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聴いてよし! 観てよし! 県立音楽堂で前川建築のモダニズムを堪能

聴いてよし! 観てよし! 県立音楽堂で前川建築のモダニズムを堪能

行って、みて、感じるアートの世界
File.17 前川建築見学ツアー in 音楽堂
井上みゆき(マグカル編集部)

神奈川県立音楽堂———通称「木のホール」。
クラシック音楽ファンなら知らない人はいないと思うが、近頃の建築ブームで新たなファンが増えている。
設計は前川國男。そう、建築界の巨匠 ル・コルビュジエの元で学んだ、日本を代表する建築家だ。
難しいことはさておいて、とにかくスタイリッシュでかっこいい!
開館65周年とリニューアルオープンを祝って「前川建築見学ツアー」が行われると聞きつけ、いそいそと出かけてみた。

まずは黄色いフレームが印象的なエントランスから。
バルコニーの壁は、お隣の県立図書館とお揃いの「ホローブリック」。機能的にもすぐれた設計らしいのだが、音楽堂に採用したのはデザインの統一性からと思われる。なので、詳しくは昨年のレポートをご覧あれ。
*図書館建築ツアーのレポートはこちら>>

前川の色へのこだわりが一目でわかるのが、エントランスの中。前川は「建築家にならなかったらペンキ屋になりたかった」と言うほど“色”にこだわりがあったという逸話に、大きく頷く。
広い空間ではないけれど、華やかでインパクトのある色使いが気分を盛り上げてくれるので、音楽堂の玄関にふさわしいデザインなのかも。

前川建築らしさを感じるのは、明るく開放的なホワイエ。
整然とそそり立つ柱は、コンクリート製なのにどこか気品があり、エレガント。よく見ると木目が付いているが、これは、木の板で作った枠に、手でこねたコンクリートを流し込んで作っているからだとか。今から思うと超アナログな工法だが、この時代のコンクリートは現代よりはるかに強く、美しくできているそうだ。
床面は「テラゾー(人造石研ぎだし)」と呼ばれる、こちらも手作り感溢れる工法だが、65年の歳月を経てなお劣化を感じさせない。

昨年から1年2カ月かけて改修工事を行い、美しくよみがえった音楽堂だが、今回のコンセプトは「65年前の姿に戻すこと」。なので、照明器具も創建当時のまま。もっとも、光源はLEDに変更しているので、環境への配慮は怠りない。
ちなみに、天井が階段のようにガタガタしているのは、この真上に客席があるから。2階座席の勾配に合わせて、ゆるやかな階段状になっている。

というわけで、ホールの中へ。
音楽堂は、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールをモデルとして設計された。規模はだいぶ小さいけれど、最前列から最後列までずーっと段床なので、どの席からも舞台がよく見えるのがうれしい。
音響設計を担当した石川聖光によると、2階バルコニーなどの“出っぱり”がないことも、音の響きにメリットがあるそうだ。

「木のホール」という愛称からもわかるように、舞台上の反響板をはじめ、客席の壁や天井もすべて木でできている。波のようにウェーブしている天井も、もちろん木製。
戦後間もない時期だけに「木」以外の選択肢が難しかったという事情もあるようだが、熟考と工夫を重ねることで、結果として世界のミュージシャンから「東洋一の響き」と賞賛される音を生み出したのだから素晴らしい。

2階席後ろの壁にも注目!
穴の空いた板が屏風のように折れ曲がっている。これも音が必要以上に反響しないための工夫。この壁もしっかりクリーニング&再塗装されて、見違えるほど上質なイメージに…。

舞台袖の奥にある楽器庫も見学。デリケートな楽器を守るために、室内の温度・湿度は常に一定にコントロールされている。つまりここは「音楽堂の中でいちばん居心地のいい場所」。

こちらは舞台裏の控え室。真ん中にコンクリート柱が立っているのはなぜ…? と思ったら、ここは後から増築されたスペースなのだとか。つまり、屋外に立っていた柱を取り込んでしまった、ということ。なんとなく、手作り感満載。

音楽堂は何度も訪れたことがあったけど、緞帳を見たのは初めてかも。「必要なのか?」と言ってはいけない。これには深いわけがあるのだから。
音楽堂が計画されたのは戦後間もない時期。議会の一部からは「食べるものにも困っているのに音楽堂とは何事か」という声も上がっていたらしい。そうした声を説き伏せるために「みんなが使える公会堂」として話を進めた結果、緞帳や映写用スクリーンなどの劇場設備も付帯することになったのだとか。
とはいえ、緞帳も前川デザイン。今回は当時の資料を元に新調したそうなので、機会がればぜひ近くで観てみて。

図書館で椅子をデザインしたように、前川は音楽堂に必要な什器もいろいろデザインしている。例えばポスターの展示ボード。機能的でモダンなデザインは、ミニチュアにしてデスクの上に飾っておきたいくらいステキ。

見過ごしていたけれど、譜面台や演奏家が座る椅子も前川デザイン。無駄のないシンプルな椅子は、おしゃれなカフェにも似合いそう。

最後に、お客さんが去った後のホワイエを振り返ってみる。
いつもはコンサートの高揚感、非日常的なドキドキ感に包まれているホワイエが大好きだ。
でも、コンサートのない日の、音のない音楽堂も幸せだな…と思った。


ご案内いただいた、ボランティアグループ bridgeの皆さん。「楽しむ」「学ぶ」「つなぐ」を3つのキーワードに、地域の文化やアートに親しむ活動として、建築ツアーなどを実施しているそうです。
ありがとうございました!

「前川建築見学ツアー in 音楽堂」は、今後も開催されます。
今回参加させていただいたのはフルコース(約60分、参加費500円)。
約20分間のショートコースは事前申し込み不要、無料で参加できるので、気軽におでかけください!
*詳しくは特設ホームページへ

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