を所有することになったのでしょうか。

須藤:その一枚を皮切りに彼の他の作品も欲しくなってしまい、姫路と神戸の美術館に作品があるという事がわかれば、どちらにも足を運びました。また東京と大阪の画廊にも取り扱いがあるということわかり、はじめて画廊という場所に足を踏み入れることになりましたね。

–行ったことがない方からしたら画廊だなんて敷居が高いイメージがあったのでは?なかなか入りにくい雰囲気がありますよね。

須藤:そうですね。画廊初心者としては「買わなきゃ出られない」みたいなイメージを持っていたのでとても緊張しました(笑)。けどそんなことはなくて、それをきっかけに色んな画廊に足を運ぶようになったのですが、観ていくうちに他の作家の作品も欲しくなってしまって…。妻と気持ちが一致していたこともあり、どんどん買ってしまいました。

–そしてどんどん作品が増えていったわけですね。先ほどからお話を聞いているとコレクター夫妻のハーブ&ドロシー(※)を連想してしまいました。
※ハーブ&ドロシーとは
世界屈指のアートコレクションを築いた郵便局員のハーブと図書館司書ドロシーのコレクター夫婦。決して高くない所得だったがコツコツと作品を購入し続け、その数は5000点を超えた。近年そのコレクションは全米50州の美術館にわけて寄贈されている。

須藤:よく言われます(笑)。でもコレクターとして意識的に集めたわけではないので”結果的になってしまった”という感覚の方が強いですね。そう考えるとコレクターと言えないかもしれませんが、気になった作品を買わないと何か青い鳥が逃げて行ってしまうような気がしてしまって…。でも、作品は値段や名前ではなくて体で感じて楽しんで買うべきだと思いますよ。

–先ほど作品を購入されるようになったきっかけについてお聞きしましたが、作品が(結果的に)集まってきていよいよ「すどう美術館」を開館させることになるわけですね。

須藤:はい。絵が沢山集まったときに「絵の役割とはなんなのか」と考え、自分で出した答えが「多くの人に観てもらうこと」それから「絵から伝わる感動を人に伝えたい」というふたつだったんですね。そこで当時住んでいた町田の自宅に展示スペースを作って開放したのがはじまりなんです。人に観てもらうのが目的なので「すどう美術館」と名付け、木金土日開放して平日は妻が、土日は私も一緒に在廊して8年間そこで色々な活動を行いました。その時はまだ会社に勤めていたので退職と同時に終わりにしてもよかったのですが、NHKの日曜美術館に取りあげていただけたりと、活動していくうちに多くの繋がりができていたので、町田の後は銀座にギャラリーをオープンさせて10年、そしてこの場所に移転してきました。



すどう美術館は、以前作家がアトリエとして利用していた建物を改装して利用している。元アトリエだけあり、心地よい外光が空間に降り注いでいた。
すどう美術館は、以前作家がアトリエとして利用していた建物を改装して利用している。
元アトリエだけあり、心地よい外光が空間に降り注いでいた。


すどう美術館だからこそ、できることを



–一枚の絵からはじまり、どんどんその活動が大きくなっていった経緯がよくわかりました。ちなみに現在収録をさせていただいている会場には作品が展示されていますがこちらはアーティスト・イン・レジデンスで招聘された作家が制作されたものですよね。なぜ小田原でレジデンスを?

須藤:二年に一回作家を招聘していて今回で三回目になります。小田原に移転してくる前からスペイン、スロヴェニアのレジデンスより「日本の作家を紹介して欲しい」と言われて紹介していたのですが、「紹介するだけではなく日本にも作家を招かなければ」という気持ちが私の中にずっとありました。ただ銀座だと場所的に難しい…、けどこの小田原という風光明媚な土地であれば可能なんじゃないかと企画書を持って行政に「こういった事をやりませんか?」と提案してみました。しかしそれは無理でしたので、個人的に始めることにしたんですね。アーティスト・イン・レジデンスというものは、芸術の振興、アーティストの育成・支援だけじゃなく、作家に滞在制作を通して市民と交流してもらうなど、色々な可能性があるわけですね。今回もコンサートや、アーティストによるワークショップ、シンポジウム、作品の公開制作など、いろいろな活動を通してアーティストと市民が交流することができました。



アーティスト・イン・レジデンス中に開催した市民との交流ワークショップの様子
アーティスト・イン・レジデンス中に開催した市民との交流ワークショップの様子


–作家の選考は須藤さんが?

