歩いて、みて、きいて、味わって。小田原の歴史と魅力を五感で堪能!
行って、みて、感じるアートの世界
File.27 小田原市 街かど博物館
井上みゆき(マグカル編集部)
城下町として発展し、江戸時代以降は交通の要所として様々なヒト・モノ・文化が行き交ってきた小田原。何気なく歩いているといきなり文化財のような建物が現れ、しかもごく普通に“営業中”だったりするなど、スゴイことがそこら中に溢れている町だ。
そんなガラスケースに収まり切らない歴史的資産をみて歩き、体感できるのが「街かど博物館」。小田原市が発行するガイドブックを手に、のんびり歩いてみた。
まずは小田原駅東口から徒歩3分のちん里う本店「小田原駅前梅干博物館」へ。
明治4年(1871年)、小田原市内に開業した料亭「枕流亭(ちんりゅうてい)」を起源とし、その後、小田原駅の開業に合わせて駅前に店舗を移設し「ちん里う(ちんりう)本店」と改名した、梅干の専門店だ。
店の奥には、明治初期に使われていた漬け物樽や1900年代のレジスターなどが鎮座。それだけで歴史の重みを感じる。
圧巻は、ずらりと並んだ梅干コレクション。最も古いものは天保5年(1834年)というから驚く。自分が生まれた年の「バースイヤー梅干」を探してみたい。
プチイベントとして「梅干クイズ」が用意されているので、挑戦してみた。
梅干の作り方や年数による味の変化を、匂いをかいだり、味見をしたりして当てるのだが、これが意外と難しい。クイズ参加者から毎月1名にプレゼントが当たるそうなので、ぜひ挑戦してみて。
ちん里う本店《小田原駅前梅干博物館》
[住所]小田原市栄町1-2-1
[TEL]0120-30-4951
[開館時間]9:00〜18:00
[定休日]1月1日
*公式ホームページはこちら!
続いては江嶋「倭紙茶舗(わがみちゃほ)」。
初代が小田原で商いを始めたのは寛文元年(1661年)。当初は海辺で製塩業を営んでいたそうだ。時代の求めに応じて和紙を扱うようになり、紙の行商で出向いた駿河や遠江から特産品のお茶を持ち帰ったことがきっかけで、お茶が主力商品になっていったとか。
現在の建物は、関東大震災で消失した店舗を15代江嶋平八が再建したもの。ひさしの部分が張り出した「出桁(だしげた)造り」は、小田原の商家の伝統だそう。
店の内装は耐震のためにリフォームされているが、博物館エリアは見応え十分。震災からの復興と建物完成を記念して作った鹿皮の法被をはじめ、茶人としても有名な益田鈍翁愛用の茶釜などが展示されている。
メイン商材はお茶だが、和工のコーナーには全国各地から取り揃えた和紙が並んでおり、見ているだけでも楽しい。
江嶋《倭紙茶舗》
[住所]小田原市栄町2-13-7
[TEL]0465-22-1611
[開館時間]9:30〜18:30
[定休日]水曜日
お昼どきには、だるま料理店「のれんと味の博物館」へ。
創業は明治26年(1893年)。当時の店舗は関東大震災で倒壊したが、その後、ブリの大漁で得た潤沢な資金をつぎ込んで再建したそうだ。唐破風入母屋造りの建物は、国登録有形文化財に指定されている。
1階の食堂は予約なしで気軽に利用できるので、食事がてら“鑑賞”してみる。地元の材木屋から仕入れた良質な国産ヒノキ、松、ケヤキを惜しげもなく使い、一流の職方によって手作業で作り上げられた建物は、壁から天井まですべてが美術品のようだ。
だるま料理店の名物というと「鯵すし」を挙げる人が多いが、創業から続く「天丼」もおすすめ。門外不出の天つゆは、注ぎ足して味を守ってきたという、老舗らしい逸品だ。
「街かど博物館」として公開されている1室は、お店の方に声をかけて案内していただこう。食堂の風情とは一味違うハイカラな雰囲気で、現在も応接室として打ち合わせ等に使用されているそうだ。
伝説のブリの水揚げ風景の写真をはじめ、作家・川崎長太郎氏が使用していた火鉢なども展示されている。
だるま料理店《のれんと味の博物館》
