コンテンツにスキップ

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の音楽主幹に学ぶクラシックの楽しみ方

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の音楽主幹に学ぶクラシックの楽しみ方

神奈川県を拠点とし、地域に愛されるプロオーケストラ、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(以下、神奈川フィル)で音楽主幹を務める榊原徹(さかきばらとおる)さんに、クラシック音楽の楽しみ方と、2024年から2025年の神奈川フィル演奏会ラインアップより、注目ポイントなどもお聞きしました。

何度聴いても色あせないクラシックで非日常の体験を

―クラシック音楽を聴き始めてまだ1年。年間ラインアップを見ても、曲名や指揮者、ソリストがなんとなく分かるレベルです。そんな入門者に、クラシック演奏会の選び方や楽しみ方を教えてください。

榊原 クラシックの演奏会では、非日常感を最後まで楽しんでいただけるように努めています。演奏中は観客である皆さんもスマートフォンの電源を切って、水も飲まない。現代ではなかなか難しいですよね。

―本当にそうですね!

榊原 クラシック音楽は、何度聴いても色あせないのが最大の魅力です。今も演奏されている曲は、クラシックの歴史の中で生き残ったベストヒット。
例えば今ここにあるチラシ『グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調Op.16』は、世界中で今日も100カ所ぐらいで演奏されていると思いますよ。例えばベートーヴェンやJ.S.バッハが生まれたドイツには、120以上の楽団があって、1万人の演奏家がいるといわれていますから。

―そんなに!オーケストラって意外と身近な存在なんですね。

榊原 演奏会で音楽を聴いてどんな感想を持つか、正解はありません。もっと気軽に足を運んでいただき、自由に楽しんでもらいたい。これから聴いてみたい方のために、演奏会の選び方や楽しみ方を考えてみました。

―楽しみです!

思い出の曲や気になる演奏家から選ぶ

神奈川フィルの設立は1970年

榊原 一番多いと思われるのが、子ども時代に聴いたことがある曲や自分の思い出がある曲など、記憶をたどって演奏会に来てくれる方です。
また、「一度はあの演奏家の演奏を、生で聴いてみたい」と、気になる演奏家を選んで来てくれる方もとても多いと思います。

―神奈川フィルが撮影に全面協力したテレビドラマ『リバーサルオーケストラ』を見て、神奈川フィルを聴いてみたくなったという人も多いと思います。

榊原 ありがとうございます。

ホールを知る興味から入る

榊原 思い出の曲や気になる演奏家から入る方が一番多いと思いますが、もう一つ提案があります。「ホールを知る興味から入る」ということです。音楽ホールを好きになると、より楽しめると思いますよ。

―「ホールを知る」とは、具体的にどんなふうに楽しめばいいのでしょうか?

榊原 神奈川フィルでは主に横浜みなとみらいホール、神奈川県民ホール、神奈川県立音楽堂と県内3つのホールで演奏しています。それぞれに素晴らしいホールなんですよ。

横浜みなとみらいホールの魅力

©平舘 平

榊原 横浜みなとみらいホールがグランドオープンしたのは1998年。みなとみらい地区が整備されたときに完成しました。開放的なホワイエ(ホール)が心地よく、そこから海を一望できるロケーションの音楽ホールはここだけだと思います。建物に一歩足を踏み入れた瞬間から明るく、アートな空間を感じられます。

大ホールの中に入ると中央にはパイプオルガンがあり、椅子や照明などの調度品、音響や内装すべてが最高の音楽のためにしつらえられたものです。ホールを好きになるというのも一つの視点でおすすめです。

神奈川県民ホールの魅力

榊原 神奈川県民ホール(以下、県民ホール)は山下居留地があった場所です。県民ホールのロビーや館内のレストラン「英一番館」からは、海が臨めます。

関東大震災(1923年9月1日)から約100年。目の前の山下公園は震災復興事業の一つでしたし、県民ホールの周りには歴史的な建物が多く存在します。演奏会前後に横浜の歴史散歩も良いでしょう。

県民ホールは2025年3月31日をもって休館します。ぜひ休館前に体感してほしいですね。

神奈川県立音楽堂の魅力

榊原 1954年に開館した神奈川県立音楽堂(以下、音楽堂)は、今年(2024年)で70周年を迎えました。内装の壁はすべて木が使われ、外観には特徴的なロの字型の空洞レンガを使った前川國男建築を堪能できます。

