舘形比呂一のDanceable LIFE Vol.9
自分自身とゆっくり向き合えた時間
舘形比呂一(役者・ダンサー・振付家)
3月以降、出演予定及び振付を担当した公演はすべて中止となってしまいました。どのような状態で活動を再開できるのか手探りの状況が続いていますが、とりあえず今回は、この3カ月あまりを振り返ってみようと思います。
本音を言えば、どこにも行けず誰にも会えない日々は辛いものがありました。でも、そのことばかり考えているとネガティブになってしまいますよね。だから僕は、この与えられた時間を有効に使おう、と考えました。
まず取り組んだのが、断捨離!
ずっと忙しくて、見て見ぬ振りをしていたアレヤコレヤを、すごい勢いで片付けました。こんな懐かしい写真も出てきましたので、ちらっとご紹介しましょう。
自主公演のソロパフォーマンスを始めた初期のものです。神楽坂にあった黒テントのアトリエをお借りして行った公演で、『よだかの星』(宮沢賢治・作)をモチーフにした独り踊りでした。
その他、自分が出演した舞台のビデオや仕事の資料など懐かしいものもたくさん出てきましたが「もう必要ではない」と思うものは思い切って処分しました。
周りが忙しく動いている中で立ち止まると、自分が怠けているような罪悪感にとらわれがちですが、今回は世界中の人たちの時間が止まってしまった…。大変な状況の中で頑張っておられる方々には、心からの敬意を表します。その一方で、僕自身はこんな時だからこそじっくり自分と向かい合う時間が持てたと感じています。ちょっと大げさかもしれませんが、自分が浄化されて身軽になれたので、次に向かって新たな気分で歩き出せそうです。
もうひとつ取り組んだのが、リモート授業です。
洗足学園音楽大学で講師を勤めるようになって5年。今年度の授業はリモートでのスタートとなりました。
第1週目のガイダンスはなんとかクリア。問題は2週目から始まった実技です。日ごろ「身体を大きく使いましょう」「大きく移動して」と伝えてきましたが、自宅のリビングで実践するのは難しいですよね。僕は友達のスタジオを借りたり、キャンパスを一部開放していただくことでなんとか対応していますが、生徒さんの中にはWi-Fi環境が悪かったり、アパートの一室で受講する方もいらっしゃるので、かなり厳しい状況です。こうした状況は“今だけ”とは言い切れないので、頭を切り替えてオンラインでできるレッスンを考えていかなくては、と思っています。
もちろん、カメラ越しでは伝わらない空気感、生でこそ感じられる“熱”や“波動”は確実にあります。舞台芸術の魅力は、同じ空間を共有してエネルギーのぶつかり合いを感じることにある、という思いは変わりません。
今いちばんやりたいこと? 気のおけない友達と会って美味しいものを食べて、美味しいワインを飲むことでしょうか(笑)。ずっと1人で家にいただけなのに、妙な緊張感があって、知らないうちにストレスが溜まっている気がします。とにかくリラックスしたいので、温泉にも行きたいですね(笑)。
その意味では、そろそろ稽古場の空気が恋しくなってきました。
活動再開の第1歩は、7月末に幕を開ける『スーパー神話ミュージカル ドラマティック古事記2020』。2013年に舞台化された作品の再演で、僕は今回もアマテラスを演じます。7月にはリハーサルが始まる予定なので、今からとても楽しみです。
3密にならないよう工夫しながら、ゆるやかに動き出せたら、と思っています。