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演劇・ダンス

全国&海外から演劇集団が集結!横浜から世界に羽ばたく短編演劇を!「第2回 神奈川かもめ短編演劇祭」レポート

全国&海外から演劇集団が集結!横浜から世界に羽ばたく短編演劇を!「第2回 神奈川かもめ短編演劇祭」レポート

「神奈川かもめ短編演劇祭」の他の演劇祭にはないユニークな点は、出場全12団体を6団体ずつAブロック、Bブロックに分けて4日間で3公演ずつ行い、毎回、観客投票を敢行し、最終日の公開審査会で6名の審査員の投票を加えた総合点で順位を争うバトル形式であること。観客と審査員による投票によって勝者が決まる、神奈川県で昨年10月に行われた『劇王神奈川V』とほぼ同じです。
この投票システムは、1団体につき3回上演チャンスがあるので、演じる側にとっては1回勝負ではないぶん、幅広い観客の反応を確かめながら、毎回、内容をブラッシュアップしていくことができるメリットが。同時に、3公演ともコンスタントに実力を発揮できるだけの、地力の強さも求められます。演劇のプロである審査員の評価と一般観客の評価が混在するため、アピールすべきポイントも難しく、演じる側、観る側それぞれの演劇観の違いも露わに。一筋縄ではいかない演劇コンテストだと言えます。

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

3月5日の最終日は、Aブロック、Bブロックの上演が終わったのち、舞台上で公開審査会・表彰式が行われました。6名の審査員より、それぞれの作品への講評と審査員の得点を公開して最優秀作品が決定しました。ここからは、最終日の上演を出演順に紹介します。

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭

【Aブロック】

四国地区代表/シャカ力『オオカミ少年』

「ウソをつくんじゃない」と繰り返される劇的なセリフをキーワードに、嘘つきをなじられながらも、虐待する父、ハンバーガーだけを週に一度差し入れに来る母を盲目的に愛する少年に襲い来る、過去とも未来とも現在とも、妄想とも現実ともつかない不条理な場面が次々に展開。言葉遊びとともに畳みかけられるセリフはときに笑いを生みながら、何が起きるか分からないスリリングな劇空間を生み出しました。

シャカ力『オオカミ少年』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

台湾代表/明日和合製作所 Co-coism『石屎森林 Concrete Jungle』(字幕付き)

すえた空気までも感じられる雑然とした都会のビルの一室で繰り広げられる、同性愛カップルの愛と葛藤と苦悩と別れの物語。ある医師のもとを訪れた青年とのふたりの会話から、物語は自然な流れで、恋人同士の暮らしへと視線を移す。仲睦まじいふたりの会話は、次第に緊張感を増し、“彼”は“彼”に「親のために(女性と)結婚する」と告げる。激情にかられて恋人の首を絞めるシーンは緊迫を生み、最後にひとり部屋に残る“彼”の悲哀が胸を打ちました。

明日和合製作所 Co-coism『石屎森林 Concrete Jungle』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

戯曲選抜代表/選抜戯曲チーム『あしたのこと』

公募による108本の中から選出された戯曲を、本演劇祭のために編成された特別チームで上演。海外から帰国した友人がある日、土産を持って男の部屋を訪れる。その日は折しも、国内でテロ事件が勃発。「ヤバいね」と言ってニュースを観ながら、友人が渡すゲテモノの土産、「人を撃ってきた」という衝撃的な体験談に嫌な予感を抱きながら、彼のカバンの中から転がり出たモノは……。スタイリッシュな白一色の美術で繰り広げられる社会派の会話劇は、平穏な日常が脅かされるショッキングな不気味さに満ちていました。

選抜戯曲チーム『あしたのこと』 画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

北海道地区代表/わんわんズ『恋はいつでも、レイアップ?』

「恋愛禁止」の掟のために、たったひとりの部員しか残っていないある高校のバスケ部。その部員がついに恋に落ちてしまった。悶々としながら、バスケを続けるために初めての恋を諦めようと決心する部員に、同じく「恋愛禁止」を貫いていたはずの顧問が、「じつは彼女がいる」と衝撃的な告白を! 前2団体のシリアスな芝居から一転。ステージでどつき合いながら繰り広げられるコミカルな掛け合いが爆笑を呼びます。ラストには、なんとボール役の役者が登場! バスケットゴールをずり下げてシュートを決める逆転の演出に、やんやの喝采が。

