新春を寿ぐ 〜狂言方の新年は笑いとともに〜
21世紀を生きる狂言師の檜舞台
Vol.5 新春を寿ぐ
大藏教義(能楽師狂言方大藏流)
年末から稽古場の大掃除が始まり、歳神様をお招き出来るよう新年のお飾りをする…これはどこのお家でも変わらない。
大根注連、門松、楪、裏白、紙垂、輪飾り、玉飾り、注連縄を注文する…これらは稽古場のお飾りに必要なものだ。
稽古場の上部四方に注連縄を張り、神棚には大根注連、玄関に玉飾りと門松。床の間など大切な場所には輪飾りと、楪と裏白に餅を乗せて飾る。これが正月のお飾りだ。
新年を迎えた元旦。弟子一門が稽古場に集まり「謡初式」を行う。
日を改めて、社中(教室の生徒さん)も集まって「舞初式」を執り行う。
これは嘉例のしきたりで、能楽界ならではの行事であろう。
舞台には皇祖神の掛け軸、能楽で最も神聖視される演目『翁』の中で、狂言方が使用する「黒色尉」の面と鈴。神棚から降ろしてきた榊に塩と米と酒。これらを特別な祭壇に飾り、その前で式が行われる。新春を寿ぐとともに、1年の舞台の無事を祈るのだ。
最後は三宝に乗せたお神酒と塩と米を頂いて身を清め、その後は新年会へ。
新年会で1番盛り上がるのは「福引き」だ。どこでもやることかもしれないが、狂言独特の面白い“遊び”がある。そのポイントは、参加者が用意する福引品(概ね500円程度)に合った狂言のセリフを、熨斗に書いて貼っておくことだ。
「さぁ、やってまいりました福引きのお時間です!」
私たち職分の声で威勢良くスタート。
「〇〇さんに当たりましたのは、××さんからの出品です。『膏薬練』から「そりゃ~、吸えい、吸えい」というセリフですが、さて中身は何でしょう?」
ちなみに「膏薬」とは、紙片や布片に塗って患部に貼り、毒を吸い出す外用薬。狂言演目『膏薬練』は、鎌倉と京都の膏薬練が“吸い比べ”をする話である。
というわけで、福引品の中身は「卓上クリーナー」。
狂言方ならではの、洒落た言葉遊びを交えてのプレゼント交換なのだが、良くできたものもあれば、懲り過ぎて良く分からない事もあり、笑いが絶えない。
今では狂言方にふさわしい1年の始りだと思っているが、子供の頃はこうした年末年始の一連の出来事が、嫌で嫌で仕方なかった。
「お年玉なんていらないから“普通”のお正月を過ごしたい!」と、本気で思ったものだ…。
さて、今年も残すところわずか。
大掃除の時は1年を振り返り、失敗を反省しつつ新たな出会いや成功に感謝をする。
年が明ければ、私たちを支えてくださる多くの方々の幸福と発展を祈る。
「平成最後」とは言われるものの、毎年と変わらずに笑顔と感謝の気持ちで新年を迎えたい。