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アート伝統芸能

和やかに過ぎてゆく、夏の虫干し時間

和やかに過ぎてゆく、夏の虫干し時間

21世紀を生きる狂言師の檜舞台
Vol.9 夏の虫干し
大藏教義(能楽師狂言方大藏流)

夏休み 海水浴 川遊び 花火 盆踊り 虫干し
いずれも夏の風物詩だ。
「虫干し」と聞いてピンとこない人もいるかもしれないが、私たちにとって装束の虫干しは夏の恒例行事である。普段は装束庫に保管してある装束を出し、風にさらし干す事で、冬場に虫が寄ってこなくなる、つまり虫喰いを防ぐのだ。

我が家が所蔵している装束の数は分からないが、ワンシーズンにすべて虫干しするのは難しい。おおよそ手入れが必要な物を絞り込み、3~4日かけて集中的に取り組む。

大縞など表着の下に着込む「着付」のほか、箔(はく)、厚板(あついた)、唐織(からおり)など「表着(うわぎ)」として用いられる装束は正絹なので、衣文掛けなどに吊るし、風通しの良い所へ干しておく。干しながら状態をチェックして、必要に応じて修繕することも大切だ。軽いほつれ程度なら当て布をして自分たちで繕うが、あまりにもひどい場合は装束店に出して直してもらうこともある。

狂言袴、長裃(ながかみしも)、素袍(すおう)などの装束類は麻物であるため、昔ながらの手法で手入れをする。まず、水で薄めた洗濯糊を、刷毛を使って丹念に塗っていく。茣蓙の上にきちんと畳み、その上にさらに茣蓙を引き、大人が4、5人乗って足で踏みつける。こうすることで綺麗にプレスされ、袴に付いていた塵や埃がとれる。乾かせばパリッパリの袴に戻るだけでなく、糊のコーティング効果で汚れがつきにくくなるのだ。

装束や小道具は、私たちにとって商売道具のひとつであり、その扱い方は幼い頃から厳しく教わった。直接踏んだり跨ぐなどもっての外。畳み方ひとつとっても、折り目正しく畳めているかチェックされる。

こうした装束の管理は演者自身が行うことが基本だが、人手が足りないときは社中のお弟子さんに参加してもらう事もある。

水遊びをする子どもたちの歓声 風鈴の音色 風に揺れる簾 スイカやアイスの差し入れ

みんなで談笑しながら和やかに過ぎてゆく時間は、どこか懐かしさを感じる日本の原風景のようで、私が好きな夏の風物詩だ。

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