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「Walk in THE Yokohama」THE 1st 『横浜ネイバーズ』シリーズ 前編

「Walk in THE Yokohama」THE 1st 『横浜ネイバーズ』シリーズ 前編

「人が集い、立ち止まり、歩き出す、港町・横浜」
横浜を舞台に描かれる作品を通じて、街の各所を訪ねる連載企画。
題して「Walk in THE Yokohama」
横浜という街は、作品にどのような色を与えているのか?
また、作者から見た横浜とは?
連載第1弾となる作品は岩井圭也著の『横浜ネイバーズ』シリーズ!

<あらすじ>
高校時代、とある事件を解決したことから「山下町の名探偵」と呼ばれている“ロン”こと小柳龍一。中華街・四川料理の名店「翠玉楼」を継ぐつもりだったが、店が閉店となり、アルバイトを掛け持ちするも、基本は家でゴロゴロしていて、祖父から「仕事探せ」と言われる日々を過ごしている。
そんなロンの周囲でさまざまな事件が起き、ロンはさまざまな形で巻き込まれていく。
ロンを助けるのは、同じく中華街で育ち、柔術の黒帯でギャンブラーの“マツ”こと趙松雄(ジャオ・ソンシオン)、マツ同様、保育園からの幼馴染でSNS多重人格者の“ヒナ”こと菊地妃奈子、少し年上ながら幼馴染で警察官の“欽ちゃん”こと岩清水欽太、高校の同級生で人気ラッパーの“凪”こと山県あずさといった面々。そこに、伝説のアイドルで今はデザイナーの優理香、生徒思いの予備校講師でアイドルオタクのピロ吉、天才小学生ハッカーの蒼太、閉店後の「翠玉楼」で事務所を開いた弁護士の清田先生などなど、一癖も二癖もある人々が事件を追うごとに加わり、繋がっていく。それぞれマイノリティなバックグラウンドを持ちながら。

<シリーズ>
(角川春樹事務所(ハルキ文庫)/※第1〜5巻は1話完結の連作短編集、第6巻で第1シーズン完結)
『横浜ネイバーズ』(2023年)
『飛べない雛 横浜ネイバーズ2』(2023年)
『凪の海 横浜ネイバーズ3』(2023年)
『人生賭博 横浜ネイバーズ4』(2024年)
『ディテクティブ・ハイ 横浜ネイバーズ5』(2024年)
『中華街の子どもたち 横浜ネイバーズ6』(2025年)※長編・第1シーズン完結
『檻を出ろ!横浜ネイバーズSP』(2026年)

Walk in THE 『横浜ネイバーズ』

『横浜ネイバーズ』の面白さは、横浜という街そのものが登場人物のように息づいているところにある。ここからは、作中に描かれた場所を実際にたどりながら、その風景が物語で果たす役割まで追いかけてみたい。ガイドブックには載らない、“作品を通して見る横浜”へ。まずは物語の原点、中華街の善隣門から歩き出そう。

善隣門(中華街)

横浜中華街 善隣門
「親仁善隣」〜中国の歴史書『春秋左氏伝』に由来する言葉で、「隣国や隣家と仲良くすること」を意味する。
『横浜ネイバーズ』

物語はここから始まる。
門に刻まれた「親仁善隣」の四文字こそが、作品全体のテーマになっている。後編で著者が明かすように、書き出せずにいた物語は、ここで「隣人を助ける話」という柱を得て動き出した。 出発点であると同時に、作品の思想そのものが生まれた場所だ。

ヨコ西(横浜駅西口)

“ヨコ西にいるのは、一度は死にたいと思ったことがある、または現在進行形で思っている子ばかりじゃないだろうか。〜中略〜ただ、実際にはほとんどの子が自殺を選ばない。死にたいと思いながら、だらだら生きている。私も含めて。”
「墜落少女」

新宿の「トー横」をモチーフにした架空の地。
「トー横」をモチーフにしたこの架空の場所は、行き場のなさや「生きづらさ」を抱えた若者たちの象徴として置かれている。ロンが手を差し伸べる“隣人”たちの原風景であり、作品が見つめる現代のリアルが最も濃く滲む一角だ。

媽祖廟(まそびょう)(中華街)

横浜中華街 媽祖廟
“中華街での一大イベント「春節」のカウントダウンが行われる会場、祝祭の空間。華やかな賑わいとその陰でうごめく事件——中華街の光と影——が同居する場所として描かれる。
「ベアードマンの亡霊」

媽祖廟→南門シルクロード→朝陽門→山下公園(中華街)

山下公園

ロンとマツがとある事件で、あるものを持って疾走する。
ロンとマツが駆け抜けるこのルートは、彼らの“地元”としての身体感覚そのもの。土地を知り尽くしていることが、そのまま物語を前へ進める推進力になる。

加賀町警察署(中華街)

欽ちゃんが神奈川県警捜査一課から異動してきた、中華街に建つ警察署。
実在する警察署は、幼馴染の刑事・欽ちゃんを物語につなぎとめる結節点。日常の街に「事件」と「捜査」が地続きで存在することを示す。

黄金町エリアマネジメントセンター(黄金町)

