連続読み切りコラム『 』の虜/第5回 千葉正也『トロント』の虜
『トロント』の虜
「トロント」の虜、というか「トロント」で虜?、いや、何というか実際帰りのチケットも八月に買っちゃってるわけで、現実問題まだしばらくここに居なきゃいけない訳で、拘束されてるっつうか勝手に俺がここに居るんですけど、まあ雰囲気としましては「虜」な感じなんです。
そういう訳で「I`m in TORONTO」っす。(何も説明してないくせに風だけ吹かす)
ここでの暮らしはそりゃもう、ささやかで、語学学校のような所に通ったり宿題をやったりしてます。
その傍らこの変な状況を何とか作品に出来ないかと卑しくも夜な夜な紙にシャーペンを擦り付けたりしています。
それでもたまには盛り場に遊びに行ったりもするんですが、この間行ってきたクラブは超おもしろかった。
シェアメイトのカナダ人カップル(スチュワーデス女子とキューバ系のthug*、でも超良い奴です)と隣に住んでるゲイの夫婦に誘われて5人で行きました。
行く前にどんなとこか訊くと「ドラァグクイーンとゲイの人達が沢山居て南米音楽を流すとても伝統のあるクラブ」とのこと。。うーんなんか要素が多いな。。
場に飲まれる前に飲む!という事で到着して速攻でショットビール×3くらい飲んだあたりで、何だか自分がとても要素の多い複雑な所にいる気がしてきました。
(*=ゴロツキ、チンピラの意)
そもそもそこでガンガンに鳴っている南米ダンスホールミュージックという物がまず複雑。
サルサの四つ打ち風アレンジの曲から90’sサウスチキチキビーツにフラメンコボーカルっぽいのを乗せることで鉄砲節っぽく聞こえたり、やべえなこれとか思ってるとDJが気まぐれでタイの昔の曲っぽい奴のサイケミックスダブ調みたいなのをかけたらフロアで腕組んで観てた玄人っぽい奴らがサルサステップで見事に乗りこなす。。すげえよお前らマジで。
若干困惑しつつも「ワオいいじゃんこのクラブ」と連れのゲイ夫婦の方を振り返ると二人が向かい合った隙間に、小麦色のムキムキボーイがはさまって三人で体をこすりあいながらワイニーしてる。。まあいいんだよお前らが楽しければ。
とにかく俺の真っ黒なビー玉みたいな綺麗な目がそこら中にコンテクストっていうんですか?いろんな歴史や物語を発見する。
たとえばこのクラブの名前「el convento rico」スペイン語、英語でいったら「the beutiful convent」日本語で言ったら「美しい女子修院」?ドラァグクイーンの人とか集まってることを考えてみると、フェミニズムの伝統みたいなのも感じる。
いきなりガチっと肩を掴まれて振り返るとモニカ・ベルッチみたいな美女、でもよく見るとガタイが全盛期のジャンボ鶴田ぐらいデカい。
すごい好感の持てる奴で、何かのダンスのステップを教えてくれたり、ショット奢ったら耳に顔を近づけて来て「ジャーラスタファーライ!*」と言って去っていった。(*=エチオピア王の名。レゲエの基本となるイデオロギー、宗教的思想)
どういう意味かよくわかんねえけど気分いいな、あの人は、まるで「ワイルドサイドを歩け」の歌詞に出てきたドラァグクイーンだR.I.Pルー・リード、そしてR.I.Pジャンボ鶴田。
感傷に浸っていると奥からブリーチ金髪南米系のおばさんが走ってきて俺にTシャツを見せてくる。
なんとそのTシャツにはおそ松くんのキャラクター『チビ太』がプリントされている。 俺が「it’s tremendous!」と覚えたての単語でリアクションすると、おばさんはバイクのアクセルを回す手の動きをしながら腰をグイグイグラインドさせている。。
その後も、なにやら披露宴の二次会みたいな催しが唐突に始まったり、ロボコップみたいな仮装した人がロボダンスしたかと思ったら、お客の一人のガタイのパないおじさんにお姫様だっこされてステージを降りていったり、客全員が我が儘にに振る舞って朝になっていくのでした。
俺にはそこが社会に溜まりすぎた色んな物語を破壊する場所に見えました。
たとえば小説で読んで以来、気がつくといつも一緒に居たあの登場人物、そいつを一旦殺す場所というか。 これ読んだだけじゃ只の わやな空間としか思わないだろうけど。。
とにかくここは只のガス抜き以上の空間、妙にクリエイティブなお祭りだったのでした。
とても参考になりました、ありがとう『el convent lico』のピープル。
[以下参考までにリンクです]
そのクラブのホームページ こうみるとイナたいなあ。。
http://www.elconventorico.com/
↓「チキチキ」つったらこれなのか?
↓フラメンコボーカルと言えばこれか
↓「鉄砲節」鉄砲の名字は織田信長が命名したとの事らしいです、かっこいい
↓『ワイルドサイドを歩け』ご存知とは思いますが。
千葉正也(CHIBA Masaya)
1980年神奈川県横浜市生まれ。画家
[主な個展]
2011
「生きていたから見れた素晴らしい世界」 シュウゴアーツ(東京)
「果てしなく快適な生活」 16 Bungee(ソウル)
2008
「三ツ境」 シュウゴアーツ(東京)
[主なグループ展]
2013-2014
「Mono No Aware. Beauty of Things. Japanese Contemporary Art」 エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク)
「六本木クロッシング 2013 展:アウト・オブ・ダウト―来たるべき風景のために」 森美術館(東京)
2013
「アートがあればII」 東京オペラシティアートギャラリー(東京)
「2013 California-Pacific Triennial」 Orange County Museum of Art(ニューポートビーチ、カリフォルニア)
「Re:Quest―1970 年代以降の日本現代美術」 ソウル大学校美術館(ソウル)「東京画 II」 東京都美術館(東京)
2012
「国東半島アートプロジェクト」 国東半島(大分)
「Sculpture by Other Means」 ONE AND J. GALLERY(ソウル)
[今後の予定]
2015年12月16日-2016年3月6日広島市現代美術館にて(Discordant Harmony)展