[住所]小田原市本町2-1-30
[TEL]0465-22-4128
[開館時間]11:00〜20:00
[定休日]1月1日〜3日
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室町時代に興った小田原漆器を体感できるのが石川漆器「漆・うつわギャラリー」。
江戸時代より小田原藩おかかえの槍塗師を努めていた石川家は、明治20年(1887年)に創業した工房だ。国産の材用にこだわり、木工から塗りまで一貫して手がけている。
店内には、大久保藩の槍塗師だった名残の槍や道具類も展示されている。
店舗の外観はビルに生まれ変わったが、店内には長い歴史が息づいているようだ。
漆器は自然のものだけに、使えば傷んでしまうことがある。その点、小田原漆器は何度でも塗り直しができるので、大切な器のメンテナンスは店頭で相談してみて。
石川漆器《漆・うつわギャラリー》
[住所]小田原市栄町1-19-16-102
[TEL]0465-22-5414
[開館時間]10:00〜18:00
[定休日]水曜日
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器つながりで松崎屋陶器店「陶彩ぎゃらりぃ」ものぞいてみたい。
外観はごく普通の陶器店に見えるが、明治20年(1887年)の老舗なだけに、歴代店主が収集してきた“商品在庫”がハンパではないのだ。
2階に上がると日本各地の陶磁器やガラス器がずらり。商談用のサンプルに混じって並んでいるのが、先代・先々代が仕入れ、売らずに手元に残した“商品”たち。中には今では入手困難な銘品も少なくないので、とにかく目の保養になる。
こちらは「九谷毛筆細字技法」の蓋付湯呑。現在では再現困難といわれる高度な技術を駆使し、内側にびっしりと文字が書き込まれている。
ちなみに、あくまで“商品”なので、ほとんどは希望すれば購入できるそうだ。ただしお値段は…ゼロがずらりとならんでいるので、パッと見てもいくらなのかわからなかった…。
国立近代美術館にも所蔵される各務鑛三のガラス器。
TVの鑑定番組で再生産されたレプリカを見たことがあるが、それでもいいお値段だったと記憶している。これはそのオリジナル。プロの情報網と仕入れルートを活用して、コレクションとして購入したものに違いない。小田原の商人、恐るべし!
松崎屋陶器店《陶彩ぎゃらりぃ》
[住所]小田原市浜町3-1-44
[TEL]0465-24-2479
[開館時間]10:00〜18:30 *店舗営業は19:00まで
[定休日]日曜日
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最後は柏木美術鋳物研究所「砂張(さはり)ギャラリー鳴物館」。室町時代からの伝統を受け継ぐ鋳物製品の工房だ。
江戸時代、小田原は関東近辺では最も大きな鋳物の拠点であり、100人規模の職人が暮らしていたという。鍋釜などの需要が減少するのに伴い、鋳物職人の数は減少の一途をたどったが、ここは“鳴物”に特化することで新たな価値を生み出している。
博物館名にある「砂張」とは青銅(ブロンズ)の一種で、古来より音響具の材料として用いられてきた銅と錫の合金だ。柏木美術鋳物研究所では、その配合とカタチを工夫することで、より美しく長く響きの余韻が楽しめる鳴物を製造・販売している。
たとえば仏具のひとつ「おりん」。これまで仏壇にはあまり縁のない生活を送ってきたが、こんなに美しい響きに包まれるのなら、毎日ご先祖様に手を合わせるのもいいな、という気持ちになった。
小田原の街かどには、旧町名とその由来を記した石柱がそこここに立っている。往時の賑わいに思いを馳せながら、町の歴史をのんびり歩いてみたい。
小田原には、このほかにもたくさんの街かど博物館が公開されている。すべて各施設のボランティアにより運営されているので、見学する際はマナーを忘れずに。