文化と芸術の地、神奈川県が送る第56回神奈川県美術展
昭和40年にスタートし、今年で第56回を迎える国内でも有数の大きな公募展となる神奈川県美術展。
去年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い残念ながら中止となってしまいましたが、今年は万全の対策を施した上で開催されました。
歴史と実績のあるこの美術展には、今年も多くの素晴らしい作品が全国から集まりました。
今までに数々の応募者が入賞を機に飛躍し輝かしい活躍をしていることから、若き芸術家の登竜門としても高い評価を受けている本美術展。公募は平面立体、工芸、書、写真の4部門。今回は各部門で見事大賞を受賞された4名にインタビューをさせて頂きました。
受賞者の皆さんが熱く語ってくださった作品への想いとアートへの情熱をお届けできたらと思います。
≪平面立体部門≫ 石﨑朝子さん
大賞受賞作品
タイトル 「側面からの風景」
大賞受賞おめでとうございます。率直に今のお気持ちをお聞かせください。
かなり驚きました。とても嬉しく、自分の作品の自信につながりました。
アーティストへの道を選んだきっかけを教えてください。
手を動かすことが好きで。考えを形にするまでの時間に充実感を覚えます。
今回応募しようと思ったきっかけは何でしたか?
表面の処理や、配置バランスなどが写真ではなかなか伝わりづらいシンプルな造形要素からなる作品なのですが、実際の作品を見て審査してもらえるので、自分の作品が伝わりやすいと思ったからです。
作品のコンセプトや制作中に込めた想いをお聞かせください。
「側面からの風景」というタイトルにもある通り、あらゆる角度から見たときのそれぞれの面の見え方の違いを意識して制作しています。自分が風景を見るときに感じる稜線や、重なりのイメージが作品に繋がっています。
いちばんこだわった点、また苦労した点を教えてください。
移動性という意味合いを込めて台座に取り付けたキャスターや、角度によって見え方が変化するようにアルミの板を折り曲げることにこだわりました。
苦労した点は、L字の台座です。コンセプトをシンプルに表現するために、木材になめらかな表面処理を施す作業にかなり時間がかかりました。
今回の受賞を糧に、これからどのような活動をしていきたいですか?展望、将来の目標をお聞かせください。
色々な場所で作品の展示をしたいです!
継続した制作活動のために、まずは環境づくりに取り組んでいきます。
来年度の応募を目指す皆さんに是非、ひとことメッセージをお願いします!
自分が「良い」と思ったものを、大切に持っていてください。
面白い作品がみられるのを楽しみにしています。
≪プロフィール≫
石﨑 朝子 (いしざきあさこ)
□略歴
1996年 栃木県生まれ
2021年 武蔵野美術大学 造形学部彫刻学科 卒業
武蔵野美術大学 大学院造形研究科 修士課程美術専攻彫刻コース 1年在籍
□展示
2017年 グループ展 「ムサビアートサイト」(都立武蔵国分寺公園/東京)
2019年 グループ展 「小平アートサイトよりみち芸術2019」(小平市立中央公園/東京)
2020年 グループ展「うわごと」(KOGANEl ART SPOTシャトー 2F/東京)
2021年 「令和2年度武蔵野美術大学卒業 ・ 修了作品展」(武蔵野美術大学鷹の台キャンパス/東京)
2021年 2人展「ストラップホール」(武蔵野美術大学鷹の台キャンパス/東京)
2021年 「武蔵野美術大学 優秀作品展」(武蔵野美術大学美術館/東京)
□企画 ・ 活動
2019年 企画・実行委員長「小平アートサイトよりみち芸術2019」(小平市立中央公園/東京)
2019年 企画 ・ モデレータ ー「白川昌生トークイベント<アートと公共性 ・ 地域アー トの可能性>」(小平市立中央公園/東京)
2020年 企画「うわごと」(KOGANEl ART SPOTシャトー 2F/東京)
2020年 企画 「インストール ・ 梱包レクチャー」(武蔵野美術大学FAL/東京)
2021年 トークイベント・登壇 「ポリフォニックなタベ」(武蔵野美術大学美術館/東京)
□受賞歴
2021年 「令和2年度武蔵野美術大学卒業 ・ 修了作品展」 優秀作品賞受賞
≪工芸部門≫ 谷敷謙さん
大賞受賞作品
タイトル 「OLLIE IN」(木目込み、特殊捺染)
大賞受賞おめでとうございます。率直に今のお気持ちをお聞かせください。
大変ありがたく、嬉しかったです。自身の中でも新しい表現方法だったので、今後の制作をしていく励みになりました。
アーティストへの道を選んだきっかけを教えてください。
動機は複数ありますが、自身が感じた感動やイマジネーションを誰かに伝えたかったからだと思います。
今回応募しようと思ったきっかけは何でしたか?