公立施設としては日本初の音楽専用ホールで、アコースティックな響きはここならでは。2019年に全館リニューアルを行い、良さは継承しつつとてもきれいになりました。神奈川県指定重要文化財(建造物)にも指定されています。

―それぞれのホールの特徴がよく分かりました。

榊原 神奈川県内には素晴らしいホールがたくさんあります。神奈川フィルでは3つのホールで定期公演を行っていますので、クラシックを聴くときのもう一つの楽しみとして、ホールにもぜひ注目してほしいですね。

ファッションや横浜の街で演奏会をさらに特別なものに

榊原 次にご提案するのは、演奏会と一緒にファッションや街を楽しむことです。お客様を見ていて気付くことは、神奈川フィルの応援マスコット「ブルーダル」のグッズや神奈川フィルのバッグを持っていたり、ファッションのポイントカラーにブルーダルカラーの青を入れていたりすることです。

ブルーダルハンカチは楽団員が身に着けるネクタイやスカーフと同じ柄

―遊園地やライブでグッズを身に着けるように、クラシックでも楽しんでいいのですね!

榊原 もちろんです。演奏会に向けて気分が高まるなら素晴らしいですよね。他に、演奏会前後に横浜を楽しむ方も多いです。

横浜みなとみらいホールなら、新しい横浜の観光を。県民ホールならマリンタワーに中華街、少し足を延ばして元町もいいですね。音楽堂なら紅葉坂を下ってすぐに、ディープな横浜を楽しめる野毛で一杯。

横浜の観光や食を楽しみながら、演奏会の感想を語り合うのも楽しいと思いますよ。

2024-2025コンサートスケジュールよりピックアップしてご紹介

神奈川フィルの定期会員には、2つの種類があります。

定期演奏会すべてを同じ席で聴ける「シリーズ会員」(申込期限は2024年3月31日)と、2024-2025コンサートスケジュールの中から3公演以上選んで会員特典が受けられる「セレクト会員」(申込期限は公演日の1週間程度前まで)です。

いずれも会費はかかりません。

神奈川フィルが丸ごとわかる冊子「2024-2025コンサートスケジュール」

―今からでも神奈川フィルの定期会員になれると聞きました。特徴的な演奏会について、いくつか教えていただけますか。

榊原 まず県民名曲シリーズから、2024年5月25日(土)に県民ホールで行われる「嗚呼、昭和のレトロ・クラシック!」です。神奈川フィルの音楽監督を務める沼尻竜典さんが是非やりたいと提案して、僕も大賛成した企画です。我々が子どもの頃はよく演奏されていたのに、今は演奏されることが少なくなった『マドンナの宝石』や『時の踊り』、ワルツ『金と銀』など、名曲揃いです。

2024年6月15日(土)に同じく県民ホールにて「踊れ!第九」。6人のダンサーが踊ります。第九の演奏は何も汚さず、オーケストラと合唱とダンスが融合します。2024年は『第九』が初演されてから200年の記念すべき年。ソリストを立てず、優れた合唱のメンバーの中から次々とソリストが現れます。初演時に斬新で聴衆が熱狂した第九を今、より斬新に演奏します。

音楽堂のテーマは「クラシックモダン」。古典的であり近現代的な音楽を幅広く演奏します。2024年5月18日(土)音楽堂にて「ベートーヴェンを巡る音楽の旅」。実はこの回も、第九世界初演200周年記念企画の一つです。『第九』のイメージをバラバラにして組み立てたラッヘンマン作曲「管弦楽のための『塵』」を演奏します。『塵』は、ドイツ人が大切にしてきた第九を異なるものに変えてしまったため、演奏ボイコットが起こったという曲です。第九のヒントとなる交響曲第3番『英雄』も演奏します。

―3つのホールそれぞれから1つずつ選んで定期会員になり、後から追加で演奏会チケットを購入するのもいいですね。ありがとうございました!

神奈川フィルハーモニー管弦楽団
公式サイト:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
年間ラインアップ:2024-2025シーズン コンサートスケジュール|神奈川フィルハーモニー管弦楽団

マガジン