わんわんズ『恋はいつでも、レイアップ?』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

関西地区代表/ThE 2VS2『矛盾/全国女子校生選手権』

絶対にバレない痴漢テクニックを誇る男と、触らずにはいられないお尻を持つ痴漢冤罪をつくる女が、ラッシュアワーの埼京線で壮絶なバトルを繰り広げる『矛盾』。ふたりの女子高生が様々な手練手管で男心をキャッチする架空の競技バトルを、実況アナウンサーと解説者が夢中で中継する『全国女子校生選手権』の2本立て。熱のこもったセリフの応酬と派手なアクションも、さすが関西の劇団らしい。笑いのサービス精神にあふれたキレのある爆笑コメディを楽しませてくれました。

ThE 2VS2『矛盾/全国女子校生選手権』 画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

東京地区代表/日穏 −bion−『観覧車』

遊園地で偶然、同じ観覧車に乗り込んでしまった、毎年、自分の誕生日に観覧車に乗る義務を強いている高所恐怖症の女と、ヘビースモーカーの男。警戒心を持ちながらも会話を始めるふたりは、上空で突然止まってしまった観覧車の中で、お互いの身の上を語り出す……。静かで丁寧なセリフの積み重ねによってあぶり出される、ふたりの男女の不器用な生き様が愛おしい。さりげない日常の中で生まれるさりげないコメディドラマに、心が洗われ、ノスタルジーあふれる舞台美術も目を惹きました。

日穏 −bion−『観覧車』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

【Bブロック】

東北地区代表/Gin’s Bar『イーハトーヴの雪』

東日本大震災直後の岩手県の港町。遺体安置所となった学校の体育館にやってくる、身内の行方を捜し続けるひとりの男。葬儀屋だという彼は、未だ家族が迎えに来ない遺体を丁寧に弔いながら、まるで相手が生きているかのように、静かに語りかけ続ける……。東日本大震災をテーマにした一人芝居は、始まった瞬間から、とつとつとした語り口にぐいぐいと吸い寄せられていく。あの日の出来事をけっして風化させてはならない。被災地で暮らす井伏銀太郎さんだからこその様々な想いが、胸に迫りました。

Gin's Bar『イーハトーヴの雪』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

韓国代表/劇団名作トウモロコシ畑『時計のいた場所』(字幕付き)

「第1回 神奈川かもめ演劇祭」で「かもめ賞」と「戯曲賞」をW受賞した、韓国代表の新作。長い闘病生活の末に亡くなった時計店を営んでいた父が、残された娘のもとに若返った姿で現れ、ふたりは様々な思い出をはしゃぎながら語り合う……。父役の俳優が家庭の都合で3回目の公演に出演できず、急遽代役を立てての上演となったのが残念でしたが、父が好きだった夏の季節を表現する、ひまわりが咲き誇る舞台美術も美しく、舞台上で演奏されるサックスやギターの音楽も、せつなく温かな情景を巧みに演出しました。

劇団名作トウモロコシ畑『時計のいた場所』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

九州地区代表/ブルーエゴナク『あるはなし』

漫才コンビを組んだふたりの男と、その一人と結婚した幼なじみの女の物語。老人になってホームで漫才を披露するコンビの姿からスタートした物語は、若かりし日へと時間を遡り、3人がときにすれ違い、また繋がり合っていく、せつない友情エピソードと一生を紡いでいく。どんどん時間を逆行し、最後に現在に戻るという複雑な脚本を、シンプルに見せていくチャレンジャブルな作品でした。

ブルーエゴナク『あるはなし』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

東海地区代表/東海連合『そして、彼女は』

図書委員の少女が、図書室に本を借りにくる大好きな先輩への想いと妄想を、コミカルに女優ひとりで語り尽くす個性派作品。先輩役を含めて、主人公の少女以外の俳優は、舞台でマイムはしても一言も喋らない斬新な演出も印象的。20分間、少女と先輩の情景描写と心情描写をひたすら喋り続ける女優の力と、まるで小説のような緻密な脚本も圧巻。観客に、さぞ格好いい男なのだろうと想像させた先輩が姿を見せたときの、大どんでん返しにも笑いが起きました。

東海連合『そして、彼女は』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

中国地区代表/コムたんたん『月にはホクロ』

今日、初めて店の外で会ったという水商売の女とその客。つけぼくろで不幸な人生を変えようとする女に、男は「月にもホクロがある」と語り、ふたりは願いが叶うという不思議なまじないの儀式を始める……。噓をついて男から金を引き出す女、噓と知りつつ金を渡す男。女を愛しているという男を拒否する、借金まみれの女。幸せを望むふたりのわびしさ、せつなさが漂う舞台に。

