神奈川県民ホールと歩んだ60年──神奈川県美術展のこれまでとこれから
半世紀にわたり、多くの人に親しまれてきた神奈川県民ホールが、2025年(令和7年)3月末に休館を迎えた。
山下公園前という象徴的な場所に立ち、音楽や舞台芸術だけでなく、美術の分野においても数々の記憶を刻んできたこの場所は、神奈川県の文化を語るうえで欠かせない存在だった。
その県民ホールと深く結びついてきたのが、60年の歴史を持つ「神奈川県美術展」である。
若き才能の登竜門として始まった美術展

神奈川県美術展は、1965年度(昭和40年度)に鎌倉・鶴岡八幡宮境内にあった県立近代美術館で始まった。当時の入選率は7.5%という狭き門で、「新進作家の登竜門にしたい」という思いから、大賞受賞者には100万円の留学資金が授与されていたという。
未来を制作活動に賭ける若者にとって、この美術展での入賞がどれほど大きな意味を持っていたかは、想像に難くない。
県民ホールが育んだ、多様な表現

山下公園前に県民ホールが開館して以降、美術展の会場は同館ギャラリーへと移り、「平面立体」「工芸」「書」「写真」など、多様な分野部門を揃えながら、数多くの表現者を世に送り出してきた。
「日本の日常」を俯瞰する独特の画風でVOCA展にも複数回選出された麻生知子氏(第53回『平面立体部門』大賞)、岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)特別賞を受賞した藤森哲氏(第52回『平面立体部門』はまぎん財団賞)、そして武蔵野美術大学特任教授としても知られ、全国の美術館で展覧会を開催する三沢厚彦氏(第30回『特選』)など、現在も第一線で活躍するアーティストたちが、この場で早くから才能を示してきた。
休館という節目、そして「次」へ

県民ホールの休館に伴い、2025年度(令和7年度)の神奈川県美術展は公募を休止することとなった。しかしそれは終わりではなく、新たな一歩のための準備期間でもある。
美術という共通言語を通じて交流し、表現者が切磋琢磨する場を未来につなげるため、2026年度(令和8年度)には会場を鎌倉市内に移し、公募を再開する予定だ(展示は令和9年2月~3月)。
開かれた公募展として、これからも

2016年度(平成28年度)の第52回展からは、年齢・所属・国籍を問わない全国公募展へと移行し、神奈川県にとどまらず、日本各地の新しい才能に触れられる場となった。
50年間にわたり会場として親しまれてきた県民ホールギャラリーの休館を機に、同展は出品規程の見直しを含め、新たな公募のあり方を模索しながら歩みを続けていく。
なお、2014年度(平成26年度)の第50回から美術展と同時に開催されてきた、県内の中高生等を対象とした「中高生特別企画展」については、制作発表の機会を確保するため今年度も開催された。
2026年度(令和8年度)も継続して開催される予定で、引き続き次世代の表現者を育む場としての役割を神奈川県美術展は担っていく。
「公募展はハードルが高い」と感じていた人にとっても、今はむしろ新しい挑戦のタイミングなのかもしれない。
県民ホールが残した記憶とともに、神奈川県美術展は次の時代へと歩みを進めていく。