現代劇からギリシャ悲劇、シェイクスピア、歌舞伎公演まで手掛ける、人気演出家で舞台美術家の杉原邦生(すぎはらくにお)さん。7/23開催の『What’s SAMBASO ―古典芸能の可能性』では、木ノ下歌舞伎を率いる木ノ下裕一さんによるレクチャーと大蔵流狂言方 三世 茂山千之丞さんの実演とともに舞台芸術についてのクロストークを計画中 。今回は、会場となる紅葉坂ホールでの単独インタビューをお届けします。
母に誘われたバレエ鑑賞をきっかけに
――神奈川県立青少年センターが開館60周年を迎えました。紅葉坂ホールに来るのは?
杉原 2016(平成28)年9月に「神奈川県学校演劇交流フェスティバル」という学校演劇にちなんだイベントに招かれた以来なので、7年ぶりかな。でも、こんなふうに何も飾られていない真っさらな舞台を見るのは初めてだから、新鮮な気持ちです。このサイズの回り舞台があるなんて、個性的な劇場ですね。
――さすが、プロの目線ですね。舞台芸術への関心は幼いころから?
杉原 小学校に上がったころから、母と一緒に地元の茅ヶ崎市民文化会館でバレエや歌舞伎の巡業公演、劇団四季のミュージカルなどを観ていました。横浜の神奈川県民ホールで、森下洋子さんのバレエ公演を観た記憶もあります。都内の保育園に通っていた時も人形劇や児童劇が来ると、母が夕食の支度をしている間に工作して、双子の弟と一緒に再現して見せたりして(笑)。
――それはすごい! バレエに歌舞伎、人形劇と幅も広いですね。
杉原 両親は 芸術とは離れた世界の人だけど、僕が観たいというものはすぐにチケットを取って連れて行ってくれました。関心が高いものには早いうちから触れさせて、可能性を広げてあげたいと思ってくれていたのかも。
――芸術好きは、その後も?
杉原 外で遊ぶのも好きだったけれど、絵を描くのも工作も得意で大好きだったから、美術の成績は常に良かったですね。高校時代も学校行事では常にリーダー的なポジションで、文化祭や体育祭、合唱コンクールなどみんなで協力してひとつの目標に向かったり、ひとつのものを作りあげたりするのが楽しくて。そういうことを勉強できるところ、毎日文化祭ができるところは舞台の大学だ!と、舞台芸術が学べる京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)に進みました。
毎日が文化祭ではなかった!! ひたすら学んだ学生時代
――観客や演者でなく、作り手を目指して入った大学。実際はどうでしたか?
杉原 毎日文化祭はできなくて(笑)。いろいろな意味で、想像とは違いました。当たり前ですけど、もっとプロフェッショナルでした。当時の映像・舞台芸術学科には前衛的でエキセントリックな先生が多くて、指導もユニークで刺激的すぎましたね(笑)。固定概念をぶっ壊されて、表現には多くの視点と方法があると学びました。
――学生時代でひとつ印象に残る出会いを挙げるとしたら?
杉原 やはり、当時学科長だった劇作家・演出家の太田省吾さんですね。「稽古場でつくったものを舞台に上げた時、作品は不特定多数の目にさらされて社会化される」と。だから、アーティストは自分の表現が常に社会に向けて発信されていることを忘れてはいけない。厳しくも温かく、演劇人としての姿勢を教えてもらいました。
――ずんと刺さりますね。
杉原 そうですね、他にもダンサーの山田せつ子さんや劇作家・演出家の川村毅さんなど、一流の尊敬できる先生方に学べたことで、自分の表現の幅が広がったと思っています。
舞台芸術だけにしかない魅力に気づく
――この夏、ここ紅葉坂ホールで杉原さんが携わるのが、7/23開催の『What’s SAMBASO―古典芸能の可能性』ですね。
杉原 劇場の杮(こけら)落としや新年など、おめでたい機会によく上演される『三番三/三番叟(さんばそう)』という演目をクローズアップした企画です。『三番三』という演目を知って・観て・考えることで、僕たちの国で育まれた古典芸能の可能性を楽しみながら感じてもらいたいと思っています。
――リーフレットには、「学校では教えてくれない舞台芸術の解体図鑑」ともありますが。
杉原 芸術って、お勉強じゃないんです! 敷居が高いと思われがちだけど、知ってみると全くそんなことない。今回は日本一わかりやすくて面白いレクチャーができると僕が太鼓判を押す、木ノ下裕一くんによる解説で演目について学んでから、現代的でエネルギッシュな三世 茂山千之丞さんの実演を鑑賞していただきます。さらに、古典芸能を現代の舞台芸術として上演することの可能性やその演出方法について、僕のこれまでの作品や創作経験を踏まえて語り合えたらと思っています。こんなこと、学校では絶対に教えてくれません(笑)
――第一線で活躍する3人から直接学べるってぜいたくですね。
