キネマ散歩 第2回横浜市藤棚商店街「シネマノヴェチェント」
神奈川県内のミニシアターを紹介していく「キネマ散歩」。二回目の主役は世界最小と自負する、わずか28席の劇場とトラットリアからなる、何ともユニークなミニシアター。
京浜急行電鉄本線「戸部駅」、または相模鉄道本線「西横浜駅」より10分ほど歩くと、地元の人で賑わう小さな商店街に誘われる。横浜の下町としても知られるこちらの藤棚商店街では大正時代より続く老舗と、トレンドを取り入れた新しいお店がバランス良く共存している。
どこか懐かしい雰囲気の残るこちらの商店街の裏手に入ると、世界の名だたるスターの顔がずらりと並ぶ看板が目を引いた。神殿のような白い門に並ぶ文字は、「シネマノヴェチェント」。
商店街の佇まいに絶妙にフィットした外観から、長い間この地を見守ってきたように感じられたが、オープンはなんと平成27年とのこと。開業からまだ10年も経っていないとは思えないほどの貫禄がある。代表の箕輪克彦氏は元々川崎で「ザ・グリソムギャング」というシネマバーを運営していたが、ビルの老朽化などにより平成25年に閉館し、この地で新たに「シネマノヴェチェント」をオープンすることとなった。
門をくぐってすぐの細い階段は、壁や天井がスチール写真で埋め尽くされており、映画の世界に一歩ずつ足を踏み入れていく感覚に陥る。2階に到着すると、売店を兼ねた受付が出迎えてくれ、更には広々としたバーのスペースが現れる。こちらのシアターではロビーのエリアがバーとなっており、映画を楽しんだ直後に一杯ひっかけることができるそう!ノヴェチェント(イタリア語で1900年という意味)と同様に、こちらのバーもイタリア語で「トラットリア(大衆食堂)」と親しまれている。
世界最小と自負しているこちらのシアター、座席数はなんと28席!さすが「最小」と謳うだけあるなと思わせるサイズ感だが、その分スクリーンとの距離も近く、映画の世界に浸りやすい造りになっている。大きな映画館で鑑賞するのとも、家で映画を観るのとも、また違った味わい方を教えてくれる。黒を基調にしたシアターに彩りを与えている紫と黄色の座席は、惜しまれながらも閉館した映画館「吉祥寺バウスシアター」より引き継いだものだそうだ。
代表の映画に対する愛を随所で感じられるこちらのシアターは多くの常連に愛されており、遠方から訪れる方もいるそうだ。上映作品やトークショーのゲストに観客の意見を取り入れることもあり、まさにシアター・観客・映画関係者が一体となって築いている場所だと感じた。
シネマノヴェチェントはここでしか見られない映画のために、まだ見ぬ隠れた名作のために、そして一期一会のために、是非とも「行って欲しい映画館」の一つだ。