前回も応募させて頂いて、たくさんの方からフィードバックを頂けたので、
今年も応募しました。美術展としては、珍しく作品サイズの規定が凄く大きく、自由度が高くて、受け入れの姿勢に強く共感したのも理由です。
作品のコンセプトや制作中に込めた想いをお聞かせください。
コロナ渦という未曾有の状況の中、この状況や経験をプラスに転化したくて、障害を乗り越えたり、その障害でどうmakeしたりするかのsectionに対する視点をもっているスケートボードをモチーフにしました。
私は古着とは、記憶や思い出などの精神性の要素を持つ素材だと感じていて、知人にお願いして、実際にスケートをしている方々から着られなくなった古着を頂いて、その精神性と身体性で障害を相手にmakeする勢いや勇気、開放感を感じてもらえたら嬉しいなと思い制作しました。
いちばんこだわった点、また苦労した点を教えてください。
全ての作品に通して言えることですが、頂いた古着を大切に丁寧に作品に取り込ませて頂くことは常にこだわっています。苦労した点は靴下集めです(笑)
消耗品として見られている靴下は状態の悪いものだとすぐに捨てられてしまうので。
今回の受賞を糧に、これからどのような活動をしていきたいですか?展望、将来の目標をお聞かせください。
私の作品は生身の対象がいて、自分だけでは完結できず時間軸や関係性で、大きく作品の 成り立ちが変わっていきます。一人で作っているというよりかは、リアルなご協力者があって、初めて完成しています。
私自身の制作のモチベーションでありテーマは存在証明なので、今回の受賞で他者とのつながりが増え、たくさんの方にご協力頂けたら嬉しいこと極まりないです!
またその作品が、何百年経過した後にこんな方々が存在したんだと、未来の世代に感じてもらえることを妄想し、スーパー耐久力・強度のある作品を作ることが目標です。
来年度の応募を目指す皆さんに是非、ひとことメッセージをお願いします!
神奈川県美術展はサイズの規定が大きく、展示の時に親身に相談に乗って頂けるなど、表現したいことを寛大に受け入れて頂けるので、思いっ切り挑戦して頂けたらと思います。
≪プロフィール≫
谷敷謙 (やしきけん)
1983年 東京都生まれ
□主な受賞歴
2007年12月 JFW JAPAN CREATION TEXTILE CONTEST 2008 新人賞
2018年9月 第25回 ユザワヤ創作大賞展 グランプリ
2019年1月 第1回 タガワアートビエンナーレ 佳作賞
2019年3月 第54回 昭和会展 東京海上日動賞
2019年3月 第54回 昭和会展 ニューヨーク賞
2019年6月 ART OLYMPIA 2019 優秀賞
2019年7月 神奈川県美術展 入選
2020年2月 FACE 2020 損保ジャパン興亜美術賞 入選
2020年9月 SICF21 オーディエンス賞&ワコールスタディホール京都奨励賞
2020年12月 UNKNOWN ASIA 2020 イープラス賞&レビュアー賞
≪書部門≫ 山口大梦さん
大賞受賞作品
タイトル「米芾 蜀素帖一節」(べいふつ しょくそじょういっせつ)
大賞受賞おめでとうございます。率直に今のお気持ちをお聞かせください。
大変有り難く、幸せな思いです。
ご指導いただいた恩師、日頃より支えてくださるこの道の先輩方と家族に感謝の気持ちでいっぱいです。
アーティストへの道を選んだきっかけを教えてください。
子どもの頃、習字の先生が目の前で書いてくれる筆の動きを見るのが大好きで、先生の手元を必死に目で追いかけていたのを思い出します。
お手本に似せるより、その心地よい動作を再現できるかを楽しんでいました。
もちろん、書いても書いても近づくことは出来ませんでしたが、書の表現は動きによって無限にあることを知りました。
いま振り返ると、この初めの興味が表現を楽しむきっかけとなり、自然とこの道に進んでいったように思います。
今回応募しようと思ったきっかけは何でしたか?
