【伝統芸能】小田原ちょうちん 郷土愛のシンボルとして
東海道の宿場町・小田原で人気を博した「小田原ちょうちん」。現在鉄道5社が乗り入れるターミナル駅でもある小田原駅の構内には、巨大な小田原ちょうちんが掲げられています。今回は市内の小学生や旅行客に製作指導を行う「小田原ちょうちん製作ボランティアの会」会長の井上敦久(いのうえ・あつひさ)さんにインタビュー。今も市民の身近な存在であり続ける、伝統の一品に注目します。
街を照らす やわらかな光
2014年11月から小田原駅のホーム発車メロディーに採用されている、童謡・唱歌の「お猿のかごや」。「小田原ぢょうちんぶらさげて」と軽快なリズムで口ずさむ歌を、親しみ深いと感じる人も多いのではないでしょうか。
小田原ちょうちんは江戸時代の中ごろに、甚左衛門(じんざえもん)というちょうちん職人が箱根越えの旅人のために考案したと言われています。小田原ちょうちんには、「三徳(さんとく)」と呼ばれる3つの特長があり、上下のふた(まげし)が大雄山最乗寺の霊木で作られていて道中の魔よけになる。折り畳むと懐中に入って携帯しやすい。中骨の竹ひごが平たいことから和紙との接着面が広くて剥がれにくく雨や霧にも強い、と評判になりました。近年は工芸品として祝い事や贈り物のほか、市内のお祭り会場を飾るアイテムとしても欠かせない存在になっています。
未来を支える ボランティアのチカラ
35年目を迎えた、小田原ちょうちん製作ボランティアの会。小田原城址(じょうし)公園で毎年秋に開催されている市民参加型の地域イベント「小田原ちょうちんまつり」「小田原ちょうちん光アートフェア」も皆さんの活動で支えられています。
―まずは、発足のきっかけから聞かせてください。
井上 小田原市市制施行50周年の時に、当時の小田原箱根商工会議所青年部が企画・運営した「明かりの祭典 おも城オアシス」の目玉イベントのひとつだった、ちょうちん製作が活動の始まりです。当時、小田原ちょうちん保存会の倉持会長が製作キットを考案して製作教室を開催していることを知り、小学校での製作と児童の小田原ちょうちんをイベントで展示する企画を説明。全面的に協力をいただきました。
その後、イベントの成功を受けて企画の継続が決定。小学校での製作指導を翌年からは小田原市観光協会、小田原箱根商工会議所青年部が共催で行いましたが、平日の日中活動には限界が。そこで市民募集をして、ボランティアの会を結成。10年目からは観光協会、商工会議所青年部、小田原ちょうちん製作ボランティアの会の3者で実施するようになりました。
―現在のメンバーや活動内容は。
井上 会員数は80名で、男女比は半々ぐらいです。多くは定年を迎えた人ですが、会社員や主婦、高校生で加入した大学生もいます。
活動の中心は市内全25校の小学5・6年生に向けた、手作りちょうちんの製作指導です。毎年6、7月にメンバー10~20名で各校を訪ねます。体育館に集まっての工作は1時間30分ほどかかりますが、子どもたちは飽きることなく楽しんでいます。私たちも小田原の伝統文化として関心をもってもらえるように努めています。
―地域に根差していて素晴らしいですね。
井上 ありがとうございます。市内全小学校の児童が製作した約1,600個の手作りちょうちんは、「小田原ちょうちん光アートフェア」で約1か月間、小田原城址公園本丸広場に展示されます。昼はもちろん、夜のライトアップも美しくておすすめです。一人一人が和紙に描いた作品をぜひ見ていただきたいです。
―活動の中で感じることはありますか。
井上 継続してきたことで、人々の心に小田原ちょうちんが深く刻まれてきた気がします。私自身も事業に関わり始めてから42年経ちましたから。製作を支援した数は学校児童がおよそ6万5,000個、観光客や各種団体を含めると10万個を超えると思われます。親子2代で製作体験というご家庭も多いです。
小田原の人は地元の名物に小田原城や梅干し、かまぼこなどを挙げますが、小田原ちょうちんも全国に知られる自慢の一品です。これからも子どもたちのふるさと・小田原の“おらが街のシンボル”として郷土愛を育む活動を続けていきたいと思っています。
もっと小田原ちょうちんを知りたくなったら
小田原ちょうちん製作ボランティアの会では、毎月第2・4日曜日に製作体験を実施しています。親子参加も可能で旅行客にも人気です。文化庁が認定する「日本遺産(箱根八里)」にも関わる、小田原ちょうちんを身近に感じるチャンス。いにしえに思いを馳せながら、小田原でちょうちんを手作りしてみませんか。
文/志村麻衣(編集ライター)
小田原ちょうちん製作ボランティアの会
問い合わせ:小田原市観光協会(TEL:0465-20-4192)
小田原ちょうちん製作体験:こちら