杉原 僕は何かを表現したいなら、“知ること” に積極的でないと表現の幅が狭まってしまうと思っていて。例えば、『三番三/三番叟』も木ノ下くんが主宰する木ノ下歌舞伎でこれまでに2回手掛けているけれど、いつもまず知るところから始めてきました。狂言・能・歌舞伎などいくつもの『三番三/三番叟』を見たり、知識豊富な木ノ下くんを質問攻めにしたり(笑)、知りたい気持ちが溢れてくるんです。元の演目について知らなければ、新しいものはつくれないと思うから。
――つくるには“知ること”が必然だと。
杉原 今回の企画では “知ること” をエンタテイメントにしたいという思いもあるんです。知ることの喜びや楽しみを知ってもらいたいというか。これからの舞台芸術界を担っていく若い人たちにこそ、そのことを伝えたいですね。そうしないと、いつまでたっても芸術がお勉強のままになってしまう。僕たちの国の古典芸能って、こんなに面白くてカッコいいものなんだってことを伝えたい。そのために、僕は古典の演目を演出している気がします。
――高校生や大学生と若い世代ですね。
杉原 劇場に行くことが、遊園地やカラオケに行くのと同じような存在になったらいいなと。例えば、イタリアンを食べに行くときにファミレス系にする?ちょっと贅沢してリストランテにする?みたいな感じで、何かエンタメ見に行こうってときに映画館に行く?いや、今月はちょっと余裕あるから劇場にしようかって話になる、みたいな(笑)。
――少し贅沢、背伸びするぐらい?
杉原 正直なところ、舞台芸術って手ごろな価格で見放題の動画配信サービスなどに比べると、圧倒的に贅沢なエンタメです。だからこそ、まずは演る側、つくり手側が舞台芸術だけにしかない魅力や可能性を知っていなくちゃいけない。劇場という場でそのことに改めて気づいて、表現することに自信を持てる、そんな企画になるといいなと思っています。
祝・60周年 神奈川県立青少年センター
神奈川県横浜市西区の緑豊かな紅葉坂を上ると見えてくるのが、「神奈川県立青少年センター」。全国でも数少ない青少年のための総合施設として、1962(昭和37)年11月から今日まで県民に広く利用されています。
この杉原さんへのインタビュー、そして7/23開催『What’s SAMBASO―古典芸能の可能性』の会場になるのが、リニューアルを終えた「紅葉坂ホール」。回り舞台や小迫り、仮設花道なども有しており、演劇や伝統芸能の上演を盛り立てるのにぴったり。劇場の杮(こけら)落しにふさわしい演目『三番三』をお楽しみに!
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杉原邦生[すぎはら・くにお]
KUNIO official website https://kunio.me/
1982年東京生まれ、神奈川県茅ケ崎育ち。
演出家・舞台美術家、KUNIO主宰。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学) 映像・舞台芸術学科、同 大学院 芸術研究科 修士課程修了。学科在籍中より演出・舞台美術を中心に活動し、2004年に自身の作品を発表する場としてプロデュース公演カンパニー“KUNIO”を立ち上げた。木ノ下歌舞伎では、2006年5月『yotsuya-kaidan』(作:鶴屋南北)をはじめ『三番叟』『勧進帳』など10作品を演出。来春からはCOCOON PRODUCTION「コクーン アクターズ スタジオ」でも講師に。
What’s SAMBASO―古典芸能の可能性
[日程]2023年7月23日(日)14:00開演
※13:30開場
※未就学児は入場不可
※29歳以下チケットの方は、当日証明書をご提示願います。
※演出の都合上、開演後はご入場をお待ちいただく時間帯がございます。
※車椅子をご利用のお客様・足の不自由なお客様は、お電話にてお申込み下さい。
Tel.045-263-4475[神奈川県立青少年センターホール運営課]
[会場]神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
[料金]全席指定(税込)
一般 3,500円 29歳以下 1,500円
[出演者] 三世 茂山千之丞[しげやま・せんのじょう]
杉原邦生[すぎはら・くにお]
木ノ下裕一[きのした・ゆういち]
笛:野口亮
小鼓:曽和正博、住駒充彦、森貴史
太鼓:河村大
[スタッフ]舞台監督:藤田有紀彦
Web:小林タクシー
宣伝美術:堀川高志
協力:童司カンパニー、木ノ下歌舞伎
制作協力:中嶋沙弥奈
制作:さかいひろこ
プロデューサー:小林みほ
[主催] 神奈川県・合同会社KUNIO,Inc
[お問合せ]神奈川県青少年センター(ホール運営課)
Tel.045-263-4475(受付時間 9:00~17:00)
合同会社KUNIO,Inc. info@kunio.me