マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミー本公演 横内謙介氏が語るその想い
マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミーによる公演「紅葉坂メモリーズ」の中止について
3月19日(土)から21日(月・祝)まで予定していた標記公演につきましては、アカデミー生の出演者内に新型コロナウイルスに感染したことが確認されましたことから、お客様ならびに出演者・スタッフの安全・安心を第一に考え、中止させていただきます。
公演を楽しみにしていただいたお客様、関係者の皆様には、心よりお詫びいたします。
チケットの払戻しについて
公演の中止に伴い、御購入いただいたチケットは払戻しいたします。
劇作家・演出家の横内謙介氏を塾長に、神奈川県が舞台芸術の人材を育成するために2014年に開講したマグカル・パフォーミングアーツ・アカデミー。
アカデミー生たちは、ここ神奈川県立青少年センターで、声楽、ダンス、演技を各分野の一流講師による本格的かつ実践的なレッスンをうけ、切磋琢磨しながら過ごしてきました。
アカデミー生の努力の結晶となる作品「バイトショウ」は2016年の初公演からシアターインシアター形式で神奈川県立青少年センター紅葉坂ホールの回り舞台の上に客席をつくることで観客ごと回転させて360度、劇場のすべてを舞台として使用することを実現し、話題になり、2020年までに全5公演を完遂しました。
そんなアカデミーは2022年3月に新作となるオムニバス・ミュージカルを上演します。
出会いと別れ、若者たちの熱き想いと涙、喜びと絆。
そんな紅葉坂に詰まった思い出をめぐるオムニバス・ミュージカル『紅葉坂メモリーズ―この坂を上った人たちに捧ぐ―』。
アカデミー生総出演で送る集大成の作品に込めた想いとは。
作・総指揮を務める横内謙介氏にお話しを伺いました。
横内氏の原点、「神奈川県立青少年センター」
僕がアカデミーを開講することになったきっかけというのは、まず「文化」を柱のひとつにして、神奈川県の活性化を図ろうという県のプロジェクト。当時僕を含め、神奈川県にゆかりのある様々な文化人に声がかけられたんだよね。
神奈川県の芸術・文化を盛り上げるという目的を聞いた時、僕は自分にとってとても大事だった場所、「神奈川県立青少年センター」をどうにかしたいと真っ先に思った。
神奈川県青少年センターは、今でいう“ワークショップ”なんて言葉がない時代に、名だたる新進の劇作家や演出家たちが高校生に講習会を開いたり、中学校・高校の演劇の大会を開いたりと、先駆的で非常に優れた演劇専用ホールだった。
そこで、もうすぐ辞めようと思っていた演劇部に籍を置いていた僕が、のちに名作となる、つかこうへいさんの「熱海殺人事件」を初めて観劇したんだよね。
世の中にこんなおもしろいものがあるのか、と感激して、僕の人生がらりと変わった。
青少年センターが演劇に関わっていこうと進路を決めた、いわば僕の原点の場所になったわけだ。つかさんにあこがれて16歳で作った処女作も、ここで開催された神奈川県大会で上演した。
そんな芸術を愛する若者にとってのメッカとして輝いていた場所が段々と時代の変化とともに埋もれてきていた。そういった背景もあり、この大切な場所をもう一度、輝かせたくて、言ってみれば僕なりの恩返しをしたくて始めたといっていいと思う。
そして特に当時の神奈川にはなかった、「演劇に特化した若者を育成する場所」を、ここ青少年センターを舞台に創ることにした。そして将来的にはいつか神奈川県に演劇に特化した「学校」を創ることを目標に掲げた。
本気でプロ育成を目指す
場所をつくったからには、しっかりと育成しないといけない。みっちり教育し「本物のプロ」を育てることを掲げた。
ラッキィ池田や深沢桂子を始め、指導者たちも本気で一生懸命に教えた。
ただ全く経験のない若者をゼロから育て上げるのはそう簡単じゃなくて、最初の2年くらいは苦労したね(笑)
