
自由! シュール! 直球! 個性あふれるクーカワールド
Kanagawaギャラリーさんぽ
File.9 GALLERY COOCA
山本詩野(ギャルリーワッツ)
ふと目にしたフライヤーの中にあったカラフルでキュートな絵。水色の背景に、不思議な女のコ? 周りには海の生き物たちが描かれています。「ん? 夏休みの自由課題で観察したなあ」と、はるか昔の思い出が急によみがえり、勝手にシーモンキーの現代版のように思えたその絵に惹かれて、実物を観たくなり出かけました。会場は初めて覗く、平塚にあるGALLERY COOCA(クーカ)。
平塚駅西口の商店街を抜けると、な! なんですか! 広い交差点にまるで映画のセットのような建物が。「かっこいい!」思わず口から出たココが目的地でした。
レトロ感漂う入り口を入ると、ラスティックモダンなオシャレカフェ。奥はカウンターになっています。
そして、白いパネルの反対側がギャラリースペース。私をここに引き寄せた軽やかな絵が並んでいました。
この作者は池田ジャスティーヌさん。彼女の作品には、必ず英語の文章が添えてあり、それらは日常の出来事や思い出。はっきりとした黒い線、しっかり塗られた色で構成された絵と相まって、なんでもない日常の1コマがとてもポエティックに感じられるから不思議。
そして色の組み合わせが楽しく心をくすぐります。
「私はレインボーカラーが好き。だからよく使うのは7つの色。元気が出るの」とジャスティーヌさんは言います。
「この後ろ姿の鳥は、ジャスティーヌにしては珍しいニュアンスなんですよ」と説明してくれたのは、クーカ施設長の北澤桃子さん。「丸い輪郭にシンプルな顔の人物や生き物は、彼女の特徴的なパターンで、よく登場します。頭に浮かんでくるものを迷うことなく次々描いていく感じです。でもこの後ろ姿は、じっと観察して印象に残った形を描いているんだと思います」
幅広い年代のハートをつかむジャスティーヌさんのキュートな絵は、コスメのパッケージやTシャツなど企業のデザインにも採り入れられているそう。
さて、ギャラリーの一角には、アーティストが作業できるコーナーがあり、今日も画用紙と絵の具が広げられています。
と、突然「失礼します!」と男性が現れ、「ただいまから『辻太郎招福クマデ』を説明させていただきます」と流ちょうな口上販売が始まりました。つまずくことなくスピードに乗った喋りは「あなたの願いが必ず叶えられます!」と力強い言葉で締めくくられ、思わず「はい! ください!」と言いそうになります(笑)。
彼は、ペンネーム・辻太郎こと伊藤太郎さん。やはりクーカのアーティストの1人です。辻太郎さんは記憶することや同じものをたくさん作ることが得意だそう。
こんなに大きなバージョンのクマデも。某IT企業さんから、年末に発注があると言うから大したものです。
机の壁にモデルや女優のピンナップを貼り、たくさんの美人を生み出す人、ゆる~いムード満載で脱力系の立体を作る人、パフォーマンスが得意な人など、他にもたくさんのユニークなアーティストがクーカに所属しているといいます。
「クーカはハンディキャップのある人たちのアトリエなんですよ」と北澤さん。
「ここでは、その人のやりたいことや得意なことで、きちんと仕事や活躍ができることを目指しています」
料理が得意な人はカフェで活躍。「最初はサンドイッチだけだったのですが、ソースの塗り方に個人差が出てしまう。全員で統一するのは難しいことだとわかって、同じグラムで作りやすいパンケーキをメニューに加えたんです」
サンドイッチには、やはりクーカアーティストの絵の旗がちょこんと、それがまたオシャレ。
サラリーマンや近所の人たちが気軽に入ってくる様子を見ていると、街に馴染んでいるのがわかります。
それは、クーカのスタッフが打ち出すデザイン力があってこそ、と思っていたら、なるほど、北澤さんを始めスタッフは美大やデザイン畑出身が多いとのこと。
デザインのライセンスや、人形劇、ライブの出張公演など、出口の部分を北澤さんたちクーカのスタッフが考え、社会とつながる場が増えているそうです。
*真ん中にジャスティーヌさん、右から2番目が北澤さん
「私たちクーカのスタッフが得意なのは、周りの人たちが注目してこなかった、その人の面白いところ、素敵な個性を見つけて、引き出すことです」と北澤さん。
ハンディキャップあるなしに関わらず誰にも言えることですが、自分の個性が注目されると、自己肯定につながります。他人とのコミュニケーションが得意でなかった横溝さやかさんは、2007年に逗子市主催の手作り絵本コンクールで最優秀賞を受賞。そこから少しずつ心が開かれ、2017年には文部科学省から“障がい者の生涯教育推進のためのスペシャルサポート大使”に任命されたそうです。
「1人で何役も声を使い分けた紙芝居が得意」と言うのが納得できるほど、横溝さんの作品は登場人物が多い多い! 平塚駅の地下道にも飾られているので、ぶらりさんぽルートとしてお見逃しなく。
前身は1992年に設立された福祉施設。その中にあったギャラリー部門が2009年に独立して、ギャラリークーカが生まれました。現在通園する約100名の人たち全員の作品が社会とつながるように、そして障がいのあるなしを超えて、暮らしと人とアート関係がもっと豊かになるように、北澤さんたちは発信し続けています。
クーカにいて、なぜ気持ちがいいのだろうと考えてみました。
どれも表現がストレートで、それぞれの個性がにじみ出ています。淡々とした表現力が持つ説得力。そこには理屈なんかないし、必要もない。アートの底力をみるようなインパクトを味わいました。
ギャラリー内の小屋には、絵や言葉、音楽、お悩み相談など多岐にわたるジャンルで、所属アーティストたちのオリジナルグッズが販売されています。どこかクスッと笑いを誘う表現は、お土産にも喜ばれること間違いなし!
月1で企画展を開催し、ジャスティーヌさんは8月30日まで。ちなみに、私が最初に女の子? と思ったシーモンキー的なキャラクターは、ジャスティーヌさんいわく「マーメイド」だそう。あながち間違いではなかった! Yey!!(笑)
(2019.8.取材)
《ギャラリー情報》
GALLERY COOCA
〒213-0032 神奈川県平塚市明石町14-8
TEL:0463-67-752
https://www.studiocooca.com/
開廊日:サイトで要確認
《アクセス》
▶︎JR平塚駅から徒歩約10分
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地域湘南地域
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住所神奈川県平塚市明石町14-8
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電話0463-67-7520
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営業時間10:30〜15:30 *不定休
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URL
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