“「ぼくらは生きている限り、絶対に人を傷つける。だからこそ、他者に対して優しく、誠実であろうとする姿を美しく感じるんじゃないかな」”
「ベアードマンの亡霊」

中華街の景観を損なうように貼られたステッカーの意味を求めていたロンに、凪が紹介したアーティストが語る。
 かつての負の歴史を街ぐるみで塗り替えてきた黄金町は、「人を傷つけるからこそ、誠実であろうとする」という作品の倫理を語るのにふさわしい舞台になっている。

みなとみらい駅(みなとみらい)

“改札口の周辺は多少人の行き来が激しい。サラリーマンの二人連れや学生らしき一団に混ざって、ふらふらと歩いている黒いコートの女がいた。
——見つけた。
ロンの胸で、再び執念の炎が燃え上がった。”

「マザーズ・ランド」

ロンと地面師となった実母・南条不二子の12年振りの再会の場。
洗練された未来都市の玄関口が、ロンにとって最も個人的な因縁——地面師となった実母との再会——の場になる。きらびやかな風景と生々しいドラマの落差が、この街の多面性を映す。

パシフィコ横浜(みなとみらい)

“〜たとえ一人でも、過ちに気付いて別の道を選んでくれれば。〜身近にいる隣人(ネイバーズ)たちの力になることができれば、それで十分だった。”
「推しの代行者」

横浜では古株のコンサート会場である大ホールのほか、会議センター、展示ホールを擁する。ちなみに、みなとみらいエリアでは、他にもぴあMMアリーナ、Kアリーナ、KT Zepp Yokohamaなどライヴ会場多数。ロンが警備のバイトでいったのは、横浜アリーナ(新横浜)、横浜スタジアム(関内)など。スケールの大きな場所だからこそ、ロンの“半径”の小ささが際立つ。

横浜公園→尾上町→大江橋→野毛(関内エリア)

“幸せになりたい、豊かになりたいと願うこと自体は罪なのだろうか。その気持ちに付け入り、大金を巻き上げる者こそが、裁かれるべきではないか。”
「人生賭博」

マツの大事な先輩を慮って、ロンが自転車で疾走するルート。中華街とはまた違った人と人との距離感を持つ街・エリア。ここでの人間模様もロンたちに一石を投じ続ける。

神奈川県警察本部(馬車道)

“ディテクティブ。それは「探偵」と「刑事」の両方を意味する言葉だった。大事なもののために、力を尽くして捜査する。その意味において、探偵と刑事は全くの相似なのかもしれない。”
「ディテクティブ・ハイ」

ロンと一緒に半グレのアジトから生還した欽ちゃん(当時、神奈川県警捜査一課)の元職場。
欽ちゃんの警察官になった理由、警察官としての理想が時として欽ちゃんを暴走させる。

中華街

横浜中華街
“陣痛から十時間後、分娩室で泣き叫ぶ息子を抱いた私は驚いた。なんの感動もなかったからだ。焦りで一杯だった。おかしい、こんなはずじゃない。”
”龍一は私の子というより、「中華街の子」でもあり、同時に「未来の翠玉楼の跡取り」であった。”

「中華街の子どもたち」

東北出身の不二子が、中華街で孝四郎と出会い、中華街で龍一を産んだ。翠玉楼のチーフシェフの孝四郎は、分娩の日も、退院の日も、店に、中華街に縛られていた。

本牧埠頭(本牧)

本牧埠頭
“「俺が全人類を救うなんて言ってない。俺は、俺とのかかわりのある人間のために動く。ただ、俺が助けた人間が同じように考えてくれれば、何倍、何十倍もの人を幸せにできる。その連鎖が続けば、いつか全人類が幸せになれる。」”
「中華街の子どもたち」

犯罪者となった母である不二子と対峙するロン。居場所を作ることで犯罪組織から母を引っ張り出そうとするロンに対し、不二子は「全人類を救えるはずないのに」と吐き捨てるが。

マークイズのカフェ(みなとみらい)

“「〜俺に関わったみんなが、教えてくれた。こんな俺でも人を好きになる資格があるんだ、って。誰かを愛していると宣言していいんだ、って。」”
「中華街の子どもたち」

隣人たちを助け続けてきたロンが、やっと手に入れたものとは。

こうしてたどってみると、横浜の風景の一つひとつが、単なる背景ではなく物語の一部として息づいていることがわかる。すべての始まりとなった善隣門の「親仁善隣」から、みなとみらいの光と影、野毛の人情、そして再び中華街へ——街そのものが、登場人物たちと同じ熱量で描かれている。では、その横浜を選び、描いた著者・岩井圭也さんは、この街に何を見ているのか。後編では、作品に横浜が与えた“色”を、作者自身の言葉からたどっていく。

<著者・岩井圭也氏プロフィール>
いわい・けいや:1987年生まれ、大阪府枚方市出身。北海道大学大学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞し作家デビュー。著書に『文身』『生者のポエトリー』『付き添うひと』『われは熊楠』『風車と巨人』『横浜ネイバーズ』シリーズ、『最後の鑑定人』シリーズなど多数。デビュー作『永遠についての証明』『最後の鑑定人』が相次いで映像化。今回の『横浜ネイバーズ』シリーズも東海テレビ・WOWOW共同制作でSeason1・2が放送された。

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