3年目くらいからやっと形になってきて、徐々に音大に行く子やプロとして演劇のキャリアをスタートさせる子も出てきた。やはり、やりがいがあったよね。何より自分が演劇に目覚めた場所で、当時の僕と同じくらいの年齢の子を育てているというのは非常に感慨深かった。
「バイトショウ」のワンシーン
アカデミー生の努力が結実した公演「バイトショウ」
2016年、アカデミー生たちはついに公演ができるまでになった。
シアターインシアターといってね、舞台の上に客席を作って観客ごと回して舞台を360度フル活用した。正直、最初こそ1000人収容できるこのシアターの客入りを心配して試行錯誤した結果生まれた案だけれども、これが大成功。回り舞台のある神奈川県立青少年センターだからこそできる公演になった。
そしてカーテンコールで「いつか客席を満席にする」と誓ったんだ。
「バイトショウ」のワンシーン
「バイトショウ」のエンディングのワンシーン
パフォーミングアーツアカデミー 8年間の集大成 「紅葉坂メモリーズ―この坂を上った人たちに捧ぐ―」
演劇のメッカであり、自分にとっても聖地である神奈川県立青少年センター。
紅葉坂の上に建つこの場所を目指して、現在まで僕を含めたたくさんの人間がそれぞれの想いを胸に坂道を登ってきた。
特に幕末期から明治にかけて栄えた奉行所のストーリーは僕がずっと温めてきた題材。
そうやって歴史をたどりながら、この坂道が見てきた風景、場所と思い出の話をオムニバス風かつドキュメンタリー味のある作品にしたんだ。
前述した通り、今までは舞台上に客席を置いていたわけだけど、今回は初めて本物の客席を“客席として“使うよ(笑)更にいうと、客席の前列およそ6列分を外して舞台として使うことで、会場全体を坂道のイメージに仕立て上げる。
この坂で生まれた「バイトショウ」の名シーンなども盛り込まれているし、総力戦で挑む集大成の公演を是非楽しんでほしいと思う。
次世代へのバトンタッチ
最初に話したように、このアカデミーを創立した当時、最終目標を学校の設立、としていた。実はそれが実現したんだ。県立神奈川総合高等学校に2021年4月、舞台芸術科が新設された。これはすごいことで、舞台芸術を学ぶ専門学科としては県内の公立高校で初めての設置になる。そして今回の公演に生徒たちが有志として出演予定なんだ。
この公演を「本物を育成したい、学びたい」という今まで僕たちがやってきたことを引き継いでいく場にしたいなと思っている。
そして出演者も勿論だけれど、僕自身がそうだったように、観劇してくれる人の中にも、ここ神奈川県立青少年センターで演劇に触れ、将来演劇や舞台仕事に繋がっていく人たちがきっといるはずだと思っている。
それをとても楽しみにしているんだ。
巣立っていくアカデミー生へのメッセージ
う~ん。僕はね、それぞれの中に良い種と最初の水は、しっかりと与えられたと自負している。芽が出始めた子もいるし、正直まだ開花していない子たちもいる(笑)だけど、良い種は植えたから、あとは花が咲くまで、自分で陽の当たる場所を見つけてほしい。
それから、ここで生まれた絆は、ずっと大事にしてほしい。もちろん僕も大事にします。
そしていつか、「またこの坂でまた会おう!」
演劇を学びたい、未来のアーティスト志望者へのメッセージ
芝居ってね、すごく奥深いんだ。今、演劇や舞台に興味を持ち始めたばかりの君たちに見えている世界はきっとまだまだ狭い。
そんな君たちに僕が言いたいことは一つ、「もう一歩踏み出して、色んな見方で世界を見ろ」ということ。
演劇は演じることだけではない。演出、作曲、振り付け、運営…もう一歩足を踏み入れないと触れられない世界がたくさんある。その先で、どうか自分にぴったりな居場所を見つけてほしい。
インタビューでは、横内氏の神奈川県立青少年センターを想うピュアな情熱と、
若手たちへの愛と温かいやさしさに満ちたとても柔らかい雰囲気が印象的でした。
かつて、この場所で演劇に出会って人生が変わった一人の少年が今、同じ場所で未来の演劇界を担うであろう若手を育ててきた。
たくさんの“メモリーズ”をどのように魅せてくれるのか、是非足を運んで楽しんでほしいと思います。