須藤:はい。日本の作家は公募で、全員私が面接して選考させていただきました。ただ海外の作家は面接するわけにはいかないので、過去の繋がりから色々な方に推薦をしていただきました。特に今回は色々な国の作家が集まったほうが良いかと思い、アメリカ、ドイツ、スペイン、スイス、スウェーデンから作家を招く事にしました。

–本当に多くの国から作家が参加されていますね。小田原で滞在制作される場合、作家が小田原で注目する視点や作品に対する傾向のようなものはあったりしますか。

須藤:傾向といえるか分かりませんが、最初にまず参加作家には小田原がどのようなところなのかゆっくりと見てもらいます。お城もありますし、有名な醤油屋など色々と見るところがあります。大雄山最乗寺で座禅の体験などもしてもらいました(笑)。なので、やはりそういった場所に触発されて制作される方はいますね。そこに展示してある岡本順子さんの作品なんかは醤油屋の壁を見てインスピレーションを受け紙のコラージュで制作した作品ですね。あとVictor Alba(スペイン)の富士山の見える風景画などはまさにこの場所から感じて制作している作品だと言えるかと思います。ただ独自のテーマを抱えている作家もいるのでKate Ali(アメリカ)の作品なんかは失業率のグラフを絵として表現しています。海外の作家は政治問題、環境問題など様々なテーマをもとに制作している人が多いイメージですね。あと余談ですが制作だけでは窮屈だと思うので各作家には自由時間を設けたりもしました。



写真左:岡本順子(日本)/写真右:Victor Alba(スペイン)|どちらも小田原での体験を平面に描き出している。
写真左:岡本順子(日本)/写真右:Victor Alba(スペイン)|どちらも小田原での体験を平面に描き出している。


–それは貴重な体験ですね(笑)。確かに毎日制作だけではせっかく小田原にきた意味もありませんし、そこから自由に感じ取る時間も必要だと思います。

須藤:そうですね。制作も重要ですが、体験を通して小田原の良さを知ってもらうことによって、この土地の良さが伝わり、その後の観光や経済につながっていくと思うんです。そういった広い視野で考えないといけないと市の方とも話しています。



写真:Kate Ali(アメリカ)の作品|白い線は失業率のグラフを引用して描かれている。
写真:Kate Ali(アメリカ)の作品|白い線は失業率のグラフを引用して描かれている。


–では、最後の質問になりますが8年前に突如住宅街の中に美術館が現れたわけですが、地域の方々も多くの方が美術に対して興味を持たれていたわけではないかと思います。しかし8年間、今回のアーティスト・イン・レジデンス事業も含め、様々な活動を実施してこられたわけですが、活動を通して見えた地域の反応の変化などはありますでしょうか。また、今後の展望などもお答えいただければと。

須藤:私は美術界にサラリーマンという経験を通して入ってきたわけですが、アートは人間の精神的な面で、無くてはならないものだということを人に伝えたいと言う気持ちが強くあります。完全なる画廊でもないし、大きな美術館でもない。でも“すどう美術館だからこそ”出来ることをやってきたと思っています。レジデンス以外にも、震災が起きた後は岩手県の被災地で展覧会やコンサート、ワークショップなどを開催してきましたし、コレクションを地方に持って行き、出前美術展を開催したりと様々ですね。美術というのはやはり一般的には馴染みがないものだと思いますけど、質が良く、多くの方に観てもらうべき作品をずっと展示してきたつもりなので、この近辺の方々もだいぶ興味を持ってくれるようになりました。特にアーティスト・イン・レジデンスでは多くの方にご協力、ご来場いただく事ができました。いままでやってきた活動の意味がだいぶ伝わってきているのではないかと実感しています。今後の展望としてはやはり継続ですかね。このレジデンス事業も東日本の支援プロジェクトもそうですが、私達がいつまで続けられるかわかりません。是非、何らかの形でこの活動を続けていく人が出てきて欲しいと思います。



写真:館長の須藤一郎氏と須藤紀子夫人
写真:館長の須藤一郎氏と須藤紀子夫人


1月8日(金)~24日(日)まで、新春セレクション展を開催しています。
【会期】1月8日(金)~24日(日)月曜休館
【開館時間】11:00~18:00(最終日は17:00まで)
http://www.sudoh-art.com/jp/home.html

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