コムたんたん『月にはホクロ』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

神奈川地区代表/チリアクターズ『しらずのうちに』

昨年10月の『劇王神奈川V』で「劇王」の栄誉に輝いた作品。「おやしらず」を放置するマザコン青年と、「虫歯になる前に俺を抜け!」と迫る「おやしらず」本人との爆笑会話劇は健在。演出を、KAATの大スタジオ用にブラッシュアップし、より分かりやすくストレートに楽しめる作品へと成長させていたのが印象的。テンポのいい掛け合いをリズミカルに演じる役者3人の力(演出として登場する歌の実力も相当のもの!)も、『劇王V』以上に光を放ちました。

チリアクターズ『しらずのうちに』画像提供: 神奈川かもめ短編演劇祭実行委員会

公開審査会&表彰式

A、Bブロックの最後の上演が終わり、17時半過ぎから行われた公開審査会&表彰式に顔を揃えたのは、6名の審査員。舞台美術家・小池れいさん、演劇集団キャラメルボックス代表の劇作家/演出家・成井豊さん、脚本家・伴一彦さん、ニブロール主宰の劇作家/演出家/振付家/ダンサー・矢内原美邦さん、マグカルテーブルメンバーでもある扉座主宰の劇作家/演出家・横内謙介さんと演出家/俳優のラサール石井さんから、まず12作品への講評が寄せられました。

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭

多彩な作品が集まったこの演劇祭では、審査員それぞれが、自身の得意分野から多角的な講評を述べていたのが印象的です。成井さん、伴さん、横内さんからは、脚本の仕上げ方や演出についての細かな要望も出され、よりよい作品にすべきヒントも。ラサール石井さんは、コメディ作品を中心に笑いを生む仕掛けが解説され、矢内原さんは役者の肉体の使い方についても言及。小池さんからは、ふだんあまり語られることのない、効果的な舞台美術の作り方や演出方法についてのアドバイスも話されます。演じ手だけでなく、観客にも「こういう見方もできるのか」という演劇ならではの視点を与えてくれました。

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭

「かもめ賞」決定の前には、各賞を発表。審査員の間で激論が戦わされたという「戯曲賞」は、日穏 −bion−の『観覧車』。「演出賞」は、台湾代表の明日和合製作所 Co-coismの『石屎森林 Concrete Jungle』。「俳優賞」は、戯曲賞も受賞した日穏 −bion−『観覧車』の作・演出家であり主演の岩瀬晶子さんに贈られ、会場から称賛の大きな拍手を受け取りました。

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭

次なる発表は、初日の3月2日から本日最終日までの観客投票の集計で決定する「観客賞」です。スクリーンに映し出された得票結果により、104票を獲得したチリアクターズ『しらずのうちに』が「観客賞」に輝き、2位は日穏 −bion−『観覧車』、3位はわんわんズ『恋はいつでも、レイアップ?』という結果になりました。

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭

そしていよいよ、最優秀作品とチームに贈られる「かもめ賞」の発表へ。今、発表された観客投票の結果に、審査員の持ち点を各団体に振り分けて目の前で加算していくスリリングな発表形式に、観客も大興奮。審査員ひとりひとりの票が入るたびにどよめきが起こり、栄えある「かもめ賞」を受賞したのは……観客投票で大いに力を見せつけた神奈川地区代表・チリアクターズ!

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭

興奮した表情でマイクを握った作・演出家であり「おやしらず」役を務めた大島寬史さんは劇団メンバーとハグを交わして、「驚いております。地元の代表が優勝するサムい結果に、僕たちはこれからどう立ち向かっていいいのかビックリしていますが(笑)、この大会はもっと盛り上がって欲しいし、全国の短編演劇に命を燃やすおばかさんたちが集結し、交流するのがすごく楽しい。これからもチリアクターズは神奈川を拠点に活動していきますので、名前だけでも覚えて帰ってください!」と喜びを語り、ラサール石井さんからも「テンポよく、口跡よく、おやしらずが出てきたという設定だけを深く面白く仕上げた、かもめ賞にふさわしい作品だったと思います」との評が寄せられました。

そして最後は、客席にいた出場団体がステージに上がり、ブロック大会からMCを務めていた中山朋文(theater 045 syndicate)さん、真嶋一歌(リジッター企画)さん、本演劇祭の実行委員長・丸尾聡さん、審査員のみなさんと客席とが一体になり、「かもめ!」「飛んだー!」のコールで、4日間にわたる熱いバトルを締めくくりました。

第2回 神奈川かもめ短編演劇祭

後編では、かもめ賞を受賞した劇団チリアクターズ&審査員 ラサール石井インタビューをお届けします。合わせてお楽しみください!

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