今夜もどっぷりジャズ浸り
File.2 ジャズ界の新人発掘「ちぐさ賞」
(新村繭子/ジャズ喫茶ちぐさ)
2013年。ジャズ喫茶ちぐさでは、創業者・吉田衛の生誕100年を記念し、CHIGUSA Recordsを設立した。これと同時に制定されたのが、「日本に若いジャズミュージシャンを育てたい」という吉田衛の思いを継承し、年に一度優秀な新人を発掘し表彰する「ちぐさ賞」である。
全国に長年続くジャズコンペティションがある中、「ちぐさ賞」はまだ6年目の若いコンペティションかもしれない。けれど設立の趣旨には、吉田衛の並々ならぬジャズへの敬愛と、若手ミュージシャンへの熱い応援物語がある。
戦後、横浜に進駐軍がどっと押し寄せ、町には次々と米軍施設ができた。と同時にジャズは大ブームとなり、キャンプやナイトクラブで演奏する日本の若いプレーヤーが急増。常に最新のホットなレコードを仕入れていたちぐさには、バンドマンがこぞって来店し、たまり場になっていたという。
やがて米軍クラブは少なくなり、日本のバンドマンの演奏の仕事は徐々に減ってゆく。本場アメリカからジャズメンが次々と来日するようになったこともあり、日本人プレーヤーの演奏の場は、次第に限られていった。
もっとジャズの本質を学びたい、自分たちの音を追求したいと願う日本の若手ジャズメンにとっては、大変苦しい時代になっていったのだ。
そんな中、若く無名なプレーヤーたちがちぐさに通い続け、何時間もレコードの音に聞き入り、演奏に努め励む姿を見ていた吉田衛は、演奏会場を探したり、コンサートを仕掛けるなど、何かと面倒をみていた。ジャズに対してひたむきで真剣な若いミュージシャンに自分自身を重ね、一緒に夢を追いかけていたのかもしれない。「変わり者」「頑固オヤジ」「おっかない!」とも言われたが、献身的な活動は日本ジャズ発展の礎になったと言っても過言ではないだろう。
こうした熱い思いと愛情が受け継がれ、形になったのが「ちぐさ賞」である。
これまでの受賞者は、第1回(2013 年度)女性ボーカリスト・金本麻里、第2回(2014 年度)ベーシスト・遠藤定、第3回(2015 年度)フルーティスト・小川恵理紗、第4回(2016 年度)男性ボーカリスト・和田明、第5回(2017 年度)ピアニスト・千葉岳洋の5名を輩出。いずれも才能溢れる素晴らしい若手ジャズミュージシャンであり、受賞後も活躍著しい。吉田衛が生きていたら、あれこれ言いながらも喜んだことだろう。
第6回の1次選考に向けた募集は、7月1日から始まっている。2次選考はライブで行われ、10月にジャズスポット ドルフィーで開催される予定だ。
ジャズへの情熱において「我こそは」と思う人は、ぜひ応募して欲しい。
*ちぐさ賞についての詳細は下記
https://chigusa-records.jimdo.com/