日本の伝統文化を愛し、アヴァンギャルドに生きた二人展
行って、みて、感じるアートの世界
File.9 横浜美術館「イサム・ノグチと長谷川三郎-変わるものと変わらざるもの」展
井上みゆき(マグカル編集部)
イサム・ノグチの《あかり》シリーズは、照明器具として現在も製造・販売されているので広く知られている。でも「長谷川三郎」ってだれ?
展覧会のサブタイトルは「1950年代、日本再発見。」ノグチが拠点とした米国で言うなら“ミッドセンチュリー”全盛期だ。きっと長谷川三郎もスタイリッシュな作品を遺しているに違いない。なんだか素敵な世界に出会えそうな予感…。
出かけたのは、開幕直前に行われた報道向けの内覧会。学芸員によるギャラリートークなどは会期中にも行われるけれど、展示室を撮影できるのはこの日だけなので、読者の皆さんに成り代わって、デジカメ片手に参加してみた。
こちらは、開幕に先駆けて昨年11月16日(金)からグランドギャラリーに展示されている、イサム・ノグチ《庭の要素》。岡山の万成石(まんなりいし)を使って制作されたもので、1959年にNYの個展で発表されて以来、長らく公開されなかった名品だ。
ここまでは観覧料なしで入れるので、まずは明るく広々とした空間で作品をじっくり鑑賞したい。「おお〜」と思った方は、チケット窓口へGO!
イサム・ノグチ(1904-1988)は、日本人の父と米国人の母の元に生まれ、主に米国で活躍した彫刻家。長谷川三郎(1906-1957)は、30年代初期はパリに遊学し、ノグチと知り合った後は米国でも活動した画家であり評論家。
戦後間もない…というより米国占領下にあった1950年の日本で出会った二人は互いの考えに共感。長谷川は、古い文化遺産を訪ねて関西を旅する予定であったノグチの案内役となる。庭園、建築、水墨画、書、茶道、埴輪、土偶、銅鐸、陶芸、俳句、禅、道教などなど。その経験から二人が共有した「古い東洋と新しい西洋の統合」という思想が、どのように作品として結実していったのか。ちょっぴりアカデミックな世界を探求する気分で、展示室に足を踏み入れた。
展示は6章から成り、長谷川とノグチの作品を交互に、ときに並行して鑑賞できるよう構成されている。
その第1章。はじめて目にした長谷川の作品は、あまりにアヴァンギャルドなのでびっくり! 油彩あり、写真あり、コラージュあり、版画あり、拓本ありと、まさになんでもアリ。写真ではその「ぶっ飛んでる感」が伝わらないのが残念だ。
戦前は「自由美術家協会」の設立に関わり、戦後1947年には「日本アヴァンギャルド美術家クラブ」を結成して画家としての活動を再開したという長谷川。その経歴からも感じられるように、今見ても古さを感じない超前衛な世界がそこにあった。
こんなカッコイイ人がいたんだ、不勉強ですいません…と反省したのだけれど。長谷川は、ノグチと出会った後に渡米。活動拠点を米国に移し、ほどなく若くして客死したこともあり、日本ではほとんど忘れられた存在だったらしい。
一方、米国ではNYで個展や講演を行い、西海岸に移ってからはビート・ジェネレーションの作家たちにも影響を与えるなど、時代の寵児として注目される存在だったという。けれど「アメリカ人ではない」との理由から、没後はほとんど語られなくなってしまったらしい。
「らしい」ばかりで、何とももったいない話である。
西洋と東洋を行き来して創作活動を行い、それぞれの立ち位置から影響し合った二人の関係に想いを巡らせていると、近年もてはやされている「グローバル化」という言葉に行き当たる。そんな言葉が言われるはるか以前、彼らは四苦八苦しながら世界を読み解こうとしていたのか。タイトルにある「変わるものと変わらざるもの」の意味は、ずっと深いところにあるのかもしれない。
こちらは第6章、ノグチが東洋や日本の文化からヒントを得て制作した1954年以降の作品群。おなじみの《あかり》、グランドギャラリーに展示されている《庭の要素》もここに属する。
ノグチの作品は今の日本でも触れる機会が多いせいか、この展示室はなんとなく落ち着く。初めて触れる価値観の中で、気づかぬうちに緊張していたのかもしれない。
この展覧会では、作品そのものの魅力もさることながら「異文化交流」「グローバル化」といった社会的なテーマにも心が動かされる。会期中は多彩な講師を招いたイベントも開催されるので、ぜひ五感を使って「変わるものと変わらざるもの」を体験して欲しい。
★こちらのイベントは終了いたしました。
《イサム・ノグチと長谷川三郎-変わるものと変わらざるもの》
会期:2019年3月24日(日)まで
会場:横浜美術館
開館時間:10:00〜18:00 *3月2日(土)は20:30まで
(入館は閉館の30分前まで)
休館日:木曜日、3月22日(金) *3月21日(木・祝)は開館