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美術・写真

東京スカイツリー®のかたちはここから生まれた!「そりのあるかたち」一挙公開

東京スカイツリー®のかたちはここから生まれた!「そりのあるかたち」一挙公開

(TOP画像)そりのあるかたち-1(1978年)東京都現代美術館蔵©Sumikawa Kiichi

行って、みて、感じるアートの世界
File.25 横浜美術館「澄川喜一 そりとむくり」
井上みゆき(マグカル編集部)

抽象彫刻が好きだ。
絵画は「わからない」と思ってしまうのだが、立体だと何となく心が自由になれる。360度どこでも好きなアングルから鑑賞できて、シンプルに「かっこいい!」と思えるからかもしれない…あくまでも個人的な見解だけど。
というわけで、横浜美術館の「澄川喜一 そりとむくり」は、開幕を告げるポスターをみたときから興味津々。内覧会に呼んでいただけたので、いそいそと出かけた。

プロローグに展示されているのは、澄川氏の創作の原点になったという錦帯橋の模型。言うまでもなく、山口県岩国市の錦川に架かる木造のアーチ橋だ。
島根県に生まれた澄川氏は、山口県岩国工業学校機械科に進学し、錦帯橋に出会う。名橋の造形美に魅せられてスケッチを重ねたのは澄川氏だけではないと思うが、氏が“ただ者ではない”のは、1950年の台風で流出した際、木と石の塊となった橋を目にして「現代美術のインスタレーションとしてみても、とびっきり迫力に富んだ造形物」と感じたことだろう。
アーティストの感性、恐るべし。


*左:Kさん(1960年) 右:S君(1959年)作家蔵©Sumikawa Kiichi

東京藝術大学彫刻科に進んだ澄川氏は、塑造による具象表現を学ぶ。
当時の作品を観ると、とことん「具象」だ。さらに澄川氏は、人類学者の依頼で骨から古代人の顔を復元したり、科学警察研究所で被害者の人骨から生前の顔を復元する仕事にも携わったというから、具象を超えた「スーパーリアル」な世界…と感じたのだが・・・。


*左:MASK(1967年)山口県立美術館蔵 右:MASK VI(1967年)神奈川県立近代美術館蔵©Sumikawa Kiichi

1961年に藝大の副手を辞した頃から、作品は大転換!
「アフリカの仮面や郷里に伝わる石見神楽の面に触発された」とはいうけれど、同じ人の作品とは思えない。“MASK”なのだから“顔”と共通点があるだろうに、なぜこうなった?
と思いつつ、心の中で「キタ〜!!」と叫んでしまいそうなくらい、力強くて、自由で、素敵だ。

1967年、藝大彫刻科に講師として戻ったのと時を同じくして、石や金属などの素材と向き合いはじめ、以降、多彩な素材を使った作品が生まれてくる。素人目には“なんでもあり”と思えるほど多様なので、いくら観ていても飽きることがない。
そして石やステンレスとの出会いは、屋外を含む公共空間における展開へと広がっていく。

そう、澄川氏は今世紀最大の公共建造物「東京スカイツリー®」のデザイン監修者なのだ。
それだけではない。大岡川に架かる「一本橋」「道慶橋」、鶴見川に架かる「鴨池橋」などなど、いろんな場所で日常的にお世話になっていたらしい。
当然のことながら実物は展示されていないが、神奈川県にゆかりの深いアーティストであることに気づき、紹介パネルに見入ってしまう。


*そりのあるかたち(1992年)島根県立美術館©Sumikawa Kiichi

第4章のテーマは、いよいよ「匠 そりとむくり」。
天然木は、時間の経過とともに反ったり、ねじれたりするけれど、その性質に抗わず、むしろ変化を作品の中に取り込んでいくのだという。澄川氏が創り出すフォルムには、安定感というより、自然な流れや“なすがまま”のドキドキ感がある気がする。自然のリズムで揺らいでいるような気もして、目が離せなくなってしまう。

日本は樹木の種類がとても多く、だからこそ古くから寺院の木造建築のような伝統技術が培われてきたのだという。
「人間と同じように木にも素性があり、触れていると木が喋ってくれる。その声を聴き、木肌の美しさ、自然の色など素材の本質をいかした“そりのあるかたち”を削り出したい」と、澄川氏は語る。

会場には木の素材も展示されている。作品に触れることは御法度だが、この木材は触っていいそうなので、ぜひその質感を確かめてみて。

澄川氏が40余年にわたって追求し続けてきた「そりのあるかたち」。展示室に林立する風景は壮観だ。
そして奥の壁の向こう側、最後の展示室には、2019年に発表された澄川氏の最新作が展示されている。
凛とした緊張感と自然なのびやかさ。
ぜひ実際の作品と対峙して体感してほしいので、画像の掲載は控えておく。

最後は、Café小倉山恒例の限定メニューのご紹介。
今回は、華やかな“おいり”と抹茶かりんとう、金箔をのせたきな粉味のラテ「そりとむくりのきな粉ラテ(450円/税別)」が登場。展覧会のシックなイメージとはちょっと違うキュートなラテを、ぜひ味わってみて。

★こちらのイベントは終了いたしました。
《澄川喜一 そりとむくり》
[日時]2月15日(土)〜5月24日(日)10:00〜18:00(入館は17:30まで)
※5月の金・土曜は20:00まで(入館は19:30まで)
[会場]横浜美術館
[休館日]木曜日
[料金]一般¥1,500、大学・高校生¥900、中学生¥600、小学生以下無料
*2020年3月28日(土)は観覧無料!

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