【アートの魔法08】宮川香山 眞葛ミュージアム 横浜から海を渡った陶磁器たち
独創的な超絶技巧で知られる「眞葛焼(まくずやき)」。
初代 香山こと宮川香山(みやがわ・こうざん)が横浜で大きく発展させた陶磁器は、1876(明治9)年のフィラデルフィア万国博覧会への出品で世界に知られる存在に。その後も国内外の万国博覧会で数々の受賞を果たし、海外で人気を博していきます。今回はJR横浜駅から徒歩10分の「宮川香山 眞葛ミュージアム」で、貴重な作品を鑑賞しました。
“幻の陶磁器”と呼ばれて

初代 香山は1842(天保13)年に京都・真葛ヶ原(現在の円山公園近く)で代々焼き物を生業にしていた陶家の四男として生まれました。父は江戸時代後期に京都で活躍した名工・宮川長造。九代茶碗屋長兵衛や楽長造と名乗り、知恩院華頂宮から「香山」、安井宮から「真葛」号を賜った人物です。
――なぜ京都から横浜へ? 初代 香山を名乗るに至った経緯とは。
幼い頃から骨董好きで、鑑定も自然と身に付けて日本や中国の陶芸にも詳しかったといいます。12歳ぐらいからは絵も学び、陶工に必要な芸も養われていく恵まれた環境で育ちましたが、1860(万延元)年、19歳の時に父と兄を相次いで亡くし陶工の家を継ぐことになりました。
その後、香山が京都を離れて横浜へ移り住む契機となったのは、1870(明治3)年、29歳の時に薩摩藩士・小松帯刀から苗代川焼(なえしろがわやき)の改良のために薩摩へ招かれたことでした。 結果的には小松氏が亡くなり実現はしませんでしたが、同じ年に薩摩藩御用達の梅田半之助の勧めで輸出向けの陶磁器を製造するために横浜へと移り住みます。
しかし、伝統ある京都とは異なり、当時の横浜には陶磁器作りの基盤がありませんでした。香山は1871(明治4)年、横浜太田村字富士山下(現在の横浜市南区庚台)に眞葛窯(まくずがま)を開窯したものの、まずは原料となる陶土探しに奔走します。約2年の歳月を費やしてようやく伊豆天城の梨本や秦野で理想の土を見つけ出し、本格的な作陶体制を整えていきました。
――その後、フィラデルフィア万博への出品で注目される存在に。
特に世界を驚かせたのが、動植物を精緻な細工で表現する「高浮彫(たかうきぼり)」という技法です。迫力ある造形と繊細な色彩は以降30年以上もの間、国内外で高く評価されました。
外国人の求めるもの、時代に合った作風を読みながら、上質な作品を残した初代 香山は1916年(大正5)年に亡くなりました(享年75)。宮川 香山の眞葛焼は二代、三代と引き継がれていきますが、太平洋戦争末期の横浜大空襲で大きな被害を受けたことがきっかけで窯はやむなく閉鎖。眞葛焼は、”幻の焼き物”と言われています。
ミュージアムで歩みを知る

宮川香山 眞葛ミュージアムでは、世界に愛されたMAKUZU WAREこと眞葛焼の選りすぐりを見ることができます。フランスやイギリス、アメリカなどから里帰りした名品がずらりと並ぶ様子は圧巻です。 今回は、同館のスタッフの方に展示の見どころについて話をうかがいました。
——初代 香山を中心に創作の歴史をたどる展示が印象的でした。
初代 香山は「高浮彫」という技巧に出合うまでにも、多くの作品を残しています。太田開窯当初は、薩摩や京都ゆかりの一般的な金彩を用いた手法の陶磁器も手がけています。年代ごとに異なる作風の変遷が分かる展示を目指しました。

——今も残る、窯場跡出土破片も興味深かったです。
現在の横浜市南区で、かつて1,000坪を誇った眞葛窯。今はレンガ塀などがあるだけですが、工事で地面を掘り起こすと多くの破片が出土するんです。香山は作品の仕上がりに満足できないとその場で壊したそうなので、砂利のように残った陶磁器の破片は創作への情熱の証かもしれません。

――格子越しの和室展示室もユニークですね。
尾形乾山の写しや香山が描いた掛け軸などを、畳敷きの小上りに座ってゆっくり鑑賞できます。歴史的資料や二次元コードによる解説翻訳も併せてご利用ください。
圧倒的な作品群に酔う

最後の展示室では、歴代三代の作品を見ることができます。
ぐるりと作品の周りを歩いてみたり、鏡に映して背面を眺めたり、国内外からの新収蔵作品を余すところなく楽しみたいところ。
また、館内では初代 香山が亡くなる直前に手がけた遺作「琅玕釉蟹付花瓶(ろうかんゆうかにつきかびん)」の展示も。翡翠色をした琅玕釉で包まれた花瓶をはって歩くカニ。光と影で印象が変わる、見事な一品でした。
文/志村麻衣(編集ライター)

宮川香山 眞葛ミュージアム
住所:横浜市神奈川区栄町6-1 ヨコハマポートサイド ロア参番館1F-2
電話番号:045-534-6853
開館日:土曜日、日曜日(但し年末年始など休館あり)
開館時間:10:00〜16:00
入館料:大人1,000円、中・高校生700円、小学生以下無料
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