コンテンツにスキップ
アート

ふらり寄ってみると会話がうまれるあたたかな場所

ふらり寄ってみると会話がうまれるあたたかな場所

Kanagawaギャラリーさんぽ
File.6 つきやま Arts & Crafts
山本詩野(ギャルリーワッツ)

今回は大磯からご紹介。大磯と言えば大磯ロングビーチ!
…だけでなく、日本で最大規模数と言われる古墳時代末期の横穴墓や戦国時代を物語る高麗山があり、東海道五十三次の8番目の宿場町、そして何と言っても、伊藤博文、吉田茂など歴代の首相が8人も暮らした町という、自然と文化と歴史のぶらりさんぽにふさわしいところです。

加えて、ギャラリーさんぽにも面白い一角があると聞き、初めて冬の大磯へ。夏のイメージが強いせいか、より寒く感じるのは私だけだろうか…と思ったら、都内近郊で一瞬ふぶいた冬日だからでした。

目的地は駅から徒歩2分とあったのに、なかなか着かない…。
「海水浴場発祥の地」と知ることができたのは、道を1本間違えたおかげです(笑)

大磯町の観光情報サイトによると、明治41年日本新聞社が行った国内避暑地百選の全国投票で、大磯は第1位に輝いたそう。初代陸軍軍医総監の松本順が開設した大磯海水浴場の意図は、健康増進と回復のため。いまのレジャー感覚とは違ったのですね。

さて、軌道修正して目的の「つきやま Arts & Crafts」へ。駅のすぐそばでした。お店のサイトには丁寧に写真で道案内を示す「詳しい行き方」があるので、方向音痴の方はそこをタッチしてくださいね。(早くそれに気づけばよかった…)

昭和の香りがぷんぷん漂うここが、うわさの一角です。
築70年という建物はかつて、「月山」という飲み屋で、吉田茂元総理の番記者たちが利用していたそう。
中に入ると、網代(あじろ)天井に土間。立ち飲みの姿が彷彿されるカウンターや「月山さん江」と書かれた鏡、活版印刷の機械、座敷には文机や和箪笥など、もうレトロのオンパレード。できるだけ、内装も昔のままを残しています。
この界隈に昔から住んでいる方々が、「もう必要ないから」と薬箱や小道具箱などを持って来られ、譲り受けることが多いとか。

つきやまは一見、古道具屋さんのようですが、それも含め、大磯界隈で活動する作家のクラフトをメインに置くセレクトショップ。
と同時にデザイン事務所、ギャラリー、工房など、さまざまな面からデザインを発信する場になっています。店番は作家やデザイナーなど14人で回していて、2014年の立ち上げ時から携わるAUI-AO Designの佐藤一樹さんは特に活版印刷の魅力発信にも力を注いでいます。予約をすれば、活版印刷で名刺を作ることも可能。
店内には佐藤さんデザインの紙類も販売されています。コーヒーフィルターやおにぎりの形のカードには活版でプレスした凹凸がそれらしい表情に。触るとふっくら、優しく温かみが感じられるのも活版印刷ならではです。
活版の魅力に加え「手にした人が頭を使うような、ひとひねりあるものを意識してデザインしています」と佐藤さん。
どれもくすっと笑いを誘い、オシャレ。誰かにプレゼントしたり、手紙を書きたい気分になります。
第3日曜日に大磯港で開催される大磯市(いち)に参加している作家のための常設店、というのもつきやまの役割。市に行けない人はここで個性豊かな作品たちに出会えますよ。
仲居さんが使っていたという2階のひと間には、小田原にあるギャラリー「菜の花」の店主がセレクトした作家ものの陶器や、古布など手仕事のものがずらりと並んでいました。
いい日差しが入る明るい部屋。ここで仲居さんたちは、ごろりと寝っ転がったり、お煎餅片手におしゃべりしながら休憩していたのでしょうか。

裏手に行くと、かつてはお風呂場だったという離れを生かし、その名もずばり「GALLERY お風呂場」。
個展やイベントに使われるそうですが、ちょうどYOMORUさんのフェルトアート展を開催中でした。たまたま大磯に寄ったという観光客の方も「beautiful!」と。羊毛の本場、ニュージーランドから来たそうで、なんと奇遇。

作品の前でにっこり笑うYOMORU主宰の、とりうみあいこさんもつきやまスタッフの一員。大磯で生まれ育ち、3人のお子さんも地元ですくすく成長中とか。この後「参観日なんです~」と、近所の小学校に走って行かれました。

ふと見ると足元の草には陶器の花が。地元の陶芸家、岡村朝子さんの遊びがこの中庭にぴったり!
お風呂場のお向かいは「茶屋町cafe&deli」と天然酵母や無農薬にこだわったパンの店「Lee’s Bread」。縁側に座っていると、パンの焼けるいい香りが。
「茶屋町cafe&deli」は珍しい紅茶を揃えているとのことで、特におすすめされたファーストフラッシュキャッスルトンをオーダー。キャッスルトン茶園はダージリンの最高峰だそう。それに合わせて、「Lee’s Bread」のカルダモンロールをいただきました。
こちらはスウェーデンでポピュラーなパンだとか。どちらも初めての体験で、カルダモンは香辛料だけれど程よい加減、紅茶も優しい味で、穏やかなティータイム。

もともとは、大磯市(いち)とこの物件を生かし、街づくりにつなげていく構想から始まったというつきやま。
次々とパンを買いに来る親子をみながら、地元に愛されている一角になっているんだなあと、ほんわか幸せ気分もいただいて帰路に就いたのでした。

《ギャラリー情報》
つきやま Arts & Crafts

〒255-0003 神奈川県中郡大磯町大磯1156
info.tsukiyama@gmail.com
開廊日:11時~17時 定休日:月曜日

《アクセス》
▶︎JR大磯駅下車。徒歩2分
https://www.facebook.com/tsukiyama

マガジン