書道が盛んといわれる神奈川は、多くの志高い書家の方々がいらっしゃいます。
歴史ある神奈川県美術展に、私自身も出品し、勉強していきたいという思いがきっかけです。
制作に込めた想いをお聞かせください。
コロナによる「ひとり時間」は寂しさもありましたが、黙々と熱中できるもの、ひたすらに情熱を傾けられる書道のお陰で、制作の喜びを味わい、学びの楽しさを再確認することができました。 理想を求めて努力することは楽しいことで、これから訪れる明るい未来を見据えて日々筆を握りました。
いちばんこだわった点、また苦労した点を教えてください。
秦の始皇帝時代の書体を用いて制作しました。
小篆(しょうてん)と呼ばれるもので、現在でも印鑑などで目にする機会もあるかと思います。規則性が強い文字で制約がありますが、線の強弱や筆運びの速度に変化をつけて、
「抑制」と「解放」それぞれの性格を無理なく併有することを理想としました。
今回の受賞を糧に、これからどのような活動をしていきたいですか?展望、将来の目標をお聞かせください。
現在、川崎大師に勤めております。
長い歴史を受け継ぎ、儀礼や作法は今も変わる事なく継承されています。
分野を問わず伝統文化には、永い間ひとつの様式を磨き上げた底光りの美しさがあります。
書の道も同様、礎を大切にして格に入る努力をしていきたいと思います。
弘法大師ゆかりの門前町が「書のまち」として、多くの方々に手書きの魅力を伝えていくことが今後の目標です。
来年度の応募を目指す皆さんに是非、ひとことメッセージをお願いします!
神奈川は歴史に彩りがあり、県内各地域に文化と芸術で結ばれています。
皆様の作品を通じて、制作・鑑賞する楽しさが多くの方々と共有され、芸術の魅力が未来へと繋がっていくことを願っています。
≪プロフィール≫
山口 大梦 (やまぐちたいむ)
□略歴
1987年 鹿児島県生まれ
2009年 大東文化大学卒業
日展入選 6回
読売書法会 理事
謙慎書道会 常任理事
川崎市書道連盟 常任理事
≪写真部門≫ DONG YUEYING(こう げつえい)さん
(左)
(中央)
(右)
大賞受賞作品
タイトル「Unnatural」 3枚組
大賞受賞おめでとうございます。率直に今のお気持ちをお聞かせください。
とても嬉しかったです。自信にもつながりました。
アーティストへの道を選んだきっかけを教えてください。
大学を卒業して、さてこれから何を勉強しようか、就職しようか、と悩んでいた時期に、ギャラリーでの作家の作品を見て、アーティストの道を選択してもいいかもしれないと思って、心の声に従いました。
今回応募しようと思ったきっかけは何でしたか?
最初は授業中に先生から初めて知って、自分の作品も出品できるのではないかと思いました。
作品のコンセプトや制作中に込めた想いをお聞かせください。
デジタル技術および実写を結びつけた写真表現の可能性を探求したいです。実際に撮った映像とデジタル技術を合わせて新たな表現を試みました。色彩要素を扱って、現実生活との差異を浮かび上がらせます。日常風景がいきなり変わったら、見た人は「自分の日常」と「違差異感」との間に何らかの関係を感じて、自分の生活をもう一度考えるというコンセプトです。
いちばんこだわった点、また苦労した点を教えてください。
勉強する中で、イノベーションや思潮などの環境変化は芸術表現とどのような関係をもつかと考えるようになりましたから、デジタル技術についてCGや3D加工、色彩処理をこだわっています。
自分にとって、一番難しいのは3D、CGソフトの使い方です。一から勉強するのは、すごく時間がかかりました。
今回の受賞を糧に、これからどのような活動をしていきたいですか?展望、将来の目標をお聞かせください。
将来は作家になるか就職活動をするか、本当に悩みました。それで今回の賞に応募してみたら入選して、そんな流れがあって、「やっぱり作家活動を続けていきたい」と自分の中で覚悟が決まった感じです。
これからも、作品を作り続けていたいんだと気がつきました。アジアから世界へ活躍の幅を広げていく作家になりたいです。
来年度の応募を目指す皆さんに是非、ひとことメッセージをお願いします!
色々考えせず、とりあえずやってみよう〜
≪プロフィール≫
DONG YUEYING(こう げつえい)
□略歴
2019年 上海視覚芸術学院 写真学科卒業
2021年 東北芸術工科大学 複合芸術領域在籍
第56回神奈川県美術展の会場の様子は、「オンライン展示」として動画でご覧いただけます。
[オンライン展示]https://www.kanagawa-kenbiten.com/
第56回 神奈川県美術展
[日時]1期展[平面立体] 2021年8月25日(水曜日)から9月5日(日曜日)
2期展[工芸・書・写真] 2021年9月8日(水曜日)から9月19日(日曜日)
午前10時から午後6時まで(両期とも最終日は午後2時まで)
[会場]神奈川県民ホールギャラリー
[公式ホームページ]https://www.kanagawa-kenbiten.com/