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Double Planet 第8話

Double Planet 第8話

Double Planet
第8話「覚えたての呪文を叫んでみた」
田丸ルカ(フルタジュン&神田陽太/レディオ湘南パーソナリティ)

ナツキの第一声は「最高じゃん」だった。何を指しての言葉かと言えば、私が初めて書いた戯曲『空とパズル』の感想だ。ナツキに台本をメール送信してから落ち着かない時間が過ぎた。早く感想が欲しいような、絶対に欲しくないような、相反する感情がバチバチと火花を散らせながら、結局は喉から手や足がニョキニョキと出るほどに感想が欲しかった。日付を跨いで深夜1時を回った頃、メールやLINEじゃなくて、いきなり電話がかかってきた。秒で電話に出た。ナツキの第一声が先のソレだった。「最高じゃん」が脳内でエンドレスリピート。小躍りしたくなるような衝動を抑えながら、ナツキの感想にじっと耳をすませる。

「正直言うとね。引き込まれちゃって、私、今もまだあの物語の中にいる気分なの」

『空とパズル』は、海沿いにある高校を舞台にした天文部で展開する物語だ。宇宙の神秘に夢中な天文部の部員たちは、新しい星を見つけて、その星に自分の名前を付けたいと願っていた。帰宅部だった主人公の女の子は「名前だけでいいから」という親友からのお願いで「廃部逃れのための数合わせ」で天文部に入った。しかし、ある日、主人公が興味本位で望遠鏡を覗いた日、新しい星を見つけてしまう。それが引鉄となって、円滑だったはずの人間関係のパズルが狂い始めてゆく。

「主人公の女の子、私やってみたい!」

あの主人公は真っすぐな性格のナツキがモデルになっている。
いや、違う。ナツキという存在に、私が書かせてもらったんだと思う。

「ナツキ、ありがとね」

その後は、まるでカップルになったばかりの恋人同士みたいにお互いのことを褒め合いまくるという、ちょっぴり気持ち悪く気恥ずかしい時間が流れた。けど、それがまた心地良くて。もうヤダ、バカ。

明け方4時、電話を切った私は、目が冴えて眠れそうになかった。
気が高ぶったまま、枕に顔をうずめて、覚えたての呪文を叫んでみた。

「最高じゃん」

一体いつどこで、この演劇が上演されるか分からない。けど、私とナツキは動き始めることにした。

そんな矢先だった。
Twitterを介して一通のメッセージが届いた。
送り主は、青野サトル。
文面を読んで、誰なのかは見当がついた。

「これってもしかして……あのサトルブルー?」

レディオ湘南の『らぶ&MUSIC』に、よくメール投稿をしているリスナーの男子高校生だ。
『空とパズル』に興味があると書いてある。いったいどういうことなのかよく分からない。
しばらくラジオを聴けていなかった私も悪いのだけど、何かラジオで進展があったのかもしれない。改めてメッセージを読み返してみる。そこに度々出て来る「僕は怪しくないです」というキラーフレーズ。いやいや、完全に怪しいって。私がサトルブルーの存在を知っているから許容できるけど、もし全く見ず知らずの人から送られて来たとしたら、怖すぎるって。

けど、丁寧な言葉の運びには誠実さを感じた。不器用ながらも彼なりの誠意があった。すぐに返事をするのはなんとなく恥ずかしかったので、あえて3日間ぐらい寝かせてから、返事を送った。

「メッセージ読ませてもらいました。
私、ルーカスというラジオネームで一度だけ『らぶ&MUSIC』にメールしたことあります。実はサトルブルーさんのことはけっこう知ってます。あ、念のための確認なんですが、青野サトルさん=サトルブルーさんで良かったですよね?もしも別人だったらすいません。
『空とパズル』に興味を持ってくれてありがとう。驚きです!というか、嬉しいです。
これから形にしていく『空とパズル』が、いつどこで上演できるのかまだ分かりません。
こんな情勢なので、全てが絵空事で終わっちゃう可能性もあります。(私は絶対に上演にこぎつけるつもりだけど!)だから、そんな可能性のある作品だということを理解してもらえるなら、作品のこと教えても良いですよ。あ、私も怪しいものではありません(笑)
  田丸ルカ」

「ルーカスさん、返事ありがとうございます。そうです、僕はサトルブルーです。
怪しい者ではないことが証明できて良かったです。
可能性のこと、よく分かりました。
もしも上演されなくてもかまいません(僕も絶対上演されると信じてますが!)。
ぜひ『空とパズル』のことを、詳しく聞かせてもらえたら嬉しいです。
もしもご迷惑でなければ、なのですが、どこかでお会いできたりするでしょうか?
  青野サトル」

《つづく》

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