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舘形比呂一のDanceable LIFE Vol.10

舘形比呂一のDanceable LIFE Vol.10

「横浜美術館コレクション展」でパワーを充電!
舘形比呂一(役者・ダンサー・振付家)

依然としてコロナ禍の厳しい状況が続いていますが、どんな時でも素敵なことに出会えるチャンスはあるものです。今回はマグカル編集部の提案で、横浜美術館をご案内いただく機会をいただきました。とても楽しい時間を過ごすことができたので、その一部始終をレポートします。

横浜美術館のオープンは、1989年。設計は日本を代表する建築家、故・丹下健三さん。シンメトリーな外観は迫力があり圧倒されますが、中に入ると広々としたグランドギャラリーが迎えてくれ、明るくくつろいだ気分になれます。

建築を「まちづくり」と捉えていた丹下さんは、構想段階ではここを24時間開放し、人が自由に往来できる空間にしたいと考えていたとか。セキュリティ等の面から実現しませんでしたが、開館時間内であれば無料で入れるし、コンサートなども行われてきたそうなので、「町の広場」としての機能は叶えられたのかもしれません。

美術館を正面から見上げると、中央に展望室のような空間があります。
学芸員さんに伺ってみたところ、本当に展望台だったそうなのでびっくり!

当時は周囲に高い建物がなかったため、ここから海が見渡せたそうです。
現在の眺めはこんな感じ。普段はボランティアスタッフの活動などに使用されているそうで、一般公開はされていません。

美術館の前にはグランモール公園が整備され、丹下さんが構想した町の賑わいが感じられます。この美術館ができたことで、みなとみらいの町はここまで発展したのかもしれませんね。

ここからは、主任学芸員の片多祐子さんに『横浜美術館コレクション展』をご案内いただきました。

「今回のテーマは『ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術』。日本では明治から大正、さらには昭和と元号が変わる中、横浜は関東大震災、第2次世界大戦と2度にわたって壊滅的な被害を受け、そこから復興をなし遂げてきたという激動の時代です。そんな歴史の流れを、美術を通して見ていただきたいと考えています」

序章から第1章は、日本人にとっての「洋画の青春期」にあたるそうで、西洋美術に憧れながら「日本人らしさとはなんだろう?」と模索する画家たちの“熱”を感じます。洋画の技術を学び、海外の流行やカッコよさを知るにつけ、それを自分たちが描くことの意味とはなんなのだろう、と模索する。真似するのではなく自分の表現にしていくことの葛藤は、ダンスの世界と同じなのだと感じました。

第3章は「関東大震災からの復興」。

「関東大震災の記録を描き留めた画家がいる一方で、震災の2年後には桜木町駅前の仮市庁舎跡でフランス美術を紹介する展覧会が開催されました。モノクロの小さな図版でしかみることのできなかった西洋絵画の“実物”が見られるようになったわけで、お土産としての絵葉書も人気を集めたそうです」

第6章では写真家の作品が並んでいました。

「1938年、横浜美術協会展では、全国に先駆けて写真部が創設されました。芸術として認められていなかった写真が、美術表現の一手段として認められていきます」

目に留まったのは、常盤とよ子さんの作品です。女流写真家のパイオニア的な存在だそうですが、この時代の日本で、すでに女性のアーティストが活躍していたというのは素晴らしいですね。

個人的に強く惹きつけられたのは、円形の展示室。天井が高くてとても気持ちの良い空間です。

「ここは斎藤義重の《内部》を展示しています。戦前から半立体や抽象表現といった“突き抜けた”作品を手がけてきた方です。この作品は、もともとは矩形の室内を想定して制作されたのですが、1994年に『戦後日本の前衛美術』展を当館で開催した際、作家自らのインストラクションのもと、この円形の展示室で初めて展示されました」

明るくて開放的で、本当に素敵な空間ですね。前衛芸術と聞くと「難しそう」と思いがちですが、こうした素晴らしいアート空間に身を置くととても幸せな気分になれます。

最後の部屋は「今日(こんにち)の作家展」。

「1964年に横浜市民ギャラリーが開設され、注目の現代美術家を紹介する「今日の作家展」が開かれるようになりました。ここでは、40年にわたって開催された同展のうち、60年代に出品された作家による所蔵作品を紹介しています」

「60年代に入るといわゆる“反芸術”の動きが活発になり、既存の枠にとらわれない自由な表現が、日本でも台頭してきます。ここには、マルセル・デュシャンのような大巨匠の作品を日本人作家がもじった作品も展示しています」

60年代以降、既存の美術から脱却して、絵画でも彫刻でもない、空間自体を作品化しようとする表現も増えていくそうです。
ダンスなどの舞台芸術はもともと一瞬ごとに消えていく刹那的な世界ですが、美術でもモノとして完結しない作品が増えているんですね。現代のアートは、目で見るだけでなく、味や臭い、手触りなども含めた五感すべてで楽しむものなのかもしれません。

最後に、もう一度8階の展望台にご案内ただきました。
外はすっかり暗くなっていて、イルミネーションに包まれたグランモール公園が本当に美しい!

美術館にはどこか「かしこまった」イメージがあったのですが、今日は本当に楽しかったです。
まず、美術館の建物自体の存在感に説得力があるので、その中に身を置くことの醍醐味があります。また、ご案内くださった片多さんをはじめ、若いスタッフが活躍していることにも驚きました。横浜美術館は、2021年3月から改修工事のための長期休館に入ります。丹下さん設計の外観等はほぼ変わらないものの、空調などの設備面はより快適に、若々しく生まれ変わるそうなので、楽しみです。

休館前の最後の企画展『トライアローグ』には、僕の大好きなアンディ・ウォーホルの作品も出展されているそうなので、休館前にもう1度来られると良いのですが。
その時も、ぜひ解説付きでお願いします!

横浜美術館コレクション展
「ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」
[日時]11月14日(土)〜2021年2月28日(日)10:00〜18:00(入館は17:30まで)
[会場]横浜美術館
[休館日]木曜日(2月11日を除く)、2月12日(金)
[料金]一般¥500、大学・高校生¥300、中学生¥100、小学生以下無料、障がい者手帳をお持ちの方と介護の方(1名)無料
※日時指定予約制
[主催]横浜美術館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
[問合せ]045-221-0300(横浜美術館)

*新型コロナウイルスに関わる開館の状況はウェブサイトにてご確認ください。

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