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演劇・ダンス
2019.04.10

舘形比呂一のDanceable LIFE Vol.6

自分とは違う世界が見えてくる「振付」という仕事
舘形比呂一(役者・ダンサー・振付家)

 

いつからか、仕事として振付に携わることが増えてきました。朗読劇のステージングからはじまり、ミュージカルにも挑戦。昨年は『魔女の宅急便』の振付も担当させていただきました。
人に振付を提供すると、自分が考えていたのと違う世界が見えてくることがあります。僕がイメージした世界を、自分とは違う肉体がカタチにすることで、想像もしなかった風景が生まれる。それはとても興味深い体験です。
反対に、自分自身に振付けるのはけっこう苦労しますね。自分の限界を知っているから、すべてが予想範囲内に収まってしまい、つまらないものになってしまうのです。僕は、人が与えてくれた“振り”をどうアレンジして、自分流に踊ろうか、と考えるのが楽しいようです。だから、小さなシーンでも、自分が踊る振付は信頼できる人に依頼することが多いですね。

4年ほど前から、アーティスティックスイミング(旧称・シンクロナイズドスイミング)の振付に参加しています。もちろん、僕が水の中に入って指導するわけではありません。僕は全体の構成やテーマを考え、曲を選び、陸上動作と水中での上体の振付を行います。足の動きはヘッドコーチの井村雅代先生が考えてくださるので、いわば共同作業ですね。
“踊る”という共通項があるように感じるかもしれませんが、僕としてはまったく業界が違うので、はじめてお話をいただいたときは戸惑いました。でも、井村先生が「業界の人ではないから、まったく知識がないからこそ面白い」と言ってくださったんです。常識に捉われてしまうとそこから飛び出たものが生まれてこないので「メチャクチャなことを言ってください」と。さすがの発想力だと感じました。

アーティスティックスイミングは、その名の通り高い芸術性が求められる競技です。僕に期待されたのは、主に「あざとい表現力」を教えること。海外の選手はアピール力が高く、登場した瞬間から「自分は世界一うまいんだ」というオーラを発しています。そんな表現力や“あざとさ”を日本の選手に指導して欲しい、と依頼されました。僕は器用なダンサーではありませんが、だからこそ作品への思いの強さや入り込み方、集中力を磨いてきた、という自負があります。井村先生は、そこに目をつけてくださったのでしょう。

振付で大切なのは、その人の良さを引き出すことだと思っています。僕に依頼されたのだから“舘形ワールド”を展開しても良いのですが、実際に表現するのは僕とは違う肉体です。一方的に押し付けるのではなく、僕の世界をその人が体現したらどうなるのかをイメージすることが重要だと思っています。
とはいえ、最初は選手たちと共通言語がなかったので、お互いに苦労したと思います。僕が考える“表現”を理解してもらうために、手を変え、品を変え、いろんな言葉を選んで伝えるよう試みました。抽象的な表現も多いので、理解し合うためには幅広い経験が必要になります。井村先生が選手たちに勧めるのは、ダンスや演劇の舞台、歌舞伎、音楽、美術など、いろんなものを観ること。実際、井村先生はアートに関しても幅広い経験をお持ちなので、意見交換しながら振付していくのは、僕にとっても素晴らしい体験でした。
4年経ってみて、選手たちは様々な世界に興味を持ち、いろんなものを観に行くようになったようです。僕らとも共通言語が持てるようになってきたと感じています。
今年の3月に行われたフランス・オープンでは、僕が振付を担当した乾友紀子選手がソロFRで優勝。2020年の東京大会へ向けて、良い流れができたと感じています。

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