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ファブラボ鎌倉~モノづくりから地域の絆と創造的な暮らしをつくる

ファブラボ鎌倉~モノづくりから地域の絆と創造的な暮らしをつくる

「ファブラボ(FabLab)」ってことば、聞いたことがありますか?
なにをしている場所かご存じですか?
ファブラボの「ファブ(Fab)」とは、「Fabrication(ものづくり)」と「Fabulous(素晴らしい)」という2つの意味が込められた造語で、ファブラボとは個人による自由な「ものづくりの可能性」を、それぞれの地域のさまざまな人たちと連携し、インターネットで全世界に情報発信し広げて行くムーブメントの拠点・「ラボ(Lab)=工房」のことです。
鎌倉市にある「ファブラボ鎌倉」代表の渡辺ゆうかさんに、ファブラボから生まれる、人と、世代と、地域と、世界がつながる「ものづくり」についてお話を伺いました。

Interview&Text:大関留美子

最先端のデジタル機材を備えた工房は、築128年の酒蔵だった!

休日は観光客でにぎわう鎌倉駅の、少し静かな西口を出て歩くこと約5分、いかにも歴史のありそうな古い蔵が見えたらそこが「ファブラボ鎌倉」です。

――3Dプリンターやレーザーカッターなど最先端のデジタル機材を備えた工房が、明治時代の蔵をリフォームした建物だなんて、とても素敵ですけどどうして蔵を選んだのですか?

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渡辺:この「結の蔵」はもともと秋田県にあった築128年の酒蔵で、2004年に鎌倉に移築されたものです。
ファブラボ鎌倉は2011年に日本で最初のファブラボとして設立されました。
都市部からは少し離れ、緑豊かで伝統文化のある鎌倉の街に生まれる最先端のデジタル工作機器を備えた工房が、ただの工作所ではなく「ファブラボ」というグローバルな理念を持つ「新しい場」なのだというメッセージを伝えるために、この酒蔵はローカルとグローバル、古い文化と新しい技術を象徴するのにぴったりでした。

――確かに、ここはなにをしてる建物だろう?という興味を引く外観ですね。
さて、ファブラボとは「ものづくり」をするための工房というのは理解できましたが、実際にどのように利用されているのでしょうか?

渡辺:ファブラボは「ものづくりをもっと身近に」するための工房ですが、ホームセンターなどにあるDIYコーナーとは少し趣旨が違います。単に工作機器を使える場、なにかを頼んで作ってもらう場ではありません。

「こんなものがあるといいな」「自分で作ってみようかな」と思った人がここに来て、ほかのメンバーと意見交換をしながら設計し、機械の操作を教わりながら自分で作り、そのデータをインターネットで公開しさらに世界中の人とアイデアを共有していくことを目指す工房なんです。

そして地域に「ものづくり」を通して世代を超えたネットワークをつくる拠点でもあります。

「ファブラボ」が地域に存在することで果たす役割について

――なるほど、なぜそのような工房を作ろうと思ったのですか?

渡辺:ひとつは、大掛かりな機械で大量生産じゃなくても、コンパクトな大きさで少ないロットの製品が作れる工作機械が身近になったことです。
近代の工業化から今日までのあいだに、ものづくりにおいては「つくる人」と「使う=消費する人」が分離してしまい、一般の人から「自分でつくる」という概念が失われてしまいました。

――そうですね。自分で何かを工作するのってせいぜい学生時代までだった気がします。

渡辺:「創造する」というのは人間の才能のひとつです。近い将来さらなる技術革新によって、ヒトの仕事はどんどん機械(人工知能)に奪われるといわれています。今の小学生が大人になって社会に出たとき、その6割は「今、存在しない」仕事に就いているだろう、という話があるんですよ。

その「未知の仕事」に対応していくために必要なのが、「クリエイティブ(創造力)」であり「コラボレーション(相互協力する力)」です。
小さな工房でも最先端のデジタル機材を利用できるようになった今、「ものづくり」をもっと身近にし、「ものをつくれる人」をもっと増やしていきたいですね。

もうひとつは、「ものをつくる人」とそのつながりを地域につくることです。東日本大震災から「地域の絆」の大切さが語られるようになりました。そして地域というのは実際は「昼間いる人」が支えているんです。

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――多くの人が「住む場」と「働く場」の間に距離がありますね。働いてる人が地域にいる時間は少ないですね。

渡辺:昼間地域にいるのは、会社を定年退職したシニア世代と子育て中のお母さん、そして子どもたちです。彼らにとっての、学校でもなく会社でもないけど、何かをつくったり学んだりできる「場」としての役割がここにはあります。
例えば、定年前は優秀なエンジニアだったおじいさんが、中学生の発明品の試作の相談にのってる姿など、年齢や性別、肩書は関係ない「ものをつくる人」同士のつながりがあります。

ファブラボに参加するにはどうすればいいですか?

