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小劇場からはじまったSTスポット横浜の挑戦!

小劇場からはじまったSTスポット横浜の挑戦!

芝居が生まれる現場
File.9 ST スポット横浜
今井浩一(編集ライター)

横浜駅西口のオフィス街のビルの地下に、「STスポット」という小さな劇場があるのをご存知でしょうか。オープンから30年以上。世界的に活躍する劇作家・演出家の岡田利規(チェルフィッチュ)を筆頭に、これまで多くのアーティストを輩出してきました。
その劇場を運営するのが「NPO法人STスポット横浜」です。「アートの持つ力を現代社会に活かす」というミッションを掲げ、神奈川県、横浜市などとタッグを組んで幅広い活動を行っています。今回は、あまり知られていないその活動にスポットを当ててみます。

STスポットを運営するのは、1987年に市民ボランティアによって組織された任意団体「STスポット運営委員会」。2004年に「STスポット横浜」としてNPO法人化されたのを機に、活動の幅を広げてきました。

「さまざまなアーティストを育成してきたことは、アーティストコミュニティーの中では広く浸透していましたが、地域にはほとんど知られていませんでした。これからの時代、地域との結びつきが重要だと考えたことから、劇場運営だけでなく、地域の中で芸術を試行する団体として『アートの持つ力を現代社会に活かす』というミッションを掲げました」(理事長・小川智紀さん)

運営資金が乏しい中で着目したのが、「かながわボランタリー活動推進基金21」という神奈川県とNPOによる協働事業。「アートを活用した新しい教育活動の構築事業」の提案をし、さまざまなジャンルのアーティストを学校に派遣する“出前授業”を実施しました。5年の間に幅広いジャンルの人々と協働することを学んだと言います。
その後、この事業は横浜市とのタッグによる「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」として現在も継続しています。

「神奈川県との協働事業は20校くらいだったので、私たちがすべての学校に連絡して要望を聞き、アーティストをマッチング。当日も同行していました。濃密で楽しい時間ではありましたが、私たちだけではなかなか活動が広がりません。そこで地域のホール、専門館(横浜赤レンガ倉庫、横浜みなとみらいホール、横浜美術館)、アートNPOなどに協力を依頼。現在は私たちも含めて38団体がコーディネーターを務め、横浜市内約500の小学校、中学校、特別支援学校のうち、今年度は146校で事業を展開しています」(事務局長・田中真実さん)

「こうした事業は、はじめから『演劇ですか?音楽ですか?』と絞り込まないことが大事。きっかけは何でもいいんです。例えば『子供たちの元気の良さを引き出したい』と言われれば、ダンスがいいかもしれないし、音楽で何かできるかもしれない。いろいろ提案することで、アートに対するハードルを下げるよう心がけています」(小川さん)

そしてこの事業の成果が、「地域文化サポート事業・ヨコハマアートサイト」、「福祉分野における芸術文化活動の基盤整備事業」へとつながっていきます。

*ヨコハマアートサイト2019キックオフ・ミーティング

2014年からスタートした「地域文化サポート事業・ヨコハマアートサイト」は、横浜市内各地で行われているアートによるコミュニティづくり、アートフェスティバル、横浜独自の作品創造などを、さまざまな方法で支援する事業です。その支援内容は、補助金交付に関する審査、制度改善のためのヒヤリング、広報誌作成など多岐にわたります。

ここで課題となるのが“アートの定義”です。

「アートとは何か。これはとても難しい定義です。尖ったアートもあれば、お祭りもある種のアートだし、外国籍の子供たちとアートでコミュニティをつくる活動もアートかもしれない。明確な答えは出ていないので、地域活動をつぶさに見ないと判断できないし、新しいもの、埋もれたものを発見できません」(小川さん)

「横浜の地域文化とはなんだろう」をテーマにディスカッションを行うなど試行錯誤を繰り返しているそうですが、2019年度は47件の応募があり、29件が採択されています。

*実施施設:横浜市立四季の森小学校/アーティスト:入手杏奈(ダンサー・振付家)

2020年に東京パラリンピックの開催が決まって以降、障がい者とアートに関する取組みが盛り上がりをみせています。
STスポット横浜は神奈川県とタッグを組み、障がい者とアーティストの協働ワークショップや作品創作に向けた調査研究、勉強会、視察などを行う「福祉分野における芸術文化活動の基盤整備事業」を実施しています。福祉施設で芸術活動を行うことに馴染みがなかったため、まずは現場の人同士が話し合える勉強会などを開催。広い県域をフォローするための調査研究も行っているそうです。

「福祉施設の方もすごく頑張っていらっしゃるのですが、施設の中だけでは限界があり、空気が停滞してしまいます。だから外部の人間が入っていくことで刺激を与え、風穴を開けることには意義があると考えています。将来的には、他のホール・文化施設にもこうした活動のハブになって欲しいですね」(田中さん)

*実施施設:障害者支援施設リエゾン笠間/アーティスト:ドゥイ(造形ユニット)、勝見淳平(PARADISE ALLEY BREAD&CO)

STスポット横浜は、これらの活動で試行錯誤を繰り返すことで、アートが街に開かれ、浸透してゆく活動に大きく寄与してきたのだと思います。
最後に、小川さんが大事にしていることを話してくださいました。

「劇場は劇場で、今も自由に活動しています。公共性とのバランスは取るにしても、創作や発表の現場としては、アーティストの牙を抜くようなことはしないよう気をつけています」

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