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演劇・ダンス
街とつながる群読音楽劇「銀河鉄道の夜」
2018.07.18

芝居が生まれる現場
File.2 群読音楽劇「銀河鉄道の夜2018」
(今井浩一/編集ライター)

 

「演劇」という言葉でイメージする大学と言えば、早稲田大学や日大芸術学部でしょうか。
相模原市淵野辺にある桜美林大学には芸術文化学群があって、最近は同大出身の俳優さん、ダンサーさんが結構活躍しているのは、まだ一般に知られていないかもしれません。けれど大学が所有するプルヌスホールでは、全国的にも先進的な活動をしています。
まずホールの管理・運営は学生が中心になって行われており、学生の実習と発表の場だけでなく、“地域に開かれた劇場”としてさまざまな企画が行われているのです。

そのミッションを体現するために市民参加企画として生まれ、劇場の顔のごとく夏恒例の公演になったのが、群読音楽劇『銀河鉄道の夜』。市民と学生とプロのアーティストで創り上げるこの舞台は、今年で 12 年目を迎えます。
なんとこれまでに8,521名ものお客さんが目撃しているそうです。

プルヌスホールのある淵野辺では、JAXAがあることから「銀河をかける街」として、道路にも星座に関する名前を付けたり、夏には「銀河祭り」を開催したりと、宇宙を連想させる街づくりが行われています。その意味では、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』はぴったりの題材でしょう。
しかも賢治独特の息づかいが込められた文体からは、何かを伝えたいという想いに満ちているとの理由もあります。主人公ジョバンニの孤独をテーマに、生と死が幻想的に描かれた物語からは、悲しみや喜び、憧れといった“人間の声”が聞こえてきます。この“声”を表現するのが、去る5月のオーディションで選ばれた、さまざまな世代の市民キャストであり、学生です。

舞台は円形で中央には本水を使った池があり、その中に島のようなアクティングエリアがあります。池の周囲にはイスが置かれ、キャストは台本を持っているとは言え、周囲を駆けめぐり、踊り、水の中に飛び込んだりもします。さらに生演奏の音楽や歌、ボディ・パーカッションなど 、音のコラボレーションも。躍動する身体と賢治の強い思いが込められた言葉の数々が融合した舞台は、とても深淵な世界に生まれ変わります。

稽古は夏休みのたった1週間ですが、本番と同じ空間、同じ舞台美術で昼から夜までたっぷりと占有できる ので、とても贅沢な環境です。

この企画の目的は、主催者・アーティスト・参加者が良質な舞台芸術を提供することにあり、世代・性別・職種など一切関係なく互いの価値観を提示し合うことで芸術への関心を高め、地域と共に芸術活動を普及させていくこともミッションとしています。

「終わった後に、参加した市民から手紙をいただいて、さまざまな世代の人が無我夢中になってひとつの舞台に向かうその姿勢こそ、『農民芸術概論』にあるような、宮沢賢治の目指した理想的なコミュニティのあり方ではないかと書いてあったことに胸を打たれました」

「70歳の時に参加した方(女性)が、10年後の80歳でも記念にとオーディションを受けられ、見事合格。しかも、衰えるどころか、存在自体に輝きを増しているように感じられたこと。私たちにとっても続けることの大切さを学ばせていただいた気がしました」

これは演出を担当する能祖將夫教授が、これまで市民の皆さんと出会った中で印象に残った言葉であり、思い出だそうです。

歴史を積み重ねていく中で、2011 年度は東日本大震災の後だったこともあり“宮沢賢治の祈り”をテーマに据えて作品を創作。NHK 番組で“震災を乗り越える舞台”として紹介されたこともありました。
2014年度には賢治の故郷である岩手県は西和賀町へと出向き、現地町民から出演者を募集して西和賀バージョンとして作品を創り替え。2015 年度にはめぐろパーシモンホール共催で、「淵野辺」と「目黒」の2劇場で公演を行いました。さらに2016 年度には台湾国臺南市での公演を実施し、本年10月には大学間交流の一環として北京の中国戯曲学院での公演を予定しています。

こんなふうに市民と共に育っている作品は、そう多くはないでしょう。その原動力は、市民参加だからと「楽しい」だけで終わらず、あえて有料にし、クオリティの高い作品を目指してきたことにあると思います。
劇場の顔から街の顔になりつつある群読音楽劇『銀河鉄道の夜』。それが本当に実現するには、どこまで街とつながることができるか、がカギになりそうです。

 

*写真提供:桜美林大学プルヌスホール
*舞台写真はすべて2017年の公演より

《OPAL×桜美林大学プルヌスホール・プロデュース/市民参加企画
 群読音楽劇「銀河鉄道の夜 2018」》

■日時:2018年8月23日(木)〜26日(日)
■会場:桜美林大学プルヌスホール
■原作:宮沢賢治
■脚本・演出:能祖將夫(桜美林大学芸術文化学群演劇専修教授)
■音楽:小早川朗子(桜美林大学芸術文化学群音楽専修准教授)
■振付:神田初音ファレル(桜美林大学芸術文化学群卒業生)
■出演:オーディションによって選抜された市民・学生 23 名、神田初音ファレル(ダンス)、小早川朗子(ピアノ)
■チケット料金:一般1,200 円/学生 1,000 円 ※当日300円増し
■発売日:7月16 日(月)
■開演時間:23・24日19:00、25日14:00/19:00、26日14:00
■問合せ:桜美林大学プルヌスホール Tel.042-704-7133(10:00〜18:00)