黒岩神奈川県知事×白井監督×八木大使「かながわマグカルトーク!(前編)」
八木大使:知事になられて、神奈川県の魅力について感じられていることはどんなことですか?
黒岩知事:昔は、例えば東京で飲んだ後に、これから横浜に行こうかと。横浜ならではのある種の賑わいの文化が神奈川にはあった。何か異国情緒みたいなものがあって。神奈川は、そういうところが最近弱くなっているのじゃないかな。そういう場所にもう一度したいという気持ちが「マグカル」なんですね。マグネット・カルチャー、文化芸術の力によって引きつける。
八木大使:文化芸術という事は、「食」文化もそうですが、さらにブロードウエイのように、ミュージカルが見たいがために、そこにわざわざ行く。そんな引きつける力を演出したいのですね。白井さん、いかがですか?
白井監督:知事がおっしゃられたように、KAAT(神奈川芸術劇場)も同じなんだと感じました。KAATは、開館してから今年で7年目なんですね。この7年間の中であそこの場所がだんだんと皆さんに認知されてきて、それをもっともっと広げていきたい。中華街のそばにある劇場ですが、KAAT中心にエリアがずっと広がっていけばいいなという夢がある。
八木大使:芸術監督というのは、具体的にどんなお仕事をされるのでしょうか。
白井監督: KAATで、どういったプログラムを組んでいくのか、また、どういった志向性でこの芸術劇場を運営していくのかということの、芸術面での旗頭として、方向性を出させていただくというのが私の役割です。
八木大使: どういうお芝居がかかるのかということが、個性となる。劇場によって個性がありますよね。新橋演舞場なら紀伊国屋ホールならああいうお芝居とか、何かぱっと浮かぶような、そうした感じの個性をつくるということですね。
白井監督:東京ではなかなか見られない、触れることができない、そんな芸術的なもの、先鋭的なものを創り出していきたいと思っています。KAATに行かなければ見られない演目というものを出していきたい。
八木大使:今まで手掛けられた中で、今後こうしたものがKAATの方向になっていくのではというものはありますか。
白井監督:先日は「春のめざめ」という120年前の作品をやらせていただきましたし、20世紀の演劇の巨匠であるブレヒトの「マハゴニー市の興亡」という作品で、60メートルの奥行きの舞台をつくったりしました。
黒岩知事:僕は、白井さんの好きなようにやってほしいんです。マグネットというのは、「あそこにいけば必ず白井さんを中心に何か面白いことをやっているぞ」と、わざわざ見に来る。それがやはり、芸術監督の力だと思うのです。
白井監督:若手や中堅の劇団にも、KAATを中心に、ここでしかやらないような作品を作ってもらうように計画しています。
八木大使:黒岩さんが考える「マグネット・カルチャー」というのは、何かそこの中で色々なものをつけて神奈川らしくするというよりは、それぞれが勝手にやっているものが、化学反応起こすみたいな。
黒岩知事:そうですね。だからやはり人だと思うのです。ラサール石井さんも「ヘッズ・アップ!」というオリジナルのミュージカルをKAATで作ってくれたんです。
八木大使:見ました。楽しかった。
黒岩知事:神奈川県のKAATで生まれた作品。白井さんは白井さんカラー、ラサール石井さんはラサール石井さんカラーで。また、横内謙介さんという神奈川でずっとやっていた大演出家もいらっしゃるわけだから。いろいろな人たちが競い合うような、自分たちのカラーを出して、それがさまざまにキラキラしながら。神奈川に行けば何かおもしろいものがあるぞと、そんなものを目指しているんです。ちょうど2019年に神奈川でラグビーワールドカップの決勝戦がある。2020年には、東京オリンピックで、神奈川でもセーリング競技などをやる。そのとき、世界中からやってくるお客様に体験して頂く「文化プログラム」というのを国全体としてつくろうとしている。神奈川も、この機をとらえて、神奈川らしい文化プログラムを、数多く発信していく。そうした中で、神奈川としての具体の舞台軸というものをつくっていく。それから、いわゆる古典ですよね。伝統芸能というものもちょっとアレンジしてね。
八木大使:リ・古典。
黒岩知事:そう、リ・古典。古典をちょっと見やすく、現代風にアレンジしたもの。古典に触れながら、新しいものとして見ることができる。そうしたものを発掘しながら、うまく情報がわかるようになっていれば、みんなそこに行きますからね。そういう流れを全体としてつくっていきたいと。神奈川って何かおもしろいものがある、あそこに行けば何かわからないけれど、おもしろいものがあるぞと、そういうものを目指していきたい。
八木大使:KAATの中でも、2019年を視野に入れたようなプロジェクトを考えられているのでしょうか。
白井監督:ワールドカップの頃ですよね。今、19年のことは劇場をあげて検討しています。
黒岩知事:面白いのは、KAATには舞台だけではなく、美術と一体になったものがあるんですね。ある一つの部屋を使って、ある独特なアートというのですか、真っ赤な糸だけで部屋中にたらしてつくっている独特な空間の部屋がある。
白井監督:現代美術というのは、普段はホワイトボックスの展示場でやられるものを、劇場のブラックボックスの中にあえて入れ込んで、作品を劇場空間の中に入れてみようと。
八木大使:劇場を使った現代アート。
白井監督:塩田千春(シオタチハル)さんという現代美術家の作品を部屋全体に詰めていただいて、そこにダンサーの人たちに来てもらって、その美術の中で公演を行う。演奏家の方に演奏してもらって、現代美術と、ほかの芸術との融合ということも今トライしている。今年もひとつやりましたし、来年も違う形でやろうとしている。ネットでなんでも見られるような時代ではなかった時は、わざわざ劇場に来て皆がものを楽しむというものだったんですが、これほどいろいろとメディアが発達すると、手の中で、いろいろなものを見れてしまう時代になりました。にもかかわらず、わざわざ足を運んで、決められた時間に人が集まって見るというのは、演劇の一番の醍醐味だと思うんです。それだから味わえるもの、芸術作品に触れて、気持ちが高揚したりだとか、いつもと違った感情が沸き起こったりするということ直接その場所に行って感じるというのが、劇場の特質だと思うので、そのように感じられるものを色々な角度から作り出そうと努力しているところです。(後編に続く)