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博物館・美術館

【アートの魔法04】横須賀美術館に箱根×横須賀20世紀美術の名作が集結

【アートの魔法04】横須賀美術館に箱根×横須賀20世紀美術の名作が集結

横須賀美術館で2024年12月22日まで開催中の「響きあう20世紀美術 彫刻の森美術館×横須賀美術館」は、箱根地域の美術館と連携する「アートでつなぐ山と海」の第2弾。ピカソやムーアをはじめ、20世紀美術の優れたコレクションをもつ彫刻の森美術館の協力を得て、両館の名品を組み合わせ、響きあいを楽しむ展覧会です。今回は、同館運営課長の岡本剛彦(おかもと・たけひこ)さんと担当学芸員の沓沢耕介(くつざわ・こうすけ)さんにお話を伺いました。

自然と歴史に抱かれた 海辺の美術館

日本初の洋式灯台である観音埼(かんのんさき)灯台や砲台跡など歴史が残る、神奈川県立観音崎公園内に建つ「横須賀美術館」。屋上広場からは東京湾が一望でき、海側と山側どちらからもアプローチができる設計も注目されています。

―いつ見ても、美しい美術館ですね。

岡本 ありがとうございます。
2007年の開館以来、雄大なロケーションは魅力の一つです。設計者である建築家の山本理顕(やまもと・りけん)さんが今春、建築界のノーベル賞といわれる2024年プリツカー賞を受賞しました。ガラスと鉄板の入れ子構造からなる外観や、天井・壁面に開けられた大小の丸穴といった開放的な空間づくりに特徴を見ることができます。当館は景観の良さからCM・映画・ドラマのロケ地や雑誌の撮影で利用されることも多く、美術以外で興味を持って来られる方もいて。それもまたうれしいことだと思っています。

2館の名品による響きあいを楽しむ展覧会

ヴォルス《煉瓦の塔の上に》 1939年 彫刻の森美術館所蔵

「アートでつなぐ山と海」をキーワードに、神奈川県の東にある横須賀と西にある箱根の美術館が連携する企画展。第1弾は2023年4~7月、横須賀美術館の所蔵品展示室で「箱根ラリック美術館」所蔵のルネ・ラリック作品を紹介しました。

―企画の経緯から聞かせてください。

岡本 コロナ禍の自粛を経て、私たちの中に近場の地域で楽しみ、観光するマイクロツーリズムの意識が高まったと感じるようになりました。ならば、そのスタイルを生かしつつ、県内で連携して文化・芸術活動ができないかと。箱根ブランドの再構築に取り組んでいた箱根プロモーションフォーラムの会合に参加したのがきっかけです。

第1弾では、「長年、ルネ・ラリック作品が見たかったけれど、箱根までは行けずにいた。地元で楽しめてうれしい」という声も。会期中はお互いのミュージアムショップでオリジナルグッズを販売したり、併設レストランでコラボメニューを提供したり、展示以外のエリア交流も実施。箱根では、よこすか野菜や三浦野菜を使った料理を提供してくださったと聞いています。

―開催中の第2弾では、絵画とともに彫刻の展示が多いですね。

沓沢 今回ご協力いただいた彫刻の森美術館は、1969年に日本初の野外美術館として開館して以来、近代彫刻を中心とした優れたコレクションを形成されています。本展でお借りした39点のうち21点が立体作品となります。

バーバラ・ヘップワース 《待っている四つの形》 1968年 彫刻の森美術館所蔵 Barbara Hepworth © Bowness

―展示環境の違いで、作品の印象に変化も。

沓沢 彫刻の森美術館で見たことのある作品も、当館のユニークな空間の中では違った表情が見られるかもしれません。生涯をかけて左耳にこだわった彫刻家・三木富雄(みき・とみお)の巨大な《耳》3点をエントランスホールに展示しています。作品から語りかけられる言葉に耳を澄ませてみてください。

地域に根付く美術館として

美術と地域をつなぐ架け橋でもある横須賀美術館。観音崎公園近くにアトリエを構え、「週刊新潮」の表紙絵を創刊時より生涯描き続けた画家・谷内六郎(たにうち・ろくろう)の「谷内六郎館」を併設しています。

―「谷内六郎館」で2025年2月16日まで、谷内六郎〈週刊新潮 表紙絵〉展「大人たち」を開催中ですね。

岡本 今回は、子どもの描写が圧倒的に多い谷内六郎の表紙絵に登場する大人たちにフォーカスしたユニークな企画展です。

谷内六郎 《霧のミルクも来てた》 1970年 ©Michiko Taniuchi

谷内六郎には、本人が家族にふるまっていた「いくらでもスープ」という得意料理があって。彼の誕生日12月2日に合わせて、昨年は11月末に肉と野菜を牛乳で煮込んだスープが横須賀市立小・中学校や特別支援学校の給食メニューになりました。給食の時間には、私たちが提供した谷内六郎の作品やスープの紹介動画も放映され、地元の作家や芸術が子どもたちの記憶に残ったのではないかと思っています。

―素晴らしい取組だと思います。

岡本 他にも、無料で利用できるミュージアム展示ガイドアプリ「ポケット学芸員」もおすすめです。所蔵作品の作品解説と作家略歴を紹介しており、元NHKアナウンサー武内陶子(たけうち・とうこ)さんと横須賀総合高校演劇部の皆さんにナレーションで登場していただいています。現在は約120点の解説が利用でき、今後も対象作品を増やしていきますので、ご来館された際には利用してみてください。

文/志村麻衣(編集ライター)

横須賀美術館
住所:神奈川県横須賀市鴨居4-1
電話番号:046-822-4000(横須賀市コールセンター)
公式サイト:こちら 

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