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美術・写真アート

映し出されるのはその人の心と歴史

映し出されるのはその人の心と歴史

Kanagawaギャラリーさんぽ
File.11 UMI 招山由比ガ浜
山本詩野(ギャルリーワッツ)

今回は、ずーっと「行ってみたい!」と思いながら何年も経ってしまったギャラリーに、皆さまをご案内しましょう。
「Gallery招山」という鎌倉にあるギャラリーです。Gallery招山にはYAMAとUMIがありますが、今回は「UMI 招山由比ガ浜」へ。その名の通り、鎌倉駅を降りたら海方向へ向かいます。しばらく歩きますが、お天気の良い日は街並みが気持ちいいですよ!

・・・と言いながら、訪れた日は雨だったので、びゅーんとタクシーに乗ってしまいました。
ちょっと小道に入ったところなので、地元のタクシーの運転手さんが「こんなところにギャラリーがあったんだ」と驚いていましたが、ここは、洋画家である朝井閑右衛門(1901〜1983)のアトリエの一角。管理人さんのためのお部屋だったそうです。

緑が生い茂る中庭は、しとしと降る雨が似合っていました。中庭の向こうに見える建物が、朝井閑右衛門のアトリエ。画材として集めたものをはじめ、家屋の中は当時のままにしていて、時々一般公開しているそうです。
朝井閑右衛門の作品は、神奈川県立近代美術館にも所蔵されています。厚めに塗った油絵具で描かれた薔薇や、サーカスを彷彿する風景など、目にしたことがある人も少なくないことでしょう。

*作品展示中の刺しゅう作家・臼谷瞳さん(右)とは、手仕事の話が尽きない。

「Gallery招山では、衣食住にまつわる古い道具や現代作家の作品を紹介しています」と話すオーナーの渡邊恭代さん(写真左)は、独特の雰囲気が漂う素敵な方。美大のデザイン畑出身で、ものが生まれる背景に興味があるそう。
布が大好きで、特にウズベキスタン、トルクメニスタンなど中央アジアの布には相当のめり込んだらしく、コレクションは見事です。
「布には、その土地ならではの素材感や民族ならではの柄・刺しゅうなどの技法が表れていて、奥深いことが面白いと感じています」
だからでしょうか。ここでは布作家の展覧会が多くなっているようです。訪れた時期にはちょうど、臼谷瞳さんの「詩繡展」を開催中でした。

臼谷瞳さんの刺繡モチーフのメインは文字です。
「ヘブライ語の聖書を見たとき、美しい模様にしか見えなくて、それを縫ってみたい!と思ったんです」
もともと読書が好きで、自身で作詞もするという瞳さん。パンクの女王と呼ばれ、詩人として言葉をつづったパティ・スミスや、ビート・ジェネレーションを代表する小説家ジャック・ケルアックの詞を刺繡するときは、より高揚するそうです。

「落ち込んだとき、詩を読むと言葉が寄り添ってくれているみたいで、助けられるんです。だから、ひと針ひと針詞をつづることで、心のどこかに在るかたちを表しているのかもしれません」
きちんとした文字というより、瞳さんを通して記号のように、あるいはちょっとアトランダムに連なることで、リズム感と心地よい印象を受けました。

白だけの刺繡も魅力的です。特に、麻布に絹糸で大木の根を刺繡した作品は、まるでビーズでつづったようにも見えて美しさを増していました。

いすの上には、まだ制作途中の作品。傍らにはフェルトで作ったネズミの針刺し。「このネズミはずーっとずっと私の相棒なんです」

「自分に合うものは何だろう?自分らしく生きることは何だろう?」
ガラス工芸、織り、染めなどさまざまな手仕事を試したけれど、どれも長く続かなかったという瞳さんですが、小学生のころからチクチク刺していた刺繡が一番長く続いていたので、「ああこれだったんだな、私には」と、気付いたそうです。

ハギレにチクチク刺した小さなアートたちも、それぞれに存在感がありました。
実は、中学生のころから、染色家の母に連れられてGallery招山に遊びに来ていたという瞳さん。
渡邊さんは瞳さんに「とにかく作りたいものを作って」と言っていたそうです。

「かたちにするほうが売れるかもしれない。でも余計なことを考えず、とにかく思うままにチクチク続ける。そうすることでその人らしさが出てくるのよ」

雪の女王にも見えた瞳さんの刺しゅうを、今年のクリスマスディスプレイに加えました。

EVAM EVA
刺しゅうされたサンスクリット語は「あるがままに」に繫がる言葉だそう。

奇しくも来年の自分のテーマかな。

(2019.12 取材)

《ギャラリー情報》
UMI 招山由比ガ浜
鎌倉市由比ガ浜4-3-14
TEL: 0467-55-5999
開廊時間:11:00〜17:00 月・火曜日休み (不定休あり)
https://www.shouzan.org/

《アクセス》
▶︎JR鎌倉駅から徒歩約15分

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