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アート音楽ミュージック

超特大スピーカーと“海辺のちぐさ”

超特大スピーカーと“海辺のちぐさ”

今夜もどっぷりジャズ浸り
File.4 エレクトリック・リサーチ・プロダクツ社製スピーカー
新村繭子(ジャズ喫茶ちぐさ)

ちぐさには、1970年代に設計された特製のスピーカーが鎮座している。ツウィーターやアンプも合わせて作ったものなので、「ちぐさの音」を聴きに、わざわざ遠方から来るオーディオマニアのお客さんも多い。オーディオの理想とも言える4ウェイマルチアンプシステム方式で、真空管アンプ並みの豊かで奥行きのあるレコード音が再生されるのが特長だ。
ただ、この方式はジャジャ馬を馴らすほどの根気と相当のシステム知識がないと使いこなせない。再開ちぐさ以降「音がくぐもる」という不具合が何度か続き、気が気ではなかった。すかしてはなだめ、なんとか機嫌をとっていたのだがが、意を決して2016年に大手術を敢行。それ以降、安定して「ちぐさの音」を提供できるようになった。

ちぐさの常連には、大手メディアの音響技師や音響機器メーカーに長年勤めていた方も少なくない。話を聞いていると、彼らの家は丸ごと音響装置のようになっているのでは、と思うこともしばしばで、レコードの保有枚数も相当なものであることがイメージされる。

近年の話題は、そのレコードや音響機器など「お宝」の行き場所である。高齢の方も多く、ここ数年「そろそろ収集したものを整理したいから、ちぐさで引き取ってくれないか」という相談が増えてきた。
中でも目を見張ったのは、ちぐさのスピーカーより大きな、160㎝四方の超特大スピーカー。野毛の10坪ほどの店舗では限界があるので、どうにかできないかと頭を悩ませていたところ、偶然にも、とある場所の活用話が舞い込んできた。

その場所は、京急電鉄・三浦海岸駅からバスで20分ほど、観音崎近くにある築30年の丸太小屋。ちぐさ関係者が所有している物件で、長い間使用されずにいたのだが、超特大スピーカーの話をしたところ「じゃあ、丸太小屋に運んでしまえ!」と、トントン拍子で話が進む。さらに、ただ倉庫にするにはもったいない、ということから“海辺のちぐさ”計画が持ち上がる。丸太小屋をまるっとジャズ喫茶にしてしまおう、というのだ。

丸太小屋に押し込んだ超特大スピーカーはアメリカ製。1928年にスタジオや劇場用のトーキー機器を扱う会社として設立された、エレクトリック・リサーチ・プロダクツ社のものだ。アルテック社の前身である。広帯域ラウドスピーカーという名にふさわしく、映画館並みの大音量でもクリアな音を保ち続け、軍用放送にも利用されていたという。
貰い受けたものは家庭用とはいえ、やはり図体はかなりでかい。ホーンもある。ホーンとは、音のエネルギーを集約させ、より効率よく遠くの聞き手にも音を届けるためのものである。周囲に民家などがなく、30秒ほど歩けば海。どんなに大音量を出しても誰からも文句を言われない環境である。

早く鳴らしてみたい。ホーンから届くジャズを聞いて育った大根の味は、どんなももだろうか…?

野毛ちぐさのスピーカーと海辺のちぐさのスピーカー。多くの人のちぐさへの思いと、音の叡智を集約して制作されたこの2つの音響機器を引き継いで、新たなジャズ物語が三浦でも始まろうとしている。
“海辺のちぐさ”オープンの際は、ちぐさの常連さんも引き連れて聴き比べというのも面白い。喧々諤々、音響談義に熱が入るのが目に見えるようだ。
ぜひ多くの人に聴きに来て欲しいし、三浦の文化観光の目玉のひとつになることを期待したい。

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