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Double Planet 第1話
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Double Planet 第1話

Double Planet

第1話「その一歩が大きな一歩だったと気づく日が来る」

青野サトル
(フルタジュン&神田陽太/レディオ湘南パーソナリティ)

部活動に熱中した人生と帰宅部を選んだ人生。

その選択がもたらす優劣について。

ダイバーシティ全盛の時代において、部活動ごときで人生が左右されるわけがない。

16歳の哲学者である僕(青野サトル)はそう考えた。

1日の授業が終わると、藤沢駅の周辺をブラブラしてから家へ帰る。

スマホをいじっているうちに夜が来て、宿題をテキトーに済ませてベッドに寝転がる。

寝ている間に何か夢を見たような気もするが、それがどんな夢だったのか思い出せない。

輪郭のないあやふやな毎日だけがどんどんアーカイブ化されてゆく毎日。

「ダメだ……もう耐えられない」

と、口に出して言ったのは12月のことだった。

高校生活なんてあっという間だと誰かが言っていた。

年が明けて2020年。あと3か月で一年生が終わってしまう。

あれは本当だったんだ。現にここまでの記憶がほとんどない。

そろそろ寡黙な哲学者を引退する時なのだ。悟ったフリして老衰している場合じゃない。

僕はようやくある事実を受け入れる心の準備ができていた。

「ボクはバンドがやりたかった」

中学生になった時、インターネット解禁宣言を受けて、ネットの自由を手に入れた。

僕はあらゆる音楽を聴いて過ごした。入口はJ-POP。からの、アニメソング、ゲームソングを経由して、ロック、EDM、洋楽へ。縦横無尽に音楽を聴き漁った。腹を空かせたモンスターのように音楽を食い散らかしていった。たくさん聴くうちに自分の好みがだんだんと分かって来た。どうやら「バンドサウンド」と言われるロックバンドで演奏されるような形態のアレンジやサウンドが好きみたいだ。ありていに言えば、かっこいいやつだ。

けど、バンドがやりたいと思ったところで、人前で演奏したことなど一度もない。

そもそも楽器は義務教育で教え込まれたカスタネットとリコーダー以外は専門外。

それでも興味だけはある。この気持ち、なかなか立ち去ってくれないところを見るに本物だ。

「ボクはバンドがやりたい」

あの4月、軽音部に入ることを選択していたら僕はどうなっていたのか。

音楽の趣味がまるで合わない(と、勝手に思っている)同級生たちと一緒にやっていけるとは思えなかった。きっと入っていたところで、自分の居場所なんて軽音部にはなかった(と思うことで、やり直せない人生を肯定したかった)。僕は考えすぎる。めんどくさい。

たった一人でバンドなどできるのか?

いや、それはもうバンドじゃないのか。

じゃあ、何だろう?僕はどうなるんだろう?

このまま何もせず2年生になり、3年生がやってきて、僕の高校生活はフィニッシュか。

イヤだ。このままではゴールテープは切れない。それだけはわかる。

けど、何をすればいいのか、何から始めればいいのかがよく分からなかった。

学校のない土曜日の夕暮れ。

衝動的に楽器屋へ行ってみようと思い立った。

ネットで検索すると藤沢駅の近くにあった。

いつもは立ち入らない北口方面、遊行寺へと続く遊行通り。

季節外れな頼りないイルミネーションが並んでいた。

これは来るバレンタインデーを見越した先手なのか。それともただの怠惰なのか。

狙いがよく分からない。

ずんずん歩いていくと、「若泉楽器店」があった。

来てみたはいいものの、急に妙な緊張が押し寄せてきた。

通行人のフリをしながら、ガラス越しに店内の様子を伺ってみる。

何度も店の前を往復してはチラ見を繰り返す。明らかに不審人物だ。

このドアを開けるのか、開けないのか。

たったそれだけのことで死ぬほど悩む。

今日、お金を持って来ていない自分は完全にひやかしの客だ。

そんな客が入ってもいいのか?やはり、帰るべきではないのか。

もう一度よく考えてみよう。

またの日にしよう。また今度だ。さような…

「ポロン、ポロン」

店内からギターの音色が聞こえてきた。

嬉しそうにギターを試し弾きする客とそれを見つめる店員の姿。

僕はまた自分が変わるチャンスを逃がすのか。

今、逃げたら二度とここには来ない気がする。これまでもそうだった。

「また今度」なんてないんだ。

ここだ。僕の一歩は、今、このドアの向こう側にある。

「今だ」

吸い込まれるようにドアに手をかけ、ぐるっと回転して、気が付けば店内にいた。

壁に掛けられたアコースティックギターを眺め、ボディの美しさに見惚れてしまう。

これまでネットを通じて見てきたものとは質感がまるで違う。

覗き込む自分がボディに映り込むほど照り輝いている。

振り返ると、エレキギターが並んでいた。

ポップで鮮やかな色合いは、子供の頃に持っていた24色のクレパスを思い出した。

弾けもしないのに、今すぐ手に取ってカッコつけたくなった。

僕は初めて楽器が欲しいと思った。

いや、楽器ではなくギターが欲しいのか。それも違う気がする。

「いつかこれを人前で弾いている自分の未来が欲しい」

放心状態のまま店を出た。

『不思議の国のアリス』で、アリスは穴から出てきた後、いったいどうしたんだっけ?

僕はアリスでもないのに、脈絡もなくそんなことが頭をよぎった。

遊行通りを駅まで戻ることにした。

最初の一本は、アコースティックギターなのか、はたまたエレキギターなのか。

それとも両方か。いや、調子に乗りすぎだ。どちらか1本。

「どっちがいいんだろう?」

まずはギターを買う金をどうやって工面するべきか。

そんなことを考え始めた時だった。

目の前のラジオ局から「Double Planet」というフレーズが聞こえてきたのは。

《つづく》

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