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旧東海道藤沢宿をぶらり歩いて、いにしえの時間と現代アートに出会う

旧東海道藤沢宿をぶらり歩いて、いにしえの時間と現代アートに出会う

歴史的な建物や景観が残る旧東海道藤沢宿地区。現代アートを通じてその伝統や文化を未来へつなげてゆくことを目的とした《藤沢今昔まちなかアートめぐり》が、今年も開催されています。コロナ禍の影響で、予定していた海外のアーティスト招聘と交流は先送りとなってしまいましたが、これに代わって国内近隣のアーティスト7人が参加。藤沢宿の歴史文化遺産を舞台とした「まちなかアート」の活動は、滞ることなく続いてゆきます。
幸い、会場は屋外など開放的な空間が中心です。感染症対策をしっかりとりながら、ふらりと出かけてみませんか。

*《藤沢今昔まちなかアートめぐり2019》のレポートはこちら!

まず伺ったのは「関次商店 パンの蔵 風土・石蔵」。
1886年に建てられた国の登録有形文化財である穀物蔵をリノベーションした空間で、現在はパン屋さんとして営業中です。お店に入って、展示が行われている2階へ昇ってみました。

土壁がむき出しの空間に展示されているのは、2点の油彩作品と立体造形。作者の坪井美保さんは、藤沢で学生時代を過ごしたことから、今でも藤沢は「庭のよう」だと言います。

「駅前の風景などはずいぶん変わりましたが、海と空の色、緑の多さは変わらないな、と感じています」

布をまとったオブジェを細いバルサ材で囲んだ作品のタイトルは「巣」。何かに守られ、育ってゆくもの、のイメージだとか。

「学生時代は江ノ島あたりで遊ぶことが多かったので、旧街道のことはあまり意識していませんでした。大人になって改めて歩いてみると、こうした立派な蔵や古民家が残され、活用されているので、藤沢の魅力を再発見した気分です。ここで土壁に守られながら『巣』という作品を仕上げていると、とても幸せな気分になります。下の階から焼きたてのパンのいい香りが漂ってくるのもいいですね(笑)」


*「パンの蔵 風土」の展示は営業時間(月・火曜を除く8〜15時)のみ公開。

 

続いて訪れたのは「旧稲元屋呉服店」。江戸末期創業の豪商でしたが、1977年の火災や老朽化などにより、現在は蔵2棟を残すのみ。今回は、蔵と庭園、裏手にある明治天皇行幸碑で展示を行っています。

蔵の中で作品展示を行っているのは、油井瑞樹さん。ここを展示スペースに選んだのは、ご自身が福島県の蔵の町出身であることと、無関係ではなさそうです。

「歴史的建造物などを活用し、作品を展示するという“あり方”が好きなんです。今回は、この旧家と土地に流れる“時間”をテーマに作品を制作し、蔵と裏手の丘(明治天皇行幸碑)の2カ所で展示を行います」

蔵の中には、ここで暮らしてきた人々の道具が残されています。

「人の営みを感じて、その息づかいも含めて凝縮した作品にできたらいいな、と思っています」

この家と土地に流れる“時間”を捉えるために、油井さんは稲元家の五代目ご当主に協力を依頼しました。
水をすくうように手を組んでいただき、その内側の型を取って樹脂(松ヤニ)を流し込んだところ、ハート形のオブジェが完成。この形は、油井さんにとっても驚きだったそうです。

「樹脂は長い年月を経て凝縮されると琥珀になります。そんな意味を込めて、時間を表現する素材として選びました。これを2つ作って、蔵と裏手の丘に置く予定です。文字通りご当主の“手”を借りて、凝縮された時間を表現できたらいいな、と思っています」

旧稲元屋の庭には、原田暁さんの作品が展示されています。
作品のテーマは「今の古い家」。

家を解体した後の廃材などの素材に、電線などを絡めた造形は、新しい機器を取り入れるための配線がむき出しになった古民家、のイメージでしょうか。新しい建物と歴史的建造物が共存する藤沢を表現したものだそうです。

原田さんは、よこはま動物園ズーラシアと里山ガーデンの隣の森で「森Lab」の活動を20年以上行っている、いわば野外アートのスペシャリスト。藤沢本町で生まれ、現在もすぐ近くの寒川で暮らしていますが、これまではタイミングが合わず「まちなかアートめぐり」は初参加だそうです。

「藤沢の街はどんどん変わっていくのでびっくりしますね。それでも、大きなビルの間に隠れて昔ながらの景観が残っているので、ゆっくりお散歩しながらそれに気づいて欲しいと思っています」

藤沢今昔まちなかアート実行委員会代表である美術家・伊東直昭さんにお話を伺いました。

「今回で11回目を迎えますが、毎回本当にいろんなことがありますね(笑)。
各会場では消毒や換気、密を避けるなどの新型コロナウイルス感染症対策を取っているので、お出かけいただく際は発熱や咳など体調にご注意いただき、マスク着用や観客同士の距離にもご配慮ください。お手数をおかけしますが、まずは開催できたことを嬉しく思っています」

「予定していた海外のアーティストの来日はかないませんでしたが、経験豊かなレジデンス・アーティストは国内にもたくさんいます。今日の分断を煽るような風潮に対して、私たちアーティストがやるべきことがあるのではないか。そんな思いを丁寧に紡ぎながら、このささやかな活動を続けていきたいですね」

 

《藤沢今昔まちなかアートめぐり 2020》は、上記以外に「有田家」「藤沢市ふじさわ宿交流館」でも展示を行っています。地域の歴史に思いを馳せながら現代アートと出会う“ショートトリップ”を楽しんでみませんか。

《藤沢今昔まちなかアートめぐり 2019》
[展示公開日]1031日(土)、111日(日)、7日(土)、8日(日)、14日(土)、15日(日)、21日(土)、22日(日)、23日(月・祝)
[時間]11:0016:00
*関次商店パンの蔵風土は、会期中の月・火曜を除く8時〜15
[会場]関次商店(パンの蔵 風土)、旧稲元屋呉服店、有田家、藤沢市ふじさわ宿交流館
[参加作家]ASADA、伊東直昭、佐々木薫、坪井美保、原田暁、伏見雅之、油井瑞樹

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