コンテンツにスキップ
美術・写真博物館・美術館

【アートの魔法02】 神奈川県立近代美術館 鎌倉別館 40年目の思いと収蔵品を未来へ

【アートの魔法02】 神奈川県立近代美術館 鎌倉別館 40年目の思いと収蔵品を未来へ

貴重なコレクションを展示して、私たちを満たしてくれる美術館。その裏側では日々、収蔵品をふさわしい形で保存・修復・管理していくための活動が続けられています。今回は開館40周年を迎えた、神奈川県立近代美術館 鎌倉別館へ。新館長・長門佐季さんと保存修復担当学芸員・橋口由依さんにインタビュー、普段はなかなか見られない美術館の仕事や取組に注目します。
(トップ画像:左から橋口由依さん、長門佐季さん)

日本初の公立近代美術館として


神奈川県立近代美術館 鎌倉別館 撮影:木奥惠三

1951年に鎌倉・鶴岡八幡宮境内で誕生した、神奈川県立近代美術館。
戦後復興期に始まり、その後は収蔵庫の拡充や常設展示のスペース確保など状況に合わせて、体制を変えながら活動を継続してきました。1984年に鎌倉別館、2003年に葉山館が開館し、2016年に鶴岡八幡宮境内の鎌倉館が閉館したことから、葉山館と鎌倉別館の二館となり、2024年4月1日には長門佐季さんが第8代館長に就任しました。

―長門さんが新館長になられて、3か月が経ちました。

長門 1993年から神奈川県立近代美術館の学芸員・主任学芸員を、2018年から企画課長を務めて今に至っています。私は神奈川出身で幼いころから美術が好きだったので、神奈川県立近代美術館での懐かしい思い出もあります。

―学芸員になられてからは、どんな印象をお持ちですか。

長門 変化のある30年だったと感じています。
鎌倉と葉山それぞれの美術館の閉館と開館という節目に立ち会えたことは喜びでしたが、思いもよらない天災が続きました。阪神・淡路大震災、東日本大震災、令和6年能登半島地震に至っては今も不安が拭えません。美術に携わる者として、私たちの命や暮らしと同様に美術品の保全・保護が気がかりです。

―神奈川県立近代美術館には、保存修復に携わる専任担当者がいると伺いました。

長門 1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに当館でも保存修復への意識が高まり、2003年の葉山館開館時に作業のための部屋を設けて専門職員を配置しました。

―それ以前は都度、外部の修復技術者に依頼を?

長門 はい。ちなみに、保存修復は単純に良い見た目にするだけではありません。壊れた作品は修復もしますが、状態によってはそのまま保存するということも考えられます。修復計画の段階では学芸員と修復家が協働し、作家が作品に込めた意図や描かれた時代背景などを綿密に調査するなど、作品ごとの検討が必要です。館内での修復作業が叶ったことで、長い目で収蔵品に向き合い、処置の必要性やタイミングを考えることができるようになりました。

「てあて・まもり・のこす」ための取組


修復作業イメージ(神奈川県立近代美術館 葉山) 撮影:佐藤克秋

―開催中の「鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復」は、ユニークな切り口ですね。

長門 組織の中に保存修復の技術者が配置されている美術館は、全国でもわずか。専門職員を配置してから20年の実績を持つ当館の仕事を紹介することで、保存修復の重要性を知ってもらえたらと。また、この展覧会を担当した橋口さんたち若い職員に、これまでの歴史を伝えて未来を託せたらという思いもあります。


会場風景 撮影:佐藤克秋

―橋口さん、長門館長からのメッセージがありましたね。

橋口 はい。私は保存修復が専門の学芸員ですが、他館には同じ立場の職員がまだ少ないと感じます。最近は大地震に限らず、ゲリラ豪雨や大型台風なども増えています。当館でも2019年9月の台風15号で屋外の大型彫刻が致命的な損傷を受け、修復を行いました。展覧会でその経緯も紹介しています。「てあて・まもり・のこす」展をご覧いただいて、保存修復の意義を知ってもらえたらうれしいです。

―展覧会では、まず入口正面に修復道具がずらっと並んでいて。見慣れた文房具にときめき、工具類の多さに驚きました。

橋口 絵画は作品の画面だけでなく、裏面や額縁の改良なども行います。作品は美術館の万全な環境下でも長い期間でゆっくりと劣化していくので、人間でいう未病のための「てあて」をして、大病を予防するような作業も多いです。


会場風景(修復に使う道具) 撮影:佐藤克秋

―油彩画のビフォーアフターも驚嘆で、作品ごとの解説も読み応えがありました。

橋口 ありがとうございます。解説は私がこだわった部分で、損傷の原因や修復の内容だけでなく、その処置を選択した理由も説明しています。


会場風景 撮影:佐藤克秋

―先日、「野外彫刻を洗う」ワークショップを開催したとか。

橋口 葉山館には20点、鎌倉別館は8点の野外彫刻があります。野外彫刻は日々、直射日光や雨風にさらされています。虫や鳥などもいますし、海が近い立地なので空気中の塩分濃度も高いです。日常的に点検もしていますが、年1回はたわし・ぞうきん・高圧洗浄機を使って洗浄しています。今回は野外彫刻の管理を知ってもらうために、ワークショップとして開催しました。

―参加者の感想はいかがでしたか。

橋口 高圧洗浄機を使っての作業で盛り上がり、隅々まできれいにしていただきました(笑)。清掃を通して彫刻に触れ、身近に感じてもらえたと思います。


本郷新《わだつみのこえ》1950年 ブロンズ 神奈川県立近代美術館蔵 撮影:木奥惠三

祝40周年 これからの鎌倉別館

―最後に、長門館長から今後について聞かせてください。

長門 多様性という言葉を耳にしますが、作品のジャンルも展示の仕方も変わってきました。私たちも当館が収蔵する多様な作品をさまざまな方法で届けていきたいと考えています。例えば、時代を越えた見せ方や展示室を飛び出したアレンジなど、美術館がより魅力的な場となるように考えているので楽しみにしていてください。

また、今後も保存修復の専門職員がいる美術館として、その重要性を真摯に発信していきたいと思っています。

文/志村麻衣(編集ライター)

神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1
電話番号:0467-22-5000
公式HP:こちら 

「鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復」
企画展公式サイト:こちら 
会期:2024年5月18日(土)– 7月28日(日)
休館日:月曜(7月15日を除く)
開館時間:午前9時30分 – 午後5時(入館は午後4時30分まで)

関連記事