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演劇・ダンス

マグな人々 第2回「横内謙介氏」

マグな人々 第2回「横内謙介氏」

横内さんインタビュー

―横内さんは、高校時代演劇部の先輩に誘われて県立青少年センターで見た演劇公演がきっかけで演劇の道に進むようになったそうですね。何にそれほど心が動かされたのでしょうか?

 厚木高校1年生だったとき、僕は廃部寸前の演劇部に名義貸しで在籍していました。当時は演劇なんか興味はなかったけれど、部活の先輩がつかこうへい劇団の「熱海殺人事件」をここに見せに連れてきてくれたんです。それで、もう心をグッと鷲掴みにされてしまい、演劇の道にハマった訳ですが。つかこうへいの劇的なセリフ、日常を切り裂くような言葉の数々、凄まじいパワー、そしてあんなに怒鳴り散らす人を見たのは初めての体験でした。そのときはそれほどアングラではなかったし、とにかくつかさんの圧倒的な笑いがすごかった。ちょうど時代の流れもあって、高校生の僕は同級生たちが知らないであろう少し面白い新しい文化を触れた様な、ちょっとした優越感というのもあったのでしょうね。真似して作家になりたいとその時に思いました。

―横内さんは、厚木市文化会館の芸術監督であり、東京で劇団扉座の活動もなさっておられますが、マグカルに関わることになったきっかけを教えてください。

マグカルが始まるもっと前に、「Arts Fusion in KANAGAWA」という事業で、この県立青少年センターで3回くらい何か青少年向けに公演をやってほしいと頼まれたのがきっかけですね。この県立青少年センターって、僕のとても大事な場所なんです。ここは、もともと高校演劇のメッカで、回り舞台はあるしセリもあるし、全国でも珍しかったと思います。しかも高校生相手に一流のプロを呼んで「演劇講習会」という名のワークショップも開催していました。いまから30~40年前に、そんなことをしているところは他になかったと思います。もうお亡くなりになってしまいましたが当時の、田村忠雄館長が大変学校演劇を応援してくださいました。僕は高校時代ここで県の演劇大会にも出させてもらったし、夏の演劇講習会にも参加して、それから劇団を旗揚げしました。ここという場所がなければ今の僕はあり得なかったと思います。僕もここで何か恩返しじゃないですけど、もっと演劇を若い世代に見せていきたいと思っています。

―県立青少年センターがそれほど素晴らしく、演劇に特化した場所だとは知られていないのでは。

ここ自体が演劇ホールという専門性を失いかけ、公民館的な感じになってしまっていた時期がありました。昔は公演をすれば立ち見が出るほど盛り上がっていたのにパワーを失っていた時期があったんです。一時期毎年館長が変わってしまう時期があったし、ここがいかに素晴らしいか、大事か、劇場が良いかと毎年意見交換してもどこにも届いてないんだなあと、虚しい思いもしました。思いはあったのに、聞いてくれる人がいなかったんです。
そうこうしているうちに、黒岩県知事によるマグカルの話が出て知事に思いをぶつけると全部耳を傾けて聞いてくれました。マグカル・テーブルメンバーで集まった第1回目、バスに乗車し県内の劇場施設を全部回るツアーがあって、そのときにここがいかに色んなものを生み出してきたかを説明しました。こんなに演劇に肩入れする知事には一生に一度しか会わないだろうと思いましたし、せっかく演劇好きの知事に巡り合ったんですからこのタイミングで種を撒いて芽まで出させないといけないとすぐに動き出しました。
その頃、地元の劇団に愛されてきた小劇場の相鉄本多劇場が無くなってしまい、繋がるべきものが繋がったと思いましたね。ここは誰が見たって勿体ないって思える場所。もっと使えるのなら使いなさいと筋道をつけてもらえたと感じました。

―それで2014年10月に「マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミー」が開講されました。もうすぐ丸3年が経とうとしています。手応えはいかがですか。

本気でプロフェッショナルな集団がミュージカル俳優を育てていこうとしているものの、受講生の中には正直温度差が色々とあるなと感じています。ですが若者には伸びしろがありますし、今日と明日では全く違う成長が見られることもあります。これは県がやっている事業ですし、商売じゃなくて純粋な人材育成です。ここから育ってどこかで受講生が活躍してくれた方がみんなの刺激にもなりますし、そういう歌って踊って芝居するミュージカル俳優をしっかり育てていきたいですね。

―今後の課題を挙げるとしたら何でしょうか?

演劇を見る人をどう増やしていくかが課題だと感じています。今は、マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミーに出演している彼らを応援する身内を集めるのが精一杯な状態です。そうではなくて、演劇を見る体験をもっともっと増やしていかないといけない。僕は実際、厚木で小学生の子供たちに指導しているけれども、格差社会が進んでいると感じています。意識が高い家庭は毎月一流のミュージカルを子供に見せていますが、そんなお金出せない家庭もありますよ。そういうところを公共施設が埋めていかないといけないんじゃないかと思っています。僕がここで初めて見た演劇は、高校の演劇部員に限り500円でした。500円だったから高校の先輩が奢って見せてくれたんです。やっぱりこの格差を埋めるためには、こういう公共施設が担ったほうがいいんじゃないかなと思いますよね。

―これからどの様な事をやっていきたいと考えていらっしゃいますか?

