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伝統芸能
観て楽しみ、教えて深まる狂言の世界
2018.09.20

21世紀を生きる狂言師の檜舞台 Vol.3
観て楽しみ、教えて深まる狂言の世界

大藏教義(能楽師狂言方大蔵流)

 

狂言は一般の方でも習う事が出来るって、ご存知ですか?
私の父も祖父も、「稽古場」といういわゆる道場を主宰して狂言の普及に努めてきました。そこでは老若男女多くの方が狂言を習っていますし、僕も幼少期からその中に混じって稽古をしてきました。
*2才。初めて能舞台でお稽古。

「狂言は観るものではなくて習うものなの?」と聞かれたことがあります。「父も祖父も教えていましたから」と言えばそれまでですが「なぜ自分は教えてえているんだろう?」と我を振り返った時があります。
昔は織田信長や豊臣秀吉、徳川家康なども狂言を自ら演じていたし、各大名もこれに習っていました。大藏の家でも町役者に狂言を教え、勧進狂言などの催しにも出演していたので、「教える」ということが昔からあったことは間違いありません。
*4才。初舞台。祖父のお弟子さんと一緒に「業平餅」で共演。

狂言には180曲の所有曲(レパートリー)がありますが、それらを全て学び、忘れることなく次世代に伝えるには限界があるかもしれません。でも、人に教えることで記憶が蘇れば、学んだことを忘れずにいられます。また、何度も教えることでその演目を深く理解することができるし、型も磨かれていく。教える中で「あ! こういうことか!?」という発見も沢山ある。さらに稽古は音源を使わずに行う、つまりほぼ一日中声を出し続けるので、自分自身の芸の向上、発声練習にも繋がります。「教えることで、教えられている」と言えるでしょう。

私事ですが、結婚して住いを中野島(川崎市多摩区)に移しました。子どもが生まれた時期と重なったので、氏神様である中野島稲荷神社にお参りに行ったのですが、そこに神楽殿があったのです。
ここで狂言ができる。
そう思ってさっそく宮司さんにお電話したところ、快く提供してくださいました。

ちょうど東日本大震災が起こった頃。僕が自主企画していた「狂言LABO」に参加してくれるお客さまは地域に根付いた活動をしている方が多い。そんなキーワードが重なって「地域」というものを考え始めました。
「地域」という言葉には場所をさす意味もあるけれど、「地」に「いき」ることでもあると思います。いま自分が生活している場所を大切にすること、豊かにすること。そして環境を調えることで人の輪が広がり、住みやすい街になるのではないでしょうか。

さらに言えば、そこで育つ子どもたちに沢山の自然と文化を体験させてあげたい。文化に触れることで心が開放され、自己発見や他者発見、個性の芽生えと尊重が生まれる。中野島で狂言教室をはじめたのは、そんないろんなきっかけがあってのことです。
蓋を開けてみれば集客は容易ではなかったのですが、今では7人の生徒さんが楽しく狂言を学んでいます。
*第1回中野島稲荷神社奉納狂言の様子

そして今年も、10月6日(土)に教室生徒一同による奉納狂言があります。今年で6回目になりますが、地域に根付いた活動として、誇りを持って臨みます。地域の多くの人に狂言が持つ大らかさと可笑しさを伝えられたら嬉しいです。