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伝統芸能
夏が終わり 秋が始まる場所で、奉納狂言
2018.10.17

21世紀を生きる狂言師の檜舞台 Vol.4
夏が終わり 秋が始まる場所で、奉納狂言
大藏教義
(能楽師狂言方大蔵流)

 

10月に入って気温がグッと下がった感があったが、久しぶりに暑さがぶり返した10月6日。今日は中野島稲荷神社での奉納狂言。
角を曲がると祭り囃子が聞こえてくる。参道は出店で賑わっていて、少しばかり財布の紐も緩んでしまいそうなわくわく感。台風の心配はなかったものの、風はやや強めで、長年奉賛会を務めていらっしゃる方からは「こんな強風は初めて」との声も聞かれた。
7年前にここに引越してきて、その翌年から町内会が保持している公民館で狂言教室を始めた。

子どもが生まれ、地元の氏神様に初宮詣でをする事で宮司さんとつながり、即座に「この神楽殿で狂言を奉納させて欲しい」と伝えると快く承諾してくださった。宮司さんは、私が主催した「お座敷狂言」に奉賛会の方々を連れてきてつないでくださり、奉賛会の方々も「これはぜひ神社で狂言を」と熱望してくださった。様々なタイミングが重なった事に不思議な縁を感じている。
そして今年で6回目。舞台の後ろに掛ける松の幕や、能楽堂に模した舞台セット、お客さんに配布するプログラムなどは、生徒みんなで手分けして製作を行う。客席は昔ながらの茣蓙を敷いたスタイル。ひと夏の終わりを告げられたような、なんとも言えぬ淡い雰囲気の中で、いざ開演。
生徒一同13人で小唄を歌うスタイルは初めての試み。狂言の劇中に登場する様々な小唄を集めた「狂言小唄集」は、生徒の気持ちと声が一つになりとても気持ちよかったし、何より迫力があった。その他の演目も一人ひとりが輝いていて、観客からは笑い声も聞こえた。時折吹く突風で樹々が大きな音でざわつく中でも、生徒の声は多くの人に届いたに違いない。

この教室では生徒自身が主役であり、僕はそのサポート役でしかないと思っている。自分が自分らしく生きる事が難しい世の中だが、狂言の世界はありのままの自分を肯定してくれる。生き生きと演じる生徒さんの姿はとても美しい。あっという間の1時間だったが、生徒さんの熱心な気持ちとお客さんの笑い声に、神様も喜んでくださったことだろう。
最後は祝言を歌い目出度く終える。日々の生活が少しでも豊かになるよう願いを込めて。