来月開催予定のミュージカル「バイトショウ―国際編―」は、うちの劇団扉座で立ち上げたものをアレンジしたものです。元々のコンセプトはうちの劇団のものなので、全くの新作でミュージカル作品として上演できるものを作りたいと思います。ここで、本当に舞台やろうと思ったら1回1000人のお客さんが必要です。やるからには、1回きりじゃなくて最低でも3,4回はやりたい。そうなると観客は3000人くらいいなければ成立しません。集客するために、どこかから有名人を借りてきてしまったら台無しなので、この受講生の力でそれを実現させたい。僕は2、3年後には実現させようと思っています。
さらに言えば、実現しなければならないのは、受講生は確かに頑張っていて成長していますが技量の向上です。つまり主役がアマチュアではなく主役としてのレベルに達しているのかということ、普通に勝負ができる舞台をつくれるかということ、知り合いではないお客さんを呼べるのかということです。
 歌唱指導に深沢桂子さん、ダンス指導にラッキィ池田さん、彩木エリさんなど、僕らは普通にプロの舞台をあちこちでつくってきました。全くの新作をここのアカデミーのためだけにオーダーメードして発表していきたいです。それには、主役を張れるほどの人物を作り上げ、彼らが有名になってくれたらと思いますね。

―すでに新作ミュージカルの構想が出来上がっているのでしょうか?

構想というか、コンセプトね。若い人たちによる外国物語みたいなことを描いています。この周辺は奉行所であり、初めてビール作ったとか石鹸作ったとか、外国人が来た時、いさかいなども含めてかなり色んなことがあったと思われる場所。そういう横浜、港町をテーマにしたミュージカルをやりたいですね。そのときはスポンサーがつくなどして無料で若者に見せてあげられるようにしたいです。

「バイトショウ―国際編!―」とは

昨年夏、「Theater In Theater形式」と呼ばれる回り舞台の上に客席を仮設して観客ごと360度ぐるりと回転させる舞台としても話題となったミュージカルです。
今年は「ベトナムフェスタin神奈川」とのコラボで、実際に日本でバイトをしながら滞在しているベトナム人留学生も登場するため、単なる再演ではなく改訂版での上演となります。

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マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミー公演2017 バイトショウー国際篇!ー
様々な夢を追いかけて、バイトとレッスンに明け暮れる、若者たちの希望と挫折の闘いの日々を描くオムニバスミュージカル。

作・演出/横内謙介、音楽監督・作曲/深沢桂子、振付/ラッキィ池田、彩木エリ、演出補/鈴木里沙、台本協力/飯田こうこ

公演日
2017年9月15日 18:00、16日13:00、18:00、17日13:00、18:00、18日13:00
入場料〈全席自由・税込〉
一般前売3,000円 一般当日3,500円 大学生以下前売1,000円 大学生以下当日1,500円
会場:神奈川県立青少年センターホール

チケット取り扱い〈前売開始日 8月23日(水)〉
1.劇団扉座 03-3221-0530(平日12:00~18:00/土、日、祝休)
2.チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)
3.インターネット http://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/
公演に関するお問い合わせ 劇団扉座 03-3221-0530
マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミーに関するお問い合わせ 神奈川県文化課(マグカル推進グループ) 045-210-3806

来月開催する「バイトショウ―国際編!―」について出演者にお話を伺います。

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ズオン ティ マイさん (東京国際大学国際関係学部2年)

18歳で日本にやってきて、いま21歳です。大学で日本語を勉強しています。ライチの産地として有名なベトナム バクザン出身で、ベトナムと日本をつなぐ架け橋になりたいと考えています。日本で開催されるベトナム祭りでは、民族衣装を着てベトナムの踊りを披露しています。将来の夢は旅行ガイドです。アルバイトでレストランのウェイトレスをして学費を稼ぎながら勉強とレッスンを頑張っています。アカデミーは、ベトナム大使館からやってみないかと紹介されたのがきっかけで入りました。ダンスはちょっと難しく感じる時もありますが、歌や演技は大好きですし、アカデミーのみんなも優しいので良かったです。横内先生はいい先生ですし、ミュージカルを精一杯やり遂げます。

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左から柴田さん、津田さん、横田さん

柴田瑠歌さん(桐朋学園大学音楽学部声楽科1年)
アカデミーは4年目で、私は歌うことが大好きなのでやっていて本当に楽しいです。私の役は夢ばかり追っていても仕方がないじゃない、夢だけじゃ生活ができないのよ、と現実味があるタイプ。それで、津田さんが演じる役と衝突します。夢は大切だけど、日々生きていくにはお金が必要ですよね。自立して生活していくこと、夢を追うこと、そこに悩む若者像に共感してもらえるんじゃないかなと思います。

津田彩花さん(藤沢清流高校2年)
去年アカデミーに入りました。役はダンスのリーダーで、ダンスのことばかりを考えて夢ばかり追う自己中タイプ。それが、世の中にいる様々な人々に出会い、みんな頑張って生きているということを知って、人間が変わっていきます。人に揉まれて色んなことを吸収して、人間的に成長していく過程を感じ取って欲しいです。

横田詩織さん(東京音楽大学声楽科2年)
私はアカデミーに高校2年で入ったのでいま4年目です。私たちは3人グループの役で、私は柴田さんと津田さんが演ずる役同士が喧嘩するのを仲裁する役です。平和主義で、ちょっと空回りタイプと言えるかもしれません。歌はもちろんのこと、ダンスも大好きです。みんなで一つになって、最高のミュージカルを作り上げるのでぜひ皆さん見に来てください!

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