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美術・写真・映像

キネマ散歩 第8回「小田原に灯る映画の明かり 小田原シネマ館」

キネマ散歩 第8回「小田原に灯る映画の明かり 小田原シネマ館」

映画館に行くのが好きだ。

配信サービスが充実した今の世の中、家でも十分に映画を楽しめる環境が整っている。だけど、映画館で映画を観る経験は、やはり何ものにも代えられない良さがある。大きなスクリーンと音響。日常から切り離されて、グッ!と映画の世界に引き込まれる瞬間。思いっきり泣いたり笑ったりして、「明日も頑張ろう」と思わせてくれる、あの数時間の現実逃避が、大好きだ。

こちらは「キネマ散歩」連載第1回目で、筆者が当シリーズの導入としてつづった文章だ。久しぶりにこれを引っ張り出してきたのは、今回訪れた映画館の入口に飾られたメッセージを読み、改めてこの思いを強くしたからである。

「いつの時代も映画との出会いは、人生に特別な体験をもたらします。映画館で映画を観ることは、芸術のように心を豊かにします。泣いて、笑って、ワクワク興奮する映画との出会いを、スクリーンを通じて得られる感動体験を、再び街中に。」

このメッセージに込められた思いを実現するため、小田原駅周辺に再び映画の明かりを灯した「小田原シネマ館」を訪れた。

JR小田原駅から、飲食店でにぎわう錦通りを進んで5分ほど。左手側にある路地を曲がると、ぽつぽつと灯るオレンジ色のあたたかな光にいざなわれる。そのまま光の方へと進んでいくと、「小田原シネマ館」の看板が現れる。どこか懐かしさを感じさせるレトロな佇まいながら、実は2024年にオープンしたばかりの映画館だ。

小田原シネマ館は、この地に再び映画館を復活させたいという思いのもと、2024年3月にオープンしたミニシアターだ。創業メンバーは、故・蓑宮武夫さん、息子の蓑宮大介さん、そして古川達高さんの3人。発起人であり、創業時に社長を務めた武夫さんは、幼少期から映画、そして映画館の影響を大いに受けて育った。そのため、約20年前に小田原駅周辺の映画館がすべて閉館した際には、「この文化の灯を消したくない」という思いを抱いたという。

その後、武夫さんは小田原市の有志から出資を募って資金を調達し、小田原駅から徒歩圏内にある住居ビルを自己資金にて現在の「みのさんビル」へと改修していった。しかし、開業を数か月後に控えた時期に急逝。古川さんが社長を引き継ぎ、小田原シネマ館は2024年3月にオープンの日を迎える。

当時、武夫さんの息子である大介さんは、箱根・宮ノ下にある富士屋ホテルで副支配人兼シェフソムリエを務めていた。大介さんは、多くの人々の武夫さんへの想いを受け止め、30年間勤めたホテルを退職し、小田原シネマ株式会社の代表権を引き継ぐことを決意。そして、小田原シネマ館の支配人兼代表取締役副社長として運営に参画した。こうして、武夫さんが灯した明かりが方々へと受け継がれ、このエリアに約20年ぶりに映画館がオープンしたのだ。

館内に足を踏み入れると、本日の映画のラインナップが目に入ってくる。話題になった邦画や、映画祭で上映されたドキュメンタリー作品など、異なるジャンルの4作品がならぶ。作品の選定についてうかがったところ、上映作品は基本4本の柱を立てているとのこと。新作(準新作)、ドキュメンタリー系、音楽・芸術系、ミニシアター系(若手監督作品など)の4ジャンルを、毎月開催される運営役員3名とスタッフによるコンテンツ会議で決定しているそうだ。

シアタールームは1つで、座席数は43席。映画館ならではの空間を大切にするため、音響にも力を入れている。最大7.1chのドルビーサラウンドに加え、160インチのスクリーン、そして当劇場の規模としては珍しいとされる、ゆったりとした大きめのシートが特徴となっている。チャイルドシートやブランケットも完備されており、観客はストレスを感じることなく映画に没入することができる。

小田原シネマ館では監督を迎えたアフタートークを頻繁に開催しているほか、小田原のふるさと大使であり、『機動戦士ガンダム』シリーズでおなじみの富野由悠季監督作品や、小田原を象徴する二宮金次郎を題材にした作品など、地域にゆかりのある作品も定期的に上映されている。売店ではパンフレットやドリンクのほか、小田原市の福祉施設「アール・ド・ヴィーヴル」で作られたお菓子も販売され、地域とのつながりを大切にしていることがうかがえる。

ビルの2階には、古川社長の息子さんがシェフを務めるイタリアンレストラン「LEGALO」が併設されており、小田原の新鮮な食材をふんだんに使った、創作イタリアンが楽しめる。武夫さんが目指したのは、映画館と飲食店が併設された「サードプレイス」。人々が日々の生活から少し離れ、心地よい時間を過ごせる「第三の場」をつくることだった。その思いが受け継がれ、映画を楽しんだあと、おいしいイタリア料理に舌鼓を打ちながら、映画の余韻に浸ったり、感想に花を咲かせたりすることができる。

支配人の大介さんは、これから小田原シネマ館を訪れる人へのメッセージをこう語る。「当館は少しだけ裏道に入ったところにあります。シネコンにはない小さな映画館ならではの空間と共感を楽しんでいただければと思います。」

昨今では配信プラットフォームに加入することで、数多くの映画から、気になっていた作品や、自分の気分に合った作品を選ぶことができる。しかし、自分以外の誰かが選んだ作品を、映画を観るためだけに整えられた環境で鑑賞することで、想像もしなかったような映画体験を味わうことができる。小田原の街で、映画と人をつなぐ架け橋となるべく、今日も小田原シネマ館のスクリーンの明かりは、優しく灯るのだ。

小田原シネマ館
アクセス:神奈川県小田原市栄町2-7-30 みのさん第一ビル1F 小田原シネマ館
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