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それでも僕たちは生きていく

それでも僕たちは生きていく

21世紀を生きる狂言師の檜舞台
Vol.13 伝統という「芯」と新たな価値観と
大藏教義(能楽師狂言方大藏流)

じわじわと日本で新型コロナ感染症が広がりつつあった2月。スポーツ界をはじめ様々なイベントが中止され、僕たち芸能の世界も中止・延期が相次いだ。
3月の公演から現在まで、舞台に立ったのは1回のみ。この先8月までの公演も開催のめどが立っていないが、政府が提唱する「3密」のど真ん中の職業だから仕方ない。開催する側も、お客さんの交通事情を考えると中止せざるを得ないと思う。
僕も5月31日に自主公演を控えていたが、断念した。

「何もできない」
「文化芸術は無力だ…」

とマイナスな気持ちになるのはすごく嫌なので「こういう時こそ今まで出来なかったことをやろう!」と思った。
変な話だが「少しズレたことも今の状況なら許される?」と、ちょっと強気な僕なのであった。

まず、狂言教室をオンラインにした。

現代的ではあれど気持ちは厳かに。

これは生徒さんからの希望もあって取り組んだが、意外と楽しい。できる事は限られてしまうが、オンラインならではの稽古方法もあるはずと、模索中。
さらに大学の授業もオンラインになりそうで、もっとしっかりと教えたいという気持ちから、いろんな機材を集めてしまった。

厳かではあれど、機材が増えるとなんだか楽しい!

右から有線と無線のイヤホンと、中央は広角レンズ、左が携帯スタンド、手前は扇。つまり、稽古に用意するものが増えたわけだ(笑)。
生徒さんも軟禁状態の毎日で、声を出し体を動かすことができたと喜んでくれた。

次に、多くのアーティストがSNSで様々なことにチャレンジしていることに便乗して、ハカマチャレンジや暗記チャレンジを作成し、アップしてみた。

まず、これがTwitterで公開した「ハカマチャレンジ」。いわば生徒さんたちへの挑戦状だ。

 


 

素早い着付けは僕らにとっては当たり前のことだが、現代人にとっては意外と大変なことのようで、「家に袴がある人はやってみてねw」と投稿したところ予想外の反響があった。

「暗記チャレンジ」は子供たちにぜひチャレンジしてほしい。とにかく魚の名前が多く出てくるので、釣りが好きな方も楽しめるはずだ。
【覚えられるかな?「魚説経」】

人にみてもらえること、喜んでもらえること、役に立てたらいい。僕の活動の原点はそこに尽きると思う。

さてこの後、芸能だけでなく演劇界・音楽界はどうなっていくのだろう。集まることが難しいのであれば、自然と映像配信へと流れていくのだろうか。

能狂言が生まれた時代は多くの芸能が存在したそうだ。様々なジャンルを取り入れながら発展し、長い時代の中で淘汰され、一流芸術へ昇華されてきたが、明治維新に幕府の扶持を離れ、庶民の中で生きることになった。戦時中は「笑い」を禁止されたこともあったが、それでも様々な苦境を乗り越えて継がれてきたのだ。今まさに目の前にある受難に、私たちは伝統という「芯」を持ちつつも、新たな価値観をもって取り組んでいかなければならないのかもしれない。

受け継がれた心の灯を、今ここで消すわけにはいかない。
人が生きていく上で、文化芸術は必要不可欠なものなのだから。

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