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【アートの魔法01】 長塚圭史芸術監督×KAAT神奈川芸術劇場 モノ・人・まちとともに

【アートの魔法01】 長塚圭史芸術監督×KAAT神奈川芸術劇場 モノ・人・まちとともに

KAAT神奈川芸術劇場(以下、KAAT)は、モノ・人・まち「3つのつくる」をテーマした創造型劇場です。2024年のプレシーズンが4月から始まり、7月には恒例の夏企画「KAATキッズ・プログラム2024」が開催されます。今回は芸術監督を務める長塚圭史さんにインタビュー、KAATの魅力に迫ります。

発信し続けた先に見えてきたもの

― 劇作家 ・ 演出家・ 俳優の長塚さんが、KAAT芸術監督になられて4年目に入りました。

長塚 2019年4月から芸術参与としてKAATに携わるようになり、2021年4月に芸術監督に就任して今に至ります。

― これまでのキャリアを軸に多角的な視点で取り組まれています。振り返っていかがですか。

長塚 あっという間ですね。ただ、僕が就いたころは新型コロナウイルス感染症が拡大した時期だったから、スタッフはその対応と重なって大変だったと思います。そうでなくても、芸術監督が代わると指針や広報スタイルが一新しますから。

僕はというと、「KAATは神奈川県の劇場」だと常に意識して働きかけを続けてきました。劇場に季節感とリズムを取り入れるようにシーズン制を導入したり、KAATカナガワ・ツアー・プロジェクトを実施したり。

― KAATカナガワ・ツアー・プロジェクトとは。

長塚 皆様に会いに行く、それをきっかけに県内の方々にKAATを知ってもらう、演劇に興味をもってもらうことを目標に掲げた試みです。2021年度からKAATで創作した作品を持って劇場を飛び出し、神奈川県内で巡演しています。

2024年は2、3月にプロジェクトの第二弾として、僕が県内各地域の伝説やエピソードを盛り込んで書き下ろした新作『箱根山の美女と野獣』『三浦半島の人魚姫』の2本立てで座間・川崎・小田原・逗子・茅ヶ崎へ。有名な西洋の物語と神奈川を融合して、観劇体験の入り口にしていただけるような娯楽作品に仕上げてお届けしました。

― 劇場側からの仕掛けが豊富ですね。

長塚 刻一刻と状況が変わる中でも、歩みや発信は止めないように心がけています。
働きかけを続けた結果、最近になってやっと少しだけお互いの顔が見えてきたというか、地域とつながっている感覚が得られるようになってきたんですよ。まだ本当に入り口ですが。

広報誌「KAAT PAPER」でつむぐ縁

― 季刊誌「KAAT PAPER」も長塚さんらしいツール。モノ・人・まちに注目するKAATを具現化していて好きです。

長塚 ありがとうございます。当初は企画会議から付きっ切りでしたが、僕らが目指すところが浸透してきたので、今は編集スタッフ主導で制作しています。

― 読み応えがありますが、企画でこだわっていることは。

長塚 毎号2人以上、新しいジャンルの人と“街(まち)”の人に会うようにしています。直接会ってこそ分かり合える、対話から生まれることがあると思っているので。これまで多くの方と対談してきましたが、いよいよTSUBAKI食堂・椿直樹さんとのコラボレーションイベントが実現するんです。

― 2023年冬号に登場された、「横浜野菜」「横浜18区丼」の椿さんと?

長塚 誌面がきっかけで、念願であったKAATアトリウムでの「KAATマルシェ」開催が決まりました。横浜の地産地消をテーマに街を盛り上げる椿さんの活動はKAATと通ずるものも多いので、僕も楽しみです。

また、創刊号(2021年秋号)の横浜中華街発展会協同組合 理事長 高橋伸昌さん(※)は今も春節の際にKAATにランタンを置いてくださっています。中華街とも何か新しい取組をもっともっと考えていかれればと思っています。一回やって満足せず関係が深まって続いていくことが大切なので、これからも出会いと働きかけを欠かさないでいたいです。
※役職は取材時のものです

【KAATマルシェ】
2024年7月6日(土)11:00~18:00、7月7日(日)11:00~17:00(予定)
詳細:こちら

【KAAT PAPER】
最新号(2024年春号):こちら

子どもたち越しに、本物の作品・舞台を観る

―「KAATキッズ・プログラム2024」が近づいてきました。

長塚 今年は久しぶりに海外からの招聘公演と、気鋭の日本人劇作家による書き下ろし新作の2作品。1作目の『ペック』from スコットランドは、若者に向けた作品創作に定評がある舞台アーティスト、アンディ・マンリーさんによるノンバーバルパフォーマンス。セリフはなく、表情や身振り・音楽から感じるままに楽しめばいいので、子どもの初観劇にも最適です。

― 長塚さんとアンディ・マンリーさん、エピソードがあれば聞かせてください。

長塚 僕が初めてアンディ・マンリーさんの舞台を観たのは10年以上も前、『ホワイト』という世界的にも人気の作品でした。素晴らしかった記憶が今でも色あせずに残っています。KAATでは2019年の上演以来、5年ぶりですね。

『ペック』は2023年に京都で共同制作されて、完成後の国内公演は4か所いずれも好評でした。アンディさんはスタッフ数名とトランク2個でKAATにやってくるそうです(笑)。皆さんご期待ください。

― トランク2個とは! 真の芸術に触れる、貴重な機会になりそうですね。

長塚 大人はぜひ、子どもたち越しに作品や舞台を楽しんでみてください。
子どもがどんなことに興味を持ち、何を感じ取るのかを目にすることができるって幸せなことですから。子どもが途中で飽きてしまっても大丈夫、必ず何かが残りますよ。

KAATキッズ・プログラム2024『ペック』from スコットランドトレーラー映像

【KAATキッズ・プログラム2024】
詳細:こちら

9月から、メインシーズンに突入

― 9月から始まる2024年度メインシーズンタイトルは、「某(なにがし)」。さまざまな解釈ができる言葉ですね。

長塚 毎年なるべく広めなシーズンテーマを立てていて、今年度は「某」。
インターネットやSNSなどには、顔が見えない匿名性のある言葉があふれています。誰の言葉か分からないけれど確かにある、いつの間にか自分の発言のようになっていることもある。私であり、あなたでもある「某」のレンズを通すと何が見えてくるのか……。

KAATでは幅広く、多彩なパフォーマンスを用意しています。きっと感じ入る作品があると思うので、まずは神奈川県の劇場、KAATに遊びに来てほしいですね。

― 先日、長塚さんのKAAT芸術監督再任が発表されました。2031年3月31日までの6年間で目指すものは。

長塚 一期目は突っ走ると決めていましたが、二期目を受けたことで任期が5年延びました。劇場に必要とされるもの、これから先も残っていってほしいと思ってもらえるものを見つけたい。未来につないでいきたくなるようなアイデアを、次の芸術監督に渡せるように考えていきたいと思っています。

KAATは交通の便もいい場所に建ち、優れたスタッフが集う、演劇界では知られた劇場です。でも知らない人からすれば、まだまだ謎が多い箱。ようやく街や県民とつながる扉が開き始めたので、魅力ある働きかけを続けて開け放ちたいです。

近隣の文化施設とのつながりや国際交流など、話題と企画は深まるばかり。社会にひらかれた劇場を目指すKAATのこれからに注目です。

文/志村麻衣(編集ライター)

KAAT 神奈川芸術劇場
住所:神奈川県横浜市中区山下町281
電話番号:045-633-6500
公式HP:こちら

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