――ものづくりを通して地域での人のつながりが生まれていくんですね。
では、そのファブラボに参加したい!と思った時、まずはどうしたらいいのでしょうか?いま何かを具体的に作りたいというわけではなく、おもしろそうだから雰囲気をのぞいてみたい、という気持ちなのですが。

渡辺:ファブラボ鎌倉では毎週月曜日の朝9時から、ラボの入ってるこの蔵のメンテナンス作業、簡単にいって「お掃除」をします。お掃除に参加していただいた方はそのあとお昼まで機材を利用することが出来ます。機材や設備の時間貸しサービスはやっていません。

――まずはお掃除から参加なんですね!一緒にお掃除しながらどんなメンバーがいてどんなことをするのかを知ることができますね。

渡辺:はい。予約不要ですので興味を持ったらまず参加してみてください。

初めて触る機材を操作するのは難しいし危ない場合もあるので、本格的に何か作りたい、機材を扱いたいという方には講習会を設けています。週末に開催していて、約2時間の講習で3Dプリンターやレーザーカッターの使い方を習得できます。こちらは予約制で有料になっています。

――ちゃんと基礎を教わることができるんですね。でもいきなりなにかを作ろうとしても、はたして自分になにが作れるのか全くわからないのですが…。

渡辺:実際にアイデアを形にしていくにはそれなりのスキルとステップをふむ必要がありますね。データづくりからプログラミングや電子工作など、アイデアをカタチにするスキル(FAB)を、10のステップで学んでいく基礎講座というのがあります。こちらを受講していただくと、最終的には全くのはじめての人でもこういう作品(写真)を作ることができるようになるんですよ。

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――おもしろい!iPhoneのフラッシュの光を当てると横浜の花火の風景が色鮮やかに浮かぶ箱、時間で空の色が変わるカレンダーの箱、近づくと挨拶するひまわりの箱、匂いセンサーで猫のトイレの替えどきを知らせる箱??アイデアいっぱいですね~~!

渡辺:まずはこういうステップを踏んで、アイデアを出して作る楽しさを体験していただきたいですね。ものづくりって楽しいんですよ!!

ファブラボ鎌倉から生まれて世界へ広がったモノと活動について

――楽しそうです!!ここで実際に生まれたファブラボらしい作品や活動って、どんなものがありますか?

渡辺:革職人の方がここでレーザーカッターの使い方を覚えて、革のスリッパキットというのを開発しました。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいてそのデザインデータは世界のファブラボで共有されスリッパがつくられました。データやノウハウをオープンにするというのがファブラボの理念のひとつです。
各国のファブラボでこのスリッパの設計図を元にレーザーカッターを使って、その国の文化や風土を背景にオリジナルな意匠を施した新しいスリッパが作られています。

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――鎌倉で生まれたデザインデータが世界中で共有されているんですね!

渡辺:ファブラボで生まれたプロダクトは全てオープンにして共有されることを目的にしています。例えるならクックパッド(cookpad)っていう料理レシピサイトがあるじゃないですか。ユーザーがレシピを投稿・公開し、作った人がまた自分なりのアレンジを公開する。あのイメージです。

――なるほど!わかりやすいです。他にはどんな試みがあるんですか?

渡辺:間伐材を使った木工製品を作るというプロジェクトがあります。「FUJIMOCK FES(フジモックフェス)」と呼んでいますが、富士山(FUJI)の間伐材で、アイデアをかたちに(MOCK-UP)するフェスティバル(FES)という意味です。
富士山麓の森で、専門家の指導のもとに木の伐採からのフィールドワークを行い、最後はさまざまなアイデアを元に、ファブラボでその木材を製品という「カタチ」にします。
普段は都会でデスクワークをしている人が、森に入り森のことを知る機会を得られ、さらにそこから何を作るかというアイデアを皆と出しあい、つくり上げるんです。

――自然環境の保護活動とものづくりの両方を知り、楽しむことができるんですね。

ファブラボ鎌倉のこれからについて

――ファブラボというのはデジタル機材を備えた町の工房という認識はあったのですが、こんなに深い理念や構想があるとは知りませんでした。
最後に、今後の活動についてお聞かせ頂けますか?

渡辺:2011年に日本ではじめてのファブラボが鎌倉(と茨城県つくば)にできてから、日本では今現在約16ヶ所にファブラボが生まれています。世界では89ヵ国600ヵ所以上に広がっています。
「ものづくり」のハード面での環境は、技術革新で私たちの身近に置けるほどコンパクトで低コストになりましたが、「自分でなにかをつくる」というクリエイティブな心ーソフト面を育てる機会や教育環境はまだ整っていません。

身の回りの暮らしから必要なものを自分で作ってみる、地域で、町で、必要なものを作ってみる、ひとりで無理ならたくさんの人に知恵と力を借りる、そういう体験ができる場、そういう人を育てる場としての役割を広げて行きたいです。

鎌倉には彫刻や木工、染色などのスキルを持ったクリエイターが多く、工芸品や雑貨を取り扱うお店も多い街です。鎌倉というローカルから生まれたものが世界にシェアされれば、鎌倉の魅力も世界に広がることになります。

鎌倉の街をひとつの大きなファブラボとして、モノをつくる楽しさを体験できて、スキルアップできて、さらにはひとりひとりの働き方や暮らし方も「自分でデザイン」できるようになる、そのためのチャンスを提供できる場でありたいですね。

来年は、日本で2回目になる「FabLearn Asia 2017(ファブラーンアジア 2017)」という国際会議も予定しています。デジタルファブリケーションとこれからの教育の可能性について、どんな意見や実践が生まれるか、まだこれからですが様々なことを試していきたいです。

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