【かながわ伝統文化こども歳時記】宝井琴鶴さんに聞く!講談と神奈川・横浜の魅力
2024年2月18日、神奈川県をはじめ日本国内に伝わる芸能や遊びに触れる「令和5年度 かながわ伝統文化こども歳時記」が開催されました。今回は子ども向けワークショップの講師を務めた横浜市出身の講談師、五代目宝井琴鶴(たからいきんかく)さんにお話を伺いました。
トップ画像 提供:五代目宝井琴鶴
引っ込み思案だった少女が講談師に
今年は神奈川県立青少年センターを会場に、館内5つのエリアで6つの切り口から伝統芸能や伝承遊びの魅力を紹介。琴鶴さんは、「発見、体験!ニッポンの伝統芸能」の講談ワークショップを任されました。
―昨年に続いての講談ワークショップでしたね。
琴鶴 今年は小学4~6年生の男女5人が参加してくれました。全員、講談は初めてでしたが、一本の作品を読み分けて全員で完成させることに。3回のおけいこを経て、成果発表会に挑みました。
―前回の題材は、会場の小田原にちなみ「曽我兄弟」でしたが、今回は?
琴鶴 私の師匠である宝井琴星(たからいきんせい)原作の「踊場の由来(おどりばのゆらい)」を基に台本を書いてきました。寄席は通常30分で一席ですが、今回は10分間と短め。「横浜伝説 踊場の由来」と題した、横浜市営地下鉄ブルーライン踊場駅近くにある猫の慰霊塔にまつわる話です。
―参加者は横浜市内の小学生とのこと、幼少期の琴鶴さんと同じですね。
琴鶴 はい、でも私は皆さんよりおとなしくて引っ込み思案だったかも(笑)。ただ、読書は好きで国語の音読もほめられたことがあり、自信をもって取り組んでいました。
―講談との出合いも気になります。
琴鶴 両親が講談好きで、師匠の琴星と親しかったのです。中学生になって「朗読」が習いたくて教室を探したものの、見つからず。ならば講談はどうかと勧められて、「宝井講談修羅場塾」に入会しました。塾ではダントツの最年少でしたが、得意な音読を磨いて何か表現したいという思いで大人に交じって学びました。
―その後はすんなりと講談の道に?
琴鶴 いいえ、大学に進んで農業系編集部に就職しました。読み書きが好きだったので、編集ライターになれると思って。ところが実際は営業職、農業本を紹介・販売するために全国の農家を訪ね歩きました。そんな毎日の中で趣味程度に続けていた講談の魅力に気が付いて、「講談なら自分で物語を創作したり、朗読したりできる」と。改めて、師匠の琴星に入門を志願しました。
講談で身に付く 2つの会話術
琴鶴さんは入門して前座修行の後、2010年6月1日に二ツ目、2019年10月14日に真打昇進されました。古典から新作まで幅広く、150以上のネタを持っています。
―32年ぶりに復活した名跡「五代目宝井琴鶴」を継いでから4年、講談の魅力をどのように感じていますか?
琴鶴 宝井派入門から約18年続けている、子ども向け講談ワークショップの経験から、3歳頃からの「言葉あそび」にお勧めしたいです。張り扇で釈台を叩いてパパンと調子を取りながら声を出すって楽しいんです。また、講談師は自分で台本を書く脚本家であり、語り聞かせるニュースキャスターでもあります。「伝える力」と「パフォーマンス力」が磨かれるので、人前での対話スキルも上がると思います。
―講談師は、知れば知るほど奥深いですね。
琴鶴 役割も題材も幅広いですから。講談には500年の歴史があり、演目数は約5000とも。講談師は、古くは平安時代の史実から歴史上の人物、外国の歴史・最新ニュース・小説などを面白くアレンジして、巧みな話芸でうそを本当のように語り尽くす達人なのですよ。
五代目宝井琴鶴の新作「クリミアの天使 ナイチンゲール」(出典:YouTube「宝井琴鶴 自宅待機講談会」)
伝統を生かして かながわの魅力を伝える
江の島、鎌倉、三浦半島など神奈川県をテーマにした講談も多い、琴鶴さん。生まれ育った横浜市には特に思い入れがあり、多面的な魅力を感じているといいます。
―琴鶴さんにとって、地元・横浜とは。
琴鶴 港町で異文化スポットというおしゃれさだけでなく、下町っぽいところや働く人が集う場所というディープな印象。歴史的にも注目すべき街だと思っています。横浜をはじめ、神奈川県には古くからの風習や言い伝えが多いんです。長い目でそれらの伝承を掘り起こしていきたいとも思っています。
―6月23日には「宝井琴鶴 神奈川をよむ(シリーズ第9弾)」が控えていますね。
琴鶴 今回の演目は、「浦島太郎」。全国各地にある浦島太郎伝説の一つが、横浜市神奈川区にも存在していることに着想を得ました。どんな台本になるか楽しみにしていてください。
講談ワークショップを終えて
―今年のこども歳時記も盛況のうちに幕を閉じました。最後に講談ワークショップに参加した子どもたちに一言お願いします。
琴鶴 まずは参加してくれてありがとうございました。成果発表会に向けて意見を出し合いながら励むことができてよかったです。この講談との出合いを大切に! ぜひ一度、生の講談も聴きに来てください。
2024年は土台固めとして精進し、新しい題材も探していきたいという琴鶴さん。来年の「こども歳時記」と合わせて、神奈川県にちなんだ新作講談にも期待しています。
文/志村麻衣(編集ライター)
《五代目宝井琴鶴》
講談師。講談協会所属 真打。神奈川県横浜市生まれ。
幼い頃より講談に触れ、中学生になると宝井講談修羅場塾に通い始める。2006年4月1日、宝井琴星に入門し宝井琴柑となる。2010年6月1日に二ツ目、2019年10月14日に真打昇進し五代目宝井琴鶴を襲名。
・2024年5月11日(土)14:00「神奈川華高座」 横浜西公会堂 問い合わせ 090-2747-4461(佐藤)
・2024年6月23日(日)14:00「宝井琴鶴 神奈川をよむ」 横浜にぎわい座 野毛シャーレ 横浜にぎわい座チケット専用電話045-231-2515
《令和5年度 かながわ伝統文化こども歳時記》 ※終了しました
・日時 2024年2月18日(日)10:30~16:00
・会場 神奈川県立青少年センター〔神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘9-1〕
・公